テレビ「ベストヒットUSA」やラジオ「全米トップ40」「全英トップ20」をチェックしつつ洋楽を吸収した80年代世代にとって、ある種の鬼門と言えたのがボブ・ディランだ。なにしろ、80年代のディランといえば、もっともヒットチャートへの影響力を失っていた時期。シングルチャートに関して言えば壊滅的で、トップ40入りした曲は皆無。ビデオクリップを見る機会も少なかった。
とはいえ、ボブ・ディランという言葉はラジオ番組や音楽雑誌、レコードのライナーで当たり前のように目にするので、未だその曲を聴いたことのない高校生の自分にも “スゲエ人” であることは理解できたし、興味もあった。なので、当時リリースされたばかりの新譜『インフィデル』がレンタルレコード店に入荷した際、ジャケ写真、ユーリズミックスの男の方みたいだ…… などと思いつつ借りてみた。
第一印象は “オッサンくせえ声だなあ”。ジジイっぽいがスプリングスティーンに歌い方が、ジョン・クーガーにバックの音が似てるなどと、影響の流れが逆のトンチンカンなことを思ったりした。それが2順目には “けっこうシブいぞ”、3順目には “かっこいいかも” に変化する。当時のヒットチャートを賑わせる、シンセでシュガーコーティングされたポップスとは一線を画していたし、何よりルーズなダミ声に気持ちを持って行かれた。後のUSAフォー・アフリカ「ウィ・アー・ザ・ワールド」での旋律を無視した歌唱にも“さすが”と思ったものだ。
大人になってディランのバックカタログを買いそろえた際、『インフィデル』のバンドサウンドの印象が強すぎて、名盤と言われるフォーク時代のアルバムにすぐにはなじめなかったが、それでもフォークロックの扉は開いてくれたのは、このアルバム。今、改めて聴くと、ボーカルにエコーをかけ過ぎてるとも思うが、それがせめてものディランの80年代的な音への歩み寄りだったのかもしれない。
2016.03.22
YouTube / BobDylanVEVO
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