6月30日

桑田靖子「バケーション」シティポップファン必聴!アルバムテーマは夏のリゾート

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桑田靖子のサードアルバム「バケーション」発売日
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デビュー40周年を迎えた桑田靖子、6作のアルバムが復刻


2023年、デビュー40周年を迎えた桑田靖子が東芝EMI時代に発表した6作のアルバムが同年6月に復刻された。これまでファーストアルバムの『ファースト・キス』とセカンドアルバムの『ときめき』、そしてサードアルバムの『バケーション』はいずれも限定生産されていたが、4枚目以降の『ひそやかな反乱』『恋…うっふっふ』『夢がたり』は、今回が初のCD化となる。

そういった記念の年での復刻、定価=税込み1,650円という値ごろ感、何より桑田自身が今も現役ボーカリストとして活躍しているということから、なんと今回の復刻全6作がオリコンCDアルバムTOP300にランクイン! LPチャートでは80年代に何度かTOP100入りしたものの、“CD” でのランクインは初めてとなる。その初動売上はいずれも100枚台ではあるものの、6作を合計すると1,000枚近く、同週のチャートの53位相当となる。ようやく彼女の実力が評価され始めたとも言えよう。

ちなみに2023年7月現在、80年代の桑田靖子の音源で配信されているのはシングルA/B面とアルバムの代表曲をまとめたアルバム『ゴールデン☆ベスト』収録の全30曲のみ。それゆえ、このCDアルバムの復刻はとても貴重だ(歌詞が当時のLPに近いサイズで印刷されているのは有難い。欲を言えば、これだけ素晴らしい音作りなのだから、当時は分からなかったミュージシャンのクレジットも見たかった…)。

夏のリゾートをテーマにしたサードアルバム「バケーション」


その中で “最初の1枚” として個人的におススメしたいのが、今回紹介するサードアルバム『バケーション』だ。本作はデビュー2年目の夏に発売されタイトル通り夏のリゾートをテーマにしたこともあって、良い意味で力が抜けている。大きな期待を背負って本人の歌唱もサウンドも力みまくった1年目も、新人らしからぬ存在感を放っているが、全体の曲想に合わせてリラックスした歌唱の多い本作は、歌声の綺麗なシンガーソングライター系のアルバムに似た聴き心地に近いかもしれない。

作家陣を見ると、1年目に強烈なシングルを放った(作詞:売野雅勇 作曲:芹澤廣明)の「少女A」コンビに加え、「セカンド・ラブ」コンビとなる来生えつこ・たかお姉弟の詞曲が増加。この点は、中森明菜のヒットをなぞっているようにも見えるが、逆に吉元由美や国安わたるを明菜のヒット作よりも先に起用していることから、成功例をトレースしただけではなく、良質なポップスを追求していた制作陣の努力も見て取れる。

他にも、シティポップのキーパーソンでもある浜田金吾(現・濱田金吾)や、アニメや特撮の音楽でカリスマ的存在の鷺巣詩郎が参加していることも、国内外の幅広いリスナーが聴きたくなるフックと言えよう。

アイドル史の中でその意義は大きいマイナー調の片想いソング「あいにく片想い」


以下、順を追って見ていく。フェイドインする1曲目の「恋のスマッシュ」は、テニスのプレーと恋の駆け引きをかけた明るいポップス。デビュー曲と同じ売野雅勇×芹澤廣明コンビだが、アニメ音楽を多数手がける中村暢之によるアレンジも奏功してか、もともとの歌の上手さに加え、ワクワク感が増してくる。

2曲目の「優しくされたい」や4曲目の「そんな二人で」は、夏の穏やかな風を感じさせるミディアム調のポップス。何か大きな出来事が起きるわけでもなく、ともすると地味に映るかもしれないが、じっくり聞くと桑田が押し過ぎず引き過ぎず、ごく自然に歌っているのがよく分かる。これも、前年にない大きな魅力と言えよう。

それでいて、3曲目のような夏のギラギラ感をストレートに歌った元気ソングもあり、女性コーラスグループEVEとスパークしまくった歌唱も良い。

5曲目の「あいにく片想い」は、リゾート系の多いこの中では異質に映るが、抑え気味に切々と歌ったマイナー調の片想いソングという点で、彼女のアイドル史の中でその意義は大きい。



ライブの重要な場面で歌われるエバーグリーンな名曲、「マイ・ジョイフル・ハート」


アルバムのB面にあたる6曲目の「九月が来ても」は、明るいサウンドが夏の終わりをよりいっそう切なく感じさせるアッパーチューン。7曲目「渚のシーズン」と8曲目「夏の手紙」は、その回想録といったところか。前者はドゥーワップ風で夏の陽気さが増すし、後者は振られたことを見守っていた男性からの手紙に胸が締めつけられるというスローバラードで、いずれも夏らしい恋の描写に、鼻の奥がツーンとなるような気持ちになる人もいそうだ。そして、映画のラストシーンを彩ったような9曲目の「Good-bye My Love」、さらに再始動を促すようなパワフルな歌唱が見事な10曲目の「マイ・ジョイフル・ハート」で幕を閉じる。

「マイ・ジョイフル・ハート」は真冬の発売だったが、この流れで聴くと、夏から秋への心の成長を歌ったように聴こえるのも興味深い。今でも、ライブの重要な場面で歌われるエバーグリーンな名曲だ。



当時の桑田は、アイドルらしい笑顔や衣装に対しどこかぎこちなさそうに歌っていたが、それだけ歌で勝負したかったのだろう。だからこそアイドルに限定しない良質なポップスを渇望する人に聴いてほしい。彼女の名作や現役ぶりから、そのうちCDの復刻やストリーミングサービスでの再評価がさらに高まって、“桑田靖子は、売れなくて残念だったね” なんて言葉は時代遅れになりそうな気さえしてくる。


■ アルバム『バケーション』
発売日:1984年6月30日発売
オリコン最高位:(LP)93位
TOP100登場週数:(LP)3週
累計売上:(LP)0.3万枚

(収録曲)
1.「恋のスマッシュ」(作詞:売野雅勇、作曲:芹澤廣明、編曲: 中村暢之)
2.「優しくされたい」(作詞:吉元由美、作曲:国安わたる、編曲:中村暢之)
3.「17(セブンティーン)タイフーン」(作詞:吉元由美、作曲:芹澤廣明、編曲:鷺巣詩郎 )
4.「そんな二人で」(作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお、編曲:馬飼野康二)
5.「あいにく片想い」(作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお、編曲:萩田光雄)
6.「九月が来ても」(作詞:竜真知子、作曲:国安わたる、編曲:馬飼野康二)
7.「渚のシーズン」(作詞:竜真知子、作曲:浜田金吾、編曲:馬飼野康二)
8.「夏の手紙」(作詞:売野雅勇、作曲:浜田金吾、編曲:鷺巣詩郎)
9.「Good-bye My Love」(作詞:来生えつこ、作曲:芹澤廣明、編曲:馬飼野康二)
10.「マイ・ジョイフル・ハート」(作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお、編曲:馬飼野康二)

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2023.08.13
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カタリベ
1968年生まれ
臼井孝
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