10月28日

松田聖子、中森明菜、小泉今日子… 昭和の女性アイドルは「失恋ソング」をどう歌ったのか?

0
0
 
 この日何の日? 
松田聖子のシングル「瞳はダイアモンド」発売日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1983年のコラム 
緊急指令 ナイト・レンジャー! アルバム完全再現ライヴを目撃せよ

鬼門? セールス低迷期のディランが開けてくれた「ロック天国」への門

謎の男「ジョーカーマン」ボブ・ディランの音楽はイマジネーションの泉

胸キュンドラマ「青が散る」主題歌、松田聖子が描いてみせた “蒼い” 青春の光と影

松田聖子「蒼いフォトグラフ」松本隆が描く “風街発横浜” の風情

オリーブ少女の憧れ。ニック・ヘイワードこそ理想のボーイフレンド!

もっとみる≫




酷暑、台風、地震、豪雨――。今年の夏は天災続きで、この先も警戒が必要だが、猛暑に関してはようやく一段落で、朝晩の風に秋を感じるようになってきた。となると、人恋しくなる季節の到来だ。ところが、歌の世界では、ひと夏の恋が終わりを迎えたり、孤独を噛みしめたり、過去の恋を感傷的に振り返ったりする秋ソングが王道。ということで、今回のテーマは「女性アイドルが歌う失恋ソング」である。楽曲は、毎月趣向を凝らしたプログラムでお送りしている歌謡ポップスチャンネル『Re:minder SONG FILE』でおかけするので、本稿とともに是非ご覧いただきたい。

なお、今回の選曲は1970年代から1980年代の楽曲が対象。職業作家の匠の技が光る歌謡曲から、シンガーソングライターによるリアルな描写が胸を打つポップスまで全12曲を厳選したので、女性アイドルの変遷や世界観の多様性も感じてもらえたら幸いである。

松田聖子「瞳はダイアモンド」が提示した新しい失恋ソング


オープニングは、女性アイドルと言えば、やはりこの人。松田聖子の「瞳はダイアモンド」(1983年)をセレクトした。“映画色”、“幾千粒の雨の矢たち”、瞳の中の “黒い雨雲” など、映像的な比喩を連ねた松本隆の歌詞と、ラインクリシェやディミニッシュを効果的に使用したユーミン(作曲クレジットは呉田軽穂)らしい浮遊感のあるコード進行。タッグを組んで数々の傑作を生み出してきた2人は、ともすればじめじめとした自虐的な別れ歌が多かった歌謡界に、「♪私はもっと 強いはずよ」と自分を鼓舞する、新しいタイプの失恋ソングを提示した。

松田聖子がシングルA面で別れを歌うのは「風立ちぬ」(1981年)に続く2曲目。相手の心変わりが明確に描かれるのは本作が初めてだったが、彼女らしい自己肯定感が同性からも支持されたのだろう。人気番組『ザ・ベストテン』(TBS系)では8週連続の1位を獲得する大ヒットとなった。ユーミン自身も2003年、自身のアルバムでセルフカバーしている。

柏原芳恵が18歳で歌った、中島みゆき作詞・作曲の「最愛」


2曲目は、松田聖子と同期デビューの柏原芳恵のレパートリーから「最愛」(1984年)をお聴きいただく。作詞・作曲は「春なのに」「カム・フラージュ」に続く作品提供となる中島みゆき。愛する人と出航する男を港から見送る女性の心情をウエットに描いた、中島みゆきの真骨頂ともいうべきバラードだ。

最大の聴きどころは、二番目に好きな人も、三番目に好きな人も、それなりに愛せるけれど、一番好きなのは死ぬまで貴方―― と切々と歌い上げるサビ。一歩間違えればストーカーになりかねない、強い執着を感じさせるヒロイン像で「瞳はダイアモンド」とは対照的だが、情念の表現に長けた柏原にはその世界観が合っていた。18歳とは思えぬ大人びた歌唱で、本作は『ザ・ベストテン』で4位まで上昇。彼女の代表作のひとつとなり、翌1985年に中島自身もセルフカバーして、さらに広く浸透した。

余談になるが、いずれも1980年にデビューした松田聖子にユーミン、柏原芳恵に中島みゆき、河合奈保子に竹内まりや、岩崎良美に尾崎亜美が楽曲を提供し、それぞれヒットしたのは相性を見抜いたディレクターの慧眼と言っていいかもしれない。



中森明菜と小泉今日子、“花の82年組” が歌ったふたつの別れ


さて、続いては、“花の82年組” から2曲をお届けする。中森明菜「雨のレクイエム」(1983年)と小泉今日子「Smile Again」(1987年)だ。「雨のレクイエム」は「禁区」のカップリング曲で、作曲は玉置浩二。彼がフロントマンを務める安全地帯がブレイクするのは翌1984年のことなので、知名度ではなく楽曲そのものを評価されての起用だったことがうかがえる。当時18歳の中森は萩田光雄の編曲によるシャンソン風のバラードを、ピアニシモを交えて歌唱。別れの愁嘆場で「♪私そんなに不幸じゃない」と強がる、いじらしい女心を繊細に表現し、レコーディングでは涙ぐむスタッフもいたという。

一方「Smile Again」はデビュー6年目のキョンキョンがしっとりと歌い、新たな魅力を訴求したフェアウェルソング。作詞は「My Revolution」(渡辺美里)の川村真澄、作曲は当時20歳の井上ヨシマサ、編曲・プロデュースは土屋昌已というフレッシュな陣容。やはり土屋がプロデュースしたアルバム『Phantasien』と並行して制作されたという。過ぎし日の恋を「♪サヨナラ Smile again 心で Cry again」と歌う、まさに “顔で笑って心で泣いて” を地で行く切ないミディアムバラードだ。

テレビ歌唱時、キョンキョンは間奏やコーダでオカリナを吹いていたが、その旋律はレコード会社(ビクター)の先輩アイドル、桜田淳子の「十七の夏」を引用したもの。この時点ですでに12年前のヒット曲であり、その点もノスタルジックな曲想を増幅する効果を発揮した。



桜田淳子「ひとり歩き」失恋を乗り越えて大人になる少女像


ということで、次はその桜田淳子が「十七の夏」の3か月前にリリースした「ひとり歩き」(1975年)をお送りする。

オーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ系)出身の桜田のシングル曲はデビュー以来、同番組の審査員でもあった阿久悠(作詞)、中村泰士(作曲)、森田公一(作曲)が手がけていたが、この曲で初めて筒美京平が作曲を担当。失恋を乗り越えようとする気丈な乙女心を描いた阿久悠の歌詞に、16ビートの軽快なリズムとマイナースケールの哀愁メロディが乗り、少し大人になった淳子を感じさせてくれた。本作は彼女が年上の男性に淡い恋心を抱くヒロインを演じた青春映画『スプーン一杯の幸せ』の主題歌で、オリコン最高4位のヒットを記録した。

日本でアイドル歌謡が一大市場を形成した1970年代、悲恋を経験した少女が成長していく様子を描くのは、女性アイドルが次のステップに進むための定石として定着。「ひとり歩き」はその代表例だが、ここからは桜田淳子と同時代に活躍した3人のアイドルの失恋ソングをご紹介する。

アグネス・チャン、南沙織、三木聖子が歌った少女から大人への季節


まずは20歳を迎えたアグネス・チャンに、荒井由実時代のユーミンが書き下ろした「白いくつ下は似合わない」(1975年)。“好き” や “愛してる” といったストレートな表現を用いることなく、巧みな情景描写で聴く者を惹きつけるユーミンならではの世界観で、少女期の終わりを意味するタイトルも秀逸だ。この時期のユーミンはサードアルバム『COBALT HOUR』がヒット中で、気鋭のシンガーソングライターとして脚光を浴びていたが、アグネスの魅力であるハイトーンを生かした曲づくりも含めて、作家としての才能も知らしめた楽曲となった。

続いてはアイドル歌手第1号に位置付けられる南沙織の「色づく街」(1973年)。「17才」でデビュー以来、有馬三恵子(作詞)と筒美京平(作曲)のコンビによる、少女の心情と季節感をリンクさせた楽曲でヒットを重ねていたシンシアが19歳のときに提供されたメロウなナンバーで、秋とともに深まる感傷を歌っている。筒美のメロディは、Aメロ → サビと展開したあと、Aメロの後半をブリッジで使い、サビ → Aメロで終わる当時としては斬新な構成。有馬の歌詞は「♪愛のかけら抱きしめながら 誰もがみんな女になる気がするの」と綴る、少女の成長を描いたもので、オリコン4位をマークした。歌謡界にリバイバルブームが起きた1982年には、南沙織と同じく酒井政利がプロデュースした三田寛子がカバーしている。

もう1曲は三木聖子のサードシングル「三枚の写真」(1977年)。16歳で出会った2歳上の男性との恋を三枚の写真をもとに振り返る楽曲で、1番では出会った頃のときめきが、2番では別れの予感が、3番ではひとり感傷に浸る現在の胸中が描かれている。ストーリー性のある歌詞は松本隆で、作曲は同時期に沢田研二の作品を手がけていた大野克夫が担当。大きなヒットにはならなかったが、1981年に石川ひとみがカバーしたことで、広く知られるようになった。



石野真子が新人賞レースの勝負曲に選んだ「失恋記念日」


ここまで4曲、1970年代アイドルの歌声をお楽しみいただいたが、次は1970年代終盤から1980年代序盤にかけて、アイドルシーンを盛り立てた2人の失恋ソングをお届けする。石野真子「失恋記念日」(1978年)と高田みづえ「私はピアノ」(1980年)だ。奇しくも同じ事務所に所属していた2人はデビュー曲からヒットを連発。ともに各音楽祭の新人賞を多数受賞し、2年目以降も活躍を続けていく。

「失恋記念日」は新人賞レースの勝負曲としてリリースされたサードシングルで、作詞は阿久悠、作曲・編曲は穂口雄右。ピンク・レディーの仕掛け人とキャンディーズのメインコンポーザーという組み合わせで、失恋した少女の傷心をマイナーアップテンポのサウンドに乗せた楽曲を提供している。当時の石野は天真爛漫な笑顔とキュートな八重歯がチャームポイントだったが、アイドルらしい溌溂とした歌だけでなく、内面を繊細に表現することもできる歌い手であることを証明した作品と言えるだろう。

高田みづえが自分の歌にしたサザンの名曲「私はピアノ」


石野の1年先輩にあたる高田みづえは、8月に出演したNHK『うたコン』で11年ぶりのステージに立ち、往時と変わらぬ、というよりも深みを増したボーカルで注目を浴びたばかり。同番組でも披露した「私はピアノ」はサザンオールスターズのサードアルバム『タイニイ・バブルス』で原由子が歌った楽曲のカバーで、キャリア最大のヒットを記録した。

桑田佳祐が作詞・作曲を手がけた同作は、突然の破局から立ち直ろうとする女性の心象風景を描写。恋人を失った自分を孤独なピアノに重ね合わせた歌詞を、起伏の激しいメロディに乗せた難曲だが、高田は持ち前の歌唱力で歌いこなし、アイドルからの脱皮を果たす。サンバテイストの原由子バージョンでは2番のAメロのあとにバンドメンバーとの掛け合いが挿入されるので、聴き比べてみるのも一興だろう。



正統派アイドル渡辺美奈代を変えた、鈴木慶一プロデュースの「いいじゃない」


そして終盤。ここからは異種交配が功を奏した2曲をご堪能いただきたい。まずは渡辺美奈代「いいじゃない」(1988年)、トリには長山洋子「肩幅の未来」(1989年)をセットした。

「いいじゃない」は「ちょっとFallin’ Love」から始まった、鈴木慶一(ムーンライダーズ)と渚十吾(ソニーの担当ディレクター黒田日出良の別名義)の共同プロデュースによるシングル5連作の第3弾。失恋した自分を「♪泣かなくていいじゃない」と鼓舞し、「♪男はアイツだけじゃない」と強がる女性の健気さを、フィル・スペクター風の厚みのあるサウンドに乗せて歌う、オールディーズ調のポップスだ。

おニャン子クラブ随一の正統派アイドルとして、ロリータ系のファッションや楽曲で人気を博していた渡辺美奈代は、鈴木慶一をプロデュースに迎えたこの時期からコケティッシュな路線にシフト。前作「抱いてあげる」と同様、タイトルの「いいじゃない」を連呼する本作では男性に依存しないヒロインを演じ、歌手としての幅を広げることに成功した。

中島みゆき × 筒美京平が長山洋子に提供した異色の失恋ソング「肩幅の未来」


エンディングに配した「肩幅の未来」は、事務所の先輩である郷ひろみが1983年に発表した「美貌の都」以来、6年ぶりに共作した大物コンビ、中島みゆき(作詞)と筒美京平(作曲)からの提供作品。いちずに相手の背中を見つめ、それが自分の未来だと信じて疑わなかった頃の恋心を「♪らちもない」と自嘲気味に回想する切ないナンバーに仕上がっている。

セールス的には伸び悩んだが、同年、中島みゆきがアルバムでセルフカバー。アイドル時代の長山を代表する佳曲として音楽ファンの間で根強い人気を集めている。

以上12曲。1970年代から1980年代の音楽シーンを彩ってきた女性アイドルによるさまざまなタイプの失恋ソングをぜひ味わっていただきたい。なお、2024年7月にスタートした歌謡ポップスチャンネル『Re:minder SONG FILE』は、今回をもってひと区切りとなる。これまでのご視聴に深く感謝いたします。


Information
Re:minder SONG FILE「女性アイドルが歌う失恋ソング」

ココロ躍る音楽メディア「Re:minder」がテーマを決めて珠玉のソングファイルをお届け


▶︎ 放送局:歌謡ポップスチャンネル
▶︎ 放送日時:
・2026年09月23日(水)24:00〜25:00
・2026年10月01日(木)24:00〜25:00
▶︎ 今月のソングファイル
♪ 瞳はダイアモンド / 松田聖子
♪ 最愛 / 柏原芳恵
♪ 雨のレクイエム / 中森明菜
♪ Smile Again / 小泉今日子
♪ ひとり歩き / 桜田淳子
♪ 白いくつ下は似合わない / アグネス・チャン
♪ 色づく街 / 南沙織
♪ 三枚の写真 / 三木聖子
♪ 失恋記念日 / 石野真子
♪ 私はピアノ / 高田みづえ
♪ いいじゃない / 渡辺美奈代
♪ 肩幅の未来 / 長山洋子
▶︎ 番組ページ:Re:minder SONG FILE


2026.09.17
0
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
濱口英樹
コラムリスト≫
26
1
9
8
5
1985年の小泉今日子発進!純アイドルとして最後の夏シングル「常夏娘」
カタリベ / 鈴木 啓之
41
1
9
8
2
歌謡界に殴り込みをかけたロックギタリスト=小田裕一郎に捧げるレクイエム
カタリベ / 安東 暢昭
31
1
9
8
5
暑い夏を乗り切ろう【80年代アイドル夏ソング】ファン以外は知らない珠玉の名曲を厳選!
カタリベ / 濱口 英樹
55
1
9
8
1
松田聖子「December Morning」… アルバム「風立ちぬ」より
カタリベ / 本田 隆
61
1
9
8
5
KYON²「ハートブレイカー」小泉今日子 × 高見沢俊彦が放つ異彩のハードロック!
カタリベ / 中塚 一晶
45
1
9
8
8
80年代の船山基紀、アナログとデジタルの狭間を駆け抜けた編曲家
カタリベ / スージー鈴木