2018年6月、遂に御大が降臨した。そう、サー・ポール・マッカートニーが『カープール・カラオケ』にやって来たのだ。
ご存じない方のために一応説明しておくと、『カープール・カラオケ』とは英国出身の俳優でコメディアンのジェームズ・コーデンがホストを務める深夜トークショー『ザ・レイト・レイト・ショー』(米・CBSテレビ)の中の1コーナーだ。
ジェームズ・コーデンがブルーノ・マーズやアデルなどのトップアーティストたちとクルマに相乗りしながらノリノリで歌いまくるこのコーナーの動画は、スーパーボウルのハーフタイムショーよりも多くの視聴者を国内外から獲得していると言う。
これまでもロッド・スチュワート、スティーヴィー・ワンダー、エルトン・ジョンといった大御所が出演してきたが、今回はそのどの回とも違っている。
今風の言い方だとまさに神回だ。
この番組で、ポール・マッカートニーはジェームズ・コーデンと共に故郷リバプールを訪れ、ペニー・レインや行きつけだった床屋、幼少期に住んでいた家を訪問。ジョン・レノンと曲を作ったり、リハーサルしていたという部屋で「シー・ラヴズ・ユー」にまつわる父親との思い出を語ったかと思えば、クルマの中では「レット・イット・ビー」のエピソードを披露してジェームズを涙ぐませた。
また、ポールの姿を見つけた街の人たちの反応がとても温かいのも、ほのぼのとしていてとてもよい。リバプールの人たちにとって、ポールがどんな存在なのかが垣間見える微笑ましい映像だ。
中でも僕が最も感慨深かったのは、放送当時75歳のポールが「ホエン・アイム・シックスティ・フォー」を歌うシーンだ。この曲がリリースされたのは彼が24歳の時だが、曲を書いた時はまだ10代だったらしい。
だが、恋人に向かって “Will you still need me… when I'm sixty-four?” と遠い未来のことを歌ったのも今は昔。ポールが64歳を過ぎて、早くも10年以上の月日が流れた。
こうして『カープール・カラオケ』史上最も感動的で感傷的な映像を見せてもらったお陰で、僕自身も長かった20世紀をやっと卒業できるような気がしている。ポール・マッカートニーがこの番組に出演して、自身の人生を振り返るということは、それほどの事件なのだ。
ただ、一つだけ残念なことがある。この回ポールが披露したのは、リリースしたばかりの新曲「カム・オン・トゥ・ミー」を除いて、全てザ・ビートルズ時代の楽曲だ。
収録の舞台がリバプールだったから当然かもしれない。でも、僕たち世代が音楽を聴き始めた頃には、既にザ・ビートルズは解散していたし、ポールはソロとして、あるいはウイングスとして、あるいは他のスターとデュエットしたりと、それはそれは精力的に活動していた。
ポールが長いキャリアを終える時、ザ・ビートルズ解散後の活動がまるで無かったかのように「ザ・ビートルズのポール・マッカートニー」として人々の記憶に刻まれるのだとしたら、それはそれで残念でたまらない… なんて、僕は思ってしまうのだ。
※2018年7月9日に掲載された記事をアップデート
2019.06.18
YouTube / The Late Late Show with James Corden
YouTube / PAUL McCARTNEY
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