2013年 7月31日

小泉今日子「潮騒のメモリー」今日を生きる今日子さんの時間を超越した奇跡の一曲

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天野春子(小泉今日子)のシングル「潮騒のメモリー」がリリースされた日
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小泉今日子が演じた、朝ドラ「あまちゃん」主人公の母親・天野春子


NHKの朝ドラ(連続テレビ小説)は作品によって観たり観なかったりの私だが、唯一、初回から最終回まで、ほぼ毎朝TVの前にかじり付いて観ていた作品がある。2013年度上半期(4月~9月)放送の『あまちゃん』だ。

大友良英作曲の軽快なテーマソングと、主役・天野アキを演じる能年玲奈(現・のん)のキラッキラした魅力にヤラれたのだが、もう一つ忘れちゃならない大きな理由があった。アキの母親役・天野春子を演じたのが、われらが小泉今日子だったからだ。

同世代(私は1学年下)を代表するアイドル・KYON²が、女子高生の母親役になる…… 当時47歳だから、別に母親を演じても不思議じゃないのだが、その時点でなんかもうこれは「観なきゃいかん作品」になっていた。うまく説明できないが、同じ気持ちになった同世代の方は多いんじゃないだろうか。

ドラマは2008年夏、春子が「母危篤」の報せを受け取り、娘のアキを伴って24年ぶりに故郷・岩手県北三陸市袖が浜(架空の街)へ帰るところから始まる。春子は1984年、故郷を捨て、家出同然で上京したのだった。

ところが…… 実家に帰ると、母・夏(宮本信子)はピンピンして海女の仕事をしていた。春子の幼なじみ・大吉(杉本哲太)が「北の海女」の後継者不足を憂いて、春子に継いでもらおうとウソの報せを送ったのだ。

春子は夏と再会早々大ゲンカ。東京に戻ろうとするが、アキは海女たちの生き生きとした姿を見て「私が海女になる!」と宣言。

暗い性格で、学校にもなじめなかったアキの言葉に驚いた春子は、娘が少しでも明るくなってくれたらと、アキとともに故郷への移住を決意する…… と、まぁ、これが、ドラマ前半の「故郷編」冒頭のストーリーだ。

驚いたときの方言「じぇじぇ!」が流行語になったり、1984年のままになっている“春子の部屋” が「私の部屋にも赤いラジカセがあった!」と話題になったり、随所に小ネタも盛り込まれ、本作は普段朝ドラを観ない層まで巻き込む話題作となった。

そして、ドラマが進むにつれ、当初からワケありな感じだった春子の過去も明らかになっていく。実は春子は24年前、アイドルを夢見て故郷を飛び出したのだった。

またアキも、アイドルを夢見る地元の美少女・ユイ(橋本愛)と親友になり、地元の観光PRのため、二人でアイドルユニット “潮騒のメモリーズ” を結成する。

80年代アイドル歌謡のパロディソング「潮騒のメモリー」


そして…… たいへんお待たせしました! ここでようやく本題。彼女たちが持ち歌としてステージで歌う曲が「潮騒のメモリー」である。

劇中の説明によるとこの曲は、海女を主人公とした映画『潮騒のメモリー』の主題歌として1986年に大ヒットした、という設定。実際の作詞はドラマの脚本を担当した宮藤官九郎。作曲は劇伴担当の大友良英とSachiko Mの共作だ。

この歌詞がまっこと秀逸で「来てよ その火を飛び越えて」という出だしは、ドラマにもそういうシーンがあり、百恵・友和コンビで映画化された三島由紀夫『潮騒』を思い出すが、続く歌詞は文学的世界とはまるで関係ない方向へ。

「砂に書いたアイ ミス ユー」だの「ジョニーに伝えて 千円返して」だの「私はギター Aマイナーのアルペジオ」だの「早生まれのマーメイド」(KYON²は2月生まれ)だの、どこかで聴いたような、ついツッコミを入れたくなる歌詞がズラズラ並ぶ。

だがそもそも、元の映画自体が「荒唐無稽で斬新な80年代アイドル映画」という設定なので、これでいいのだ(笑)。

要するにこの「潮騒のメモリー」は “架空の映画の主題歌” であり、“『あまちゃん』の劇中歌” であり、歌謡曲の有名なフレーズをコラージュした80年代アイドル歌謡の “パロディソング” でもある、というわけだ。

で、ここからがまたややこしい。ドラマ前編の「故郷編」において、この曲は映画の主演女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が歌った曲、という設定になっていた。

だが、アキが海女から一転、アイドルを目指す後編の「東京編」では、衝撃の事実が明かされる。実は、鈴鹿は極度の音痴で、代わりにレコードでこの曲を歌っていたのは、若き日の春子(有村架純)だったのだ。

アイドルを目指していた春子は“影武者”を演じたことでデビューの夢を断たれ、アイドルになるのを諦めた、というのである。じぇじぇじぇ!!

以下『あまちゃん』の話は割愛するが、ドラマをご覧になっていなかった方は、この曲がそんな設定のもとに作られた「メタ歌謡曲」であることを念頭に置いて、この後の文を読んでいただけると幸いだ。

評判を呼んでCDリリース、オリコン初登場2位、そして紅白歌合戦出場


この「潮騒のメモリー」、劇中で何度もリピートされたので「CDは発売されないの?」という声がNHKに殺到。2013年7月31日、前編終了のタイミングで「天野春子」名義にてビクターからCDシングルがリリースされた。

劇中で「鈴鹿ひろ美の影武者」を務めていたのは有村架純だが、ドラマで使われた歌声もこのCDも、声の主は小泉今日子だ。つまりKYON²は現実でも、有村の「影武者」を演じたことになる。

「1986年の大ヒット曲」という設定なので、初回盤はアナログEPを模した紙ジャケ仕様に。CDを収納する袋が、アナログ時代のビクターレコードの収納袋を彷彿とさせるデザインになっていたのは個人的に嬉しかった(ジャケットは鉄拳が描いた海女の後ろ姿+太陽の絵)。

KYON²は、配信限定で何曲か新曲を出してはいたが、シングルCDリリースとなると久しぶりで、1999年8月発売の「for my life」以来、実に14年ぶりのことだった。

本曲は2013年8月12日付のオリコンチャートで初登場2位に輝き、「優しい雨」以来20年ぶりのトップ3入りという快挙も達成…… いやいや、“86年発売” なのだからマイナス7年ぶりか…… ン?

それはともかく、ドラマ人気もあったにせよ、小泉今日子が “新曲” を出してくれたことは、同世代としては何より嬉しいことだった。そりゃ買いますよ、買いますとも。このヒットは間違いなくKYON²の勝利だ。

暮れの紅白歌合戦では、潮騒のメモリーズ(能年玲奈・橋本愛)→天野春子(小泉今日子)→鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)という「潮騒のメモリー・スペシャルメドレー」も実現した。正式出場にはカウントされていないが、KYON²にとって25年ぶりの紅白出演となった。

不可能を可能にした小泉今日子の“キュートな声質”


そして、時間の概念を超えたこの曲は、まさに小泉今日子こそ歌うべき曲だった。考えてみればKYON²は「1986年にヒットしたという設定のアイドルソングを、17歳の歌声で歌ってくれ」と2013年、47歳のときに依頼されたのである。こんな無茶振りがあるか?

ところが、KYON²はその不可能を可能にしてみせた。なぜなら、彼女の声は、ほとんど年を取っていないからだ。もちろん初期と今とでは、技術的な部分での差はあるけれど、KYON²でなければ醸し出せない “キュートな声質” は本質的に変わっていない。これは奇跡と言っていいだろう。

それを自分の耳でも実感したのが、今年2月にスタートしたデビュー40周年ツアー『KKPP(Kyoko Koizumi Pop Party)』である。31年ぶりの全国ホールツアー。私は3月20日、東京初日の中野サンプラザ公演に足を運んだ。

驚いたのは、年を重ねるとキーを下げる歌手が多い中、KYON²は全曲オリジナルキーで歌っていたことだ。

かっけー! そして歌声も往時と変わらずキュートなまま。なんなんだ、この現役感は?

ライヴの内容については、本稿初出時にまだツアーが終わっていないのでここでは伏せる。だが、数々のヒット曲を、発売当時と変わらない歌声で、2時間ほぼノンストップで歌い続けるKYON²の姿を観ていたら、月並みな表現で恐縮だが、なんだか胸が熱くなってきた。

「潮騒のメモリー」も、もちろん歌った。「47歳のときに、17歳の声で歌った曲」を、56歳の小泉今日子が、まったく同じ声で歌ったのである。…… この感動、わかりますよね?

MCでKYON²は言った。

「過去と未来は縦に並んでるんじゃなく、横にも並んでいて、50代の私の横には、10代・20代・30代・40代…… 60代・70代の私がいる。今の私が一歩前に踏み出すことで、過去と未来の私も、一緒に一歩前へ踏み出せる気がするんです」

―― そう、過去の自分も、未来の自分も、突き詰めれば、すべて「今日の自分」なのだ。今日を一所懸命生きる今日子さん。あなたが元気でいる限り、自分も年を取らない気がします。50周年も期待してますよ、マジで!

40周年☆小泉今日子!

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2022.03.29
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カタリベ
1967年生まれ
チャッピー加藤
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