24時間テレビのフィナーレ。国民的ソング「サライ」
年内でコンサート活動卒業を発表した加山雄三のレパートリーのひとつ「サライ」は、今や誰もが知る国民的ソングとなっている。今夏の『24時間テレビ』における最後の歌唱は感動を呼んだ。かつて生放送の番組内でこの歌が誕生したのは、今からちょうど30年前の1992年のことだった。
もう一人の作り手は加山とも親交の深い谷村新司。まずは加山がギターで曲をつくり、視聴者に向けて公募された歌詞を谷村がまとめながら当てはめてゆき完成したもの。代表作詞:谷村新司、作曲:弾厚作(加山のペンネーム)、歌唱:加山雄三 / 谷村新司。「サライ」とはペルシャ語で「やすらぎの館」とか「心のふるさと」という意味合いの言葉だという。たしかに限りなく穏やかで、心休まる詞とメロディである。
番組で披露された後、羽田健太郎がアレンジを施し、放送から約3ヶ月後の11月16日にCDシングルがリリースされた。当時は短冊型の8cmCDの時代。驚くべきことにこのシングルは廃盤にならずに、今も同じ形態で購入可能の現役タイトルだというから、いかにロングセラーとなりスタンダードとして定着したかが窺える。『24時間テレビ』では毎年マラソンゴール時のフィナーレで歌われるのが通例となっていった。
加山雄三と谷村新司の「サライ」会場が一体化する尊い楽曲
加山と谷村が揃って歌う機会は滅多になかったものの、個々のコンサートでもソロで歌われ、客席から自然と合唱が巻き起こるなど、会場が一体化する尊い楽曲として広く親しまれるようになったのだ。その後、それぞれのアルバムにソロヴァージョンが収録されたほか、再び二人のデュエットによるニューヴァージョンもレコーディングされている。
面白いのは、シングルが出された翌月、加山と谷村が『サライ』をタイトルに掲げたセレクションアルバムをそれぞれにリリースし、異なるレーベルにもかかわらずジャケットデザインが連携されたこと。どちらも横顔のアップ写真で、2枚並べると二人が見つめあっているような構図となる工夫が凝らされていた。加山盤の帯には「素敵な出会いがあって、素敵な曲が生まれたね。谷村君ありがとう。」、谷村盤には「素敵な出会いがあって、素敵な曲が生まれました。加山さんありがとうございます。」とメッセージが記されていた。
「サライ」以外にもあった加山雄三と谷村新司のコラボレート
加山と谷村のコラボレーションは「サライ」が初めてではない。1986年11月に発表された加山のアルバム『はるかな未来(あした)へ』に、作詞:谷村新司、作曲:弾厚作による「風の兄弟」「煌星」の2曲が収録されたことがある。「煌星」は加山も好きだった谷村の「昴」のような曲を、という発注から生まれた作品。
「昴」に勝るとも劣らない壮大な詞とメロディが展開される傑作で、珍しく曲よりも詞が先行して作られた。加山は出来上がってきた谷村の詞から「荒漠とした中国大陸」をイメージしたという。いわばそれらの前哨戦を経て、6年後に不朽の名作「サライ」へと結実することとなった。
「サライ」が世間に定着して久しかった2007年には、古希を迎えた加山の新曲として、谷村との15年ぶりのコンビ作「星の旅人」もリリースされている。「サライ」とは全く雰囲気を異にするアッブテンポの作品ながら、これまた佳曲。10歳以上の年齢差がある二人だが、よほど相性がいいのだろうとつくづく思わされるのだ。
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2022.11.16