山崎ハコの出発点ともいえる「望郷」からライブはスタート
山崎ハコが、2日後に誕生日を迎える5月16日、東京・有楽町マリオン内にあるヒューリックホール東京で、バースデーライブ『これが縁(EN)です』を開催した。ヒューリックホールは映画館を改装して2018年に誕生したキャパ約900人のシックなホール。開演間近のエントランスには、おそらく長い間彼女の歌を聴き続けてきたと思われる年代の人々で溢れていた。
客席に入ると小さめの音で洋楽曲が流れていることに気づく。間もなく山崎ハコ自身の声でナレーションが始まり、このBGMが彼女自身の好みで選曲されたピンクフロイドのアルバム『炎〜あなたがここにいてほしい』(1975年)の曲であることが伝えられた。さらにここからはテレビ番組の曲、『ブーフーウー』『鉄腕アトム』『ひょっこりひょうたん島』などの1960年代の子供番組や「ザ・ガードマン」などのドラマ主題歌がメドレーで流れた後に、シンプルなオルゴールの「望郷」のメロディで会場が暗転していく。
開演前のBGMで、客席に九州時代の山崎ハコが耳にしていた音楽をさりげなく追体験させてからステージにつなぐ演出に感心しているうちにステージが明るくなり、拍手に迎えられて山崎ハコが登場。センターに置かれた椅子に座り大きめのギターを構える。1曲目はオルゴールでも流れていた「望郷」。山崎ハコのデビューアルバム『飛・び・ま・す』の1曲目におさめられている、まさに山崎ハコの出発点ともいえる曲だ。
ギターを持ち替えて2曲目の「織江の唄」を聴かせた後、1曲目で弾いたギターは安田裕美のもので、持ち替えたギターも自分には大きいけれど井上陽水のアルバムで安田裕美が弾いていたのと同じ音のギターがいい、とデビューの時に買ってもらったものだと言う。「ひとり唄」「ヨコハマ」と初期の曲が続いた後、小型で弾きやすいギターに持ち替えて「ざんげの値打ちもない」を歌う。これは北原ミレイのオリジナルテイクには無かった4番の歌詞が入った完全版で、作詞者の阿久悠の希望もあって山崎ハコがカバーした曲だ。
野外劇「新宿番外地」の主題歌として書かれた「新宿子守唄」を披露
PHOTO:©2026 金井恵蓮
コンサートの中盤には3人のゲストがステージに花を添えた。2001年に初演された五木寛之原作・脚本の舞台「旅の終わり」で山崎ハコと共演した歌手の松原健之が、彼女から提供された「僕のうた」を披露。これに続き、「旅の終わり」で主役を務めた中村梅雀がベーシストとして自作曲「SOYOGI」を演奏。さらに山崎ハコからリクエストされた「MY WAY」で美声を披露する。
そして山崎ハコが2008年に劇団椿組の新宿花園神社野外劇『新宿番外地』の主題歌として書き下ろした「新宿子守唄」を披露した後に、1991年に下北沢本多劇場で上演された「クレヨンの島」に山崎ハコを俳優として起用した渡辺えりが登場しベッド・ミドラーの「ローズ」を日本語詞で歌い上げる。
山崎ハコと安田裕美との縁の深さ
ステージの後半は「空の舟」「ごめん…」「BEETLE」「会えない時でも」と2000年代の曲が披露されていった。バースデーライブということもあって、この日のステージは山崎ハコのライブとしては特別なものだったかもしれない。けれど、ステージ全体を通して “縁(EN)” というテーマが、幾重にも重なり合う形で提示されていたことが印象的だった。
例えば、ゲストからは山崎ハコと演劇との縁が浮かび上がっていったし、そこには「織江の唄」に象徴される五木寛之との縁も重ね合わされて伝わってきた。さらに「懺悔の値打ちもない」では阿久悠とのけっして浅くはない縁が感じられた。さらに山崎ハコがステージで持ち替えた3本のギターには、なによりも山崎ハコの公私ともに大切なパートナーであった安田裕美(2020年没)への変わらぬ思いが溢れていた。いや、もっと言えば、この日のステージ全体が山崎ハコと安田裕美との縁の深さを伝えるものになっていたと思う。
実を言えば、僕は1曲目の「望郷」からステージに安田裕美の気配を感じていた。曲によって、山崎ハコが弾くギターにあわせるように安田裕美のギターや、彼を中心としたアンサンブルの音源が使われたこともあったけれど、なによりも山崎ハコの歌の中に、彼の死を受け入れながらもその魂と一緒に先に進もうとする意思を強く感じたからだろう。
その意思は彼女の圧倒的な歌からだけでなく、この日の衣装替えで見せた山崎ハコのイメージを裏切るようなスカートドレスやアンコールでのヨウジヤマモトのスタイリッシュな衣装からも伝わってきた。
PHOTO:©2026 金井恵蓮
山崎ハコはまだまだ先に進んでいく。今年の8月30日には渋谷『PLEASURE PLEASURE』で笛吹利明との『1975デビューリサイタル CD発売記念』ライブ。さらに10月〜11月に福岡・大阪・横浜で行われるライブ「⼭崎ハコ ライブ2026 ーこれが縁ー」でも、次のステップにいる山崎ハコと出会うことができるに違いない。
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2026.05.22