1976年 5月25日

【山崎ハコ 最新インタビュー】③ アルバム「綱渡り」歌は表現じゃない 心を出すだけ

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2026年2月18日、山崎ハコの『綱渡り』(デラックス・エディション)がリリースされた。デビューアルバム『飛・び・ま・す』から7か月後の1976年5月に発表されたセカンドアルバム『綱渡り』。

新たに発見されたオリジナル・マスターテープからリマスタリングされたCDに加え、1976年に行われた新宿ロフトのオープンセレモニーのライブ音源7曲、さらに彼女のデビュー前のデモテープからの「許されざる恋」「捨てた友達」の2曲を収めたDISC2がプラスされた。

そう、山崎ハコのデビュー50年を機に、改めて彼女の原点を振り返るにふさわしいカタログになっている。今回は『綱渡り』のリリースを記念して、山崎ハコ本人にインタビューを試みた。この前編ではレコーディングのエピソードを中心に話を伺った。

「綱渡り」は家で歌っている時と同じように歌えた


『綱渡り』に収められている10曲はすべて山崎ハコの作詞作曲によるもので、『飛・び・ま・す』と共に、彼女がデビュー前から書き溜めていた楽曲によって制作されている。さらに、このエレック時代の2枚には、その後の山崎ハコにイメージつきまとっていった暗さや土着性といったイメージに留まらない、豊かな音楽的感性を再確認することができる魅力がある。

山崎ハコ(以下:山崎):その後、どんどん暗いと言われるようになりましたけどね。でもこの2枚の頃はキラキラ輝いていて、好きなことをやっていたんです。コンサートでも、弾き語りで、キャパ2,000人の東京厚生年金会館大ホールができるところまでは行ってましたから。

『綱渡り』を聴いて強く感じるのは、短期間で発表されたにもかかわらず、山崎ハコの歌唱や楽曲の説得力が格段と深いものになっていることだった。この間に何があったのかを聴くと、“ライブをものすごくやった” という答えが返ってきた。初めてのレコーディングで彼女が強く感じたのは、ライブとのギャップだったという。



山崎:スタジオでは音が全部吸われてしまうし、ヘッドフォンでやる。リバーブとかも自在でしょ。かけてもかけなくてもどうでもいい。後からでもできちゃうんですよね。あと、自分で弾き語りのデモテープを作っているので、そのイメージに近づけたくて、ギターの音をもっとくださいとか、他の楽器の音はあまりいらないですと伝えたかったけれど言えなかったり、とまどいがありました。

嬉しかったこともあった。デモテープはギターの弾き語りで作っていたが、彼女のイメージの中ではドラムスやベースの音がなっている曲もあった。そうした曲に実際にドラムやベースが入ったアレンジをされる気持ちよさを感じたという。

山崎:でもコーラスが入ると歌が止まってしまったり、自分の中に無いものが来ると、歌う時に戸惑うんです。歌だけが演奏の中に混じらないような気がして。

デビューアルバム『飛・び・ま・す』の録音を終えて、最大の違和感はブースで1人で歌入れをしたことだった。

山崎:スタジオよりも家で歌う方がはるかにうまく歌えると感じて、どうしてああいうふうにできないんだろうと思った時に、そうだ、ライブのように一緒にやってないから、どうしても歌と演奏が離れてしまうんだ、と気づいたんです。

次のレコーディングではみんなと一緒に録りたいという彼女の提案に対するスタッフの回答は、“それをレコーディングでやるのは大変だよ。ちょっと誰かがミスったら、もう一度最初からお願いします、ということになるから時間もお金もかかるし。そんなに予算はかけられない” というものだった。そこで彼女は、事前に別のスタジオでプレイヤーと一緒にリハーサルをしてからレコーディングに臨むという方法をとることにした。レコーディングには『飛・び・ま・す』に参加していた佐藤準、安田裕美に加えて、ドラムの見砂和照、ベースの藤井真一、ギターの松原正樹、笛吹利明らが参加している。

山崎:それが良かったんですよ。家で歌っている時と同じように歌えたと思ったし。しかも演奏してくれる皆は上手だし。ほんとうに楽しかったです。

『綱渡り』以降、山崎ハコのレコーディングはすべて演奏と歌を一緒にレコーディングする “同録” で行うことが定着していく。こうしたレコーディング方法は、それぞれの音を別々にレコーディングして組み立てていくというレコードづくりの流れには逆行するもので、当時、今どき同録するのは美空ひばりさんとハコだけじゃないかと言われたりもしたようだ。



山崎:同じ同録でも、『綱渡り』のレコーディングでは演奏の音がかぶらないようにするためのブースや、つい立ても無かったんです。みんなで1か所に集まって、そこにマイクも立っている。だから、“今の歌は良かったけど、ギターが1か所ちょっとミスってる。でもOKだよね” “はい、OKです” ってことになるんです。みんなの出した音が被ってるから、個人的なやり直しの差替えがきかない。それでみんなが緊張している。だから面白かった。若さと勢いとがそのまま出てくるし、音楽に対して真っすぐというか、いろんな加工をしないというか、ただマイクで拾ってくれればいいというかね。

それは、録音技術を駆使することによって音楽を作り上げていこうとするのではなく、そこにある演奏を記録するという、本来の録音の在り方を採用していこうとする意思表示でもあった。“そうじゃないと、そこに生きている自分が居ない” と山崎ハコは言い切った。

山崎ハコが『綱渡り』で同録にこだわったのは
、家で歌っている時のように歌うことが大事だったからだ。それは、彼女にとって歌うということが、けっしてメロディや歌詞をリスナーに伝えようとすることではないからだ。山崎ハコは “曲を作る時には最初に映像がある” と言う。だから、彼女にとって歌うということはその時に見た映像を再現することなのだ。

山崎:自分だけに見えた景色は歌っている時にしか見えないから、その景色を再現するためには歌わないといけないんです。最初に見た映像を見たくて歌っているんです。歌うことによって向こうの壁のスクリーンに映像が見えて来る。私とスクリーンの間に客席があって、その映像が聴いている人に少しでも伝わるといいなと思って歌っています。それは今でもそうなんです。

山崎ハコはコンサート前にいつも自分のレコードの音源を聴いていたという。

山崎:カラオケがない時代だったから歌入りで聴くので、あ、タイミングがずれてるとか自分でわかる。だから、ステージではレコードと同じ歌い方をするので、ずっと歌い方が変わらないんです。自分でレコードとステージの歌い方を変えるのもいやなので。ブレスのタイミングとかテンポとかを再確認するんです。そうするとレコーディングの時の声になるんです。

歌い方を確認することは、歌う時に見えて来る景色が変わらないための方法でもあった。歌詞の中で描かれている物語や歌の巧みさを伝えようとするのではなく、自分の心を伝えたいと歌っている。そのためのレコーディング・ノウハウの原点となったのがセカンドアルバム『綱渡り』だったのだ。

山崎:コンサートでもそうなんですけど、私は “あなたに届けたい” とは思っていないんです。それはプロとしてダメなんだけど、自分の気持ちをこういうふうに表現したい、なんて全然思っていないんです。私は “こういう人間がいるよ" って言いたいだけなんです。“世の中にはこんな変なことを考えている奴がいて、こんなことを思っている” って。だから、歌詞を届けたいわけでも、曲を届けたいわけでもなく、心を出しているだけなんです。せっかく歌い手になっているので、この感覚が面白いと思っているんですよ。


ーー インタビューの後編では、多忙を極めた当時の心境から現在に至るまでの思いを伺っています。


Information
綱渡り(デラックス・エディション)


衝撃のデビュー作から僅か7ヶ月、全曲の作詞作曲を自ら手掛けた1976年の名作2ndアルバム『綱渡り』を、オリジナル・マスターテープからリマスター!1976年新宿ロフトオープン時の貴重なライブ音源と、1974年のデモ音源をDisc2に追加収録した50周年デラックス・エディションとして初リリース。
▶︎ 価格:3,850(税込)
▶︎ 仕様:UHQCD 2枚組
▶︎ 山崎ハコ50周年リリース特設サイト
https://hakoyamasaki-50th.ponycanyon.co.jp/

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2026.02.19
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カタリベ
1948年生まれ
前田祥丈
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