キラッとした楽曲が並ぶ名作、ミスチル「Kind of Love」の収録曲の情景
1992年5月にアルバム『EVERYTHING』でデビューしたMr.Childrenは、同年12月に早くも2枚目のアルバム『Kind of Love』を世に送り出しました。筆者は、Mr.Childrenがブレイクしてから後追いでこのアルバムを知りましたが「ブレイク前からMr.Childrenはすごかったんだ」と感じさせてくれるアルバムだと思っています。
今でこそ、バンドらしいロック、感傷的なバラード、雄大なスケール感、といった楽曲が多いMr.Childrenですが、『Kind of Love』の頃は “普遍性の高いメロディーと、クスッとさせる歌詞を持つ、良質のポップスバンド” といった趣だったのかなと思います。軽やかでありながら勢いよく芽吹いていく、キラッとした楽曲が並ぶアルバムです。
『Kind of Love』の収録曲の情景を、曲のタイトルを盛り込みつつ紹介します。
1. 晴れやかな空を見上げ「虹の彼方へ」歩き出す。
2. 自分の至らなさを人のせいにせず「All by myself」と自分を奮い立たせる。
3. 彼女の中に別の誰かの存在を感じる「BLUE」な恋愛。
4. 恋愛を成就させ「抱きしめたい」と高らかに思いを歌い上げる。
5.憂鬱な状況を抜け、新たな恋の予感に胸躍る「グッバイ・マイ・グルーミーデイズ」。(グルーミー=憂鬱な)
6. 恋愛中、そばにいるのに感じる「Distance」。
7. 彼女の心がどこにあるのか戸惑いながらも「車の中でかくれてキスをしよう」と彼女を包み込む。
8. 「思春期の夏」は照れくさくも輝きを放つ。
9. 街を出て自分の夢をつかみ「星になれたら」いいなと願う。
10. 置き忘れたままの「ティーンエイジ・ドリーム」を胸に抱き前に進む。
11. 年下の友達のままではいたくない。「いつの日にか二人で」過ごす日を夢見て。
明るく前向きな曲と戸惑いや苦悩を歌う曲がバランスよく収録
これらを “歌のテーマが「恋愛」か「自分」か” の軸と “歌のマインドが「前向き」か「戸惑い」か” の軸で分類してみると、以下のようになります。
Mr.Childrenには、自分探しの歌が多いと感じている方もいらっしゃるかと思います。だとすれば “自分×戸惑い” が多くなりそうですが『Kind of Love』はそうではありません。自分探しより恋愛の歌が多く、明るく前向きな曲と、戸惑いや苦悩を歌う曲がバランスよく収録されています。
また、マイナーコード(短調)は「All by myself」、「Distance」の2曲だけで、他の曲は全てメジャーコード(長調)です。恋愛の戸惑いを表現する「BLUE」「車の中でかくれてキスをしよう」「いつの日にか二人で」が、切ないながらも重くなく、素直に感情移入できるのは、メジャーコードであることも一因だと筆者は考えます。
「恋愛の曲が多い」「前向きな曲と戸惑いを表す曲が半々」「メジャーコードが大半」―― こういった要因が『Kind of Love』を聴きやすいアルバムにしているのかな? と筆者は感じています。
今とはちょっと違うMr.Children初期の完成度の高いポップソングの数々
全体的な構成の妙に加え、個々の曲が粒ぞろいなことも、このアルバムの人気の理由だと思います。シングルは「抱きしめたい」1曲だけの収録ですが、「星になれたら」はファン以外にも知られるほど有名ですし、「虹の彼方へ」は男女問わずアイドルや若い歌い手にカバーしてほしいタイプの曲です。「車の中でかくれてキスをしよう」や「いつの日にか二人で」も切なさが胸に迫る素晴らしい曲です。
そして、このアルバムで唯一の “自分探し” の曲である「All by myself」も、軽やかで爽やかな曲が並ぶ中で際立った存在感があります。前作『EVERYTHING』にはこのような雰囲気の曲が無く、次作『Versus』以降は自分探しの曲が増えていったという経緯を振り返ると、「All by myself」は “Mr.Children自分探し楽曲” の源流と言えるのではないでしょうか。
『Kind of Love』は、今とは違う初期のポップスサウンドと、自分探しの源流である「All by myself」を収録しているという点で、30年間第一線を走り続けるMr.Childrenの歴史を知る、あるいは振り返る上で必聴のアルバムです。ぜひアルバム全体を “通し” で聴いていただき、今とはちょっと違うMr.Children初期の、完成度の高いポップソングの数々を堪能していただきたいと思います。
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2022.12.01