9月1日

深読み!河合奈保子「けんかをやめて」は竹内まりやが企んだ秘密計画の第一歩だった?

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河合奈保子「けんかをやめて」は、本当に傲慢ソング?


河合奈保子「けんかをやめて」は、1982年9月1日にリリースされた10枚目のシングル曲だ。作詞・作曲は竹内まりや。編曲は清水信之である。

八重歯がチャームポイントで、大きな瞳と黒髪から放たれる清純さとは裏腹に、衣装の下にはグラマラスなボディを隠し持つというギャップが河合奈保子の魅力である。

さて、ネットで「けんかをやめて」を歌詞検索してみると、楽曲の主人公である女の子を蔑むコメントの数々に驚かされてしまう。本当にそこまで「“傲慢な女ソング” なのか?」…と僕は疑問に思ってしまった。

確かに、主人公の女性が二人の男性に思わせぶりな態度を取ったために起こった出来事の曲なんだけど、ここに至るまでの状況を想像することでもう少し見方が変わるんじゃないかな? ―― というのが僕の見立てである。

では早速、深読みに取り掛かろう。

歌い出しから深読みする “けんか” の背景


 けんかをやめて 二人をとめて
 私のために争わないで
 もうこれ以上

冒頭の歌詞一行目「♪けんかをやめて 二人をとめて」が最初にして最大の注目ポイントだ。

これは、けんかの真っ最中で周囲の人に「二人のけんかを誰か止めて! 誰か!」と彼女が助けを求めている場面。「二人をとめて」とは、自分ではなく他者に依存した言葉である。もしこの状況を自ら止めようとしていたら、歌詞は「二人とも! もう、けんかはやめて!」という自分主導で仲裁する言葉になるだろう。

後の歌詞からわかるけれど、自分が原因なのに人任せにする… この辺りのニュアンスが、世の中に “傲慢” と思わせた原因に違いない。

ちなみに、女性を前にして二人の男性がけんかにまで発展するシチュエーションはなかなか無い。しかもこれが高校生とか大学生、社会人であれば尚更だ。いくら同時に恋心を抱いてぶつかったとしても分別がある。小学生ならすぐにけんかしそうだけど、ひとりの女性を奪い合うなんておませな小学生はそういない。

すると、この “けんか” は必然的に男女の性を意識し始めた中学生の話だと推察できる。つまり恋愛に不慣れな女の子と男の子の話なのだ。

中学生の女の子は同い年の男の子に比べて何倍も大人


まずこのけんかを始めた男の子… ひとりはクラスメイトの幼馴染くん、そしてもうひとりをクラスで一番勉強ができる秀才くんとする。

いままで一緒に遊んでいたけれど、あるとき胸が膨らんで女性らしい体つきに成長していた彼女に気づいてしまいドキっとした… それが幼馴染くん。

方や、いつも定期試験で上位を争う女の子。あれっ? 彼女、眼鏡をコンタクトに変えたのか。何だろう、この気持ち… それが秀才くんだ。

つまり、どちらの男の子も彼女を女性として意識する素地があるわけだ。そこに主人公の女の子がアプローチしてくるのだからたまらない。

幼馴染くんに「今日一緒に帰ろうよ」と腕を組んできたり、秀才くんに「ここの問題ちょっとわからないんだけど…」なんて肩を寄せてきたらどうだろう…『魔女っ子メグちゃん』じゃないけれど、女の子に何の免疫もない中学生男子なんてイチコロのはずだ。

 ちがうタイプの人を
 好きになってしまう
 揺れる乙女心
 よくあるでしょう
 だけどどちらとも
 少し距離を置いて
 うまくやってゆける
 自信があったの

そう、今も昔も、中学生の女の子は同い年の男の子に比べて何倍も大人なのだ。

サビが表す “純粋な女の子の気持ち”


さて、けんかが始まった場面… それは学級委員を決めるホームルームのときに起こったはずだ。

ふつう学級委員は男子、女子と1名ずつ選ばれる。故に、幼馴染くんと秀才くんが直接対峙するとしたらこの場面しか考えられない。二人の仲を同じクラスの皆に知ってもらう絶好の機会を逃す手はないからだ。幼馴染くんと秀才くんは一歩も後に引けない状況だろう。

これを「たかが学級委員じゃん…」と笑ってはいけない。彼らはすでに彼女の積極的アプローチによって初めての恋に燃え上がっているのだ。

「あいつは俺と一緒に学級委員をやりたいはずだ!」
「いや俺の方がぴったりだ!」
「あいつは俺のものだ!」
「いや、気が合うのは俺の方だ!」

… という泥仕合から取っ組み合いのけんかである。このときようやく彼女は自分のしていたことの重大さに気づくのだ。

もう一度歌詞を見直してみる。冒頭にあるサビの一節が状況説明で、その後に続く歌詞は全て彼女の心情だ。

彼女は男の子から見たら、きっと大人びていて魅力的なのだろう。でもそこはまだ中学生… 実際の恋愛に関しては未熟な女の子だったのだ。

悪い子じゃない。何度もリピートするサビのフレーズが、純粋な彼女の気持ちを表している。

作詞・作曲した竹内まりやが歌うと傲慢に聴こえる理由とは?


これを歌った当時、河合奈保子は19才。透明感がある伸びやかな声を駆使して歌詞に感情を込める素晴らしい歌唱だ。また、動画サイトに映る彼女は、物憂げに首を小さく振り、一節歌うごとに斜め下に視線を落とす “伏せ目仕草” で完璧な世界観を演出している。

彼女の歌声が、この曲を懐かしく遠い青春の思い出のように感じさせるのは、彼女自身が持つ清純なイメージによって、歌詞に含まれる女の子の身勝手な部分をきれいに洗い流しているからだろう。歌詞と歌唱する本人とのギャップに驚かされる。

ちなみに、楽曲提供をした竹内まりやは1987年リリースの『REQEST』でこの曲をカバーしている。このとき30歳。ピュアな河合奈保子と違って酸いも甘いも知ってしまった竹内まりやの歌唱だと、“大人の女” が滲み出てしまい、この女の子の印象が微妙に変わってしまう。

竹内本人も「私が歌うとひどく傲慢な女性に聴こえるのは何故だ(笑)」と自虐ネタとして語っているけれど、この一連の流れは竹内まりやが企んだ「アイドル脱却計画」の伏線回収だと僕は推察している。それはこの後に続く深読みで明らかにしてみせよう。



「けんかをやめて」で見せた、作家・竹内まりやの存在感


80年代前半… キュートな顔立ちからアイドル歌手としての芸能活動が絶えず、番組内で歌唱させてもらえない仕事も引き受けなければならなかった竹内まりや。自分の希望する活動とのギャップから、とうとう体調を崩し入院する事態にまで発展した。それを救ったのが山下達郎である。彼との結婚が大きな転機になったことは言うまでもないだろう。

本来の自分を取り戻す… 結婚を理由にしてメディア露出を無くし、作詞・作曲活動に力を入れることは、世の中に浸透した竹内まりや=アイドル歌手という図式を払拭する手立てとしても好都合だったに違いない。

「駅」、そして「シングル・アゲイン」など、後に続く不倫や色恋沙汰を題材にした楽曲の数々は、“男女の恋愛は一筋縄ではいかないもの” という作家・竹内まりやとしての恋愛観だ。アイドル歌手として竹内まりやを認識していた多くのファンは、作家としての彼女から繰り出される恋愛ドロドロの楽曲にギョッとしただろう。

そう、これは “アイドルじゃない竹内まりや” を世に知らしめるためのカウンターパンチだったのだ。

そして今回の表題曲「けんかをやめて」が、作家・竹内まりやとして狼煙を上げた記念すべき最初の楽曲であり、そんな裏テーマを知ってか知らずか重責を担った河合奈保子は、その大役を見事務め上げたのである。

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2022.09.01
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カタリベ
1967年生まれ
ミチュルル©︎たかはしみさお
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