80年代前半から中盤にかけて、アメリカ西海岸、ロサンゼルスを拠点に、有望なHM/HRバンドが次々に頭角を現した。海外ではヘアメタル、グラムメタルなどと呼ばれるジャンルを中心に、LAのサンセットストリップに軒を連ねるライヴクラブには、全米各地から有望なバンドが集結。夜な夜な熱いライヴを繰り広げ、それを追いかける女性ファン層を巻き込み、一大ムーブメントとして全米、さらには世界のHM/HRシーンへと波及していった。
“LAメタル” という呼称自体、実は日本独自のものだ。ロサンゼルス発だから “LAメタル” というのは短絡的なようで、日本人ならではの視点が絶妙に反映されていて興味深い。
以前のコラム
『みんなの洋楽ナイト — 80's の空気感、時代を席巻した煌びやかな LAメタル』でも書いたが、我々日本人が抱く開放的なLAのイメージと、悪魔的なヘヴィメタルのイメージのギャップを絶妙にマッチングさせた、“LAメタル”というシンプルなキーワードこそが、新世代のヘヴィメタル到来の期待感を醸成してくれた。
ここでは、80sのHM/HRを象徴するLAメタルの名曲の数々に、サブスクで若い世代にも気軽に触れてもらいたい前提でセレクトしてみた。
第10位:ホールド・オン・トゥ・18 / ブラック・アンド・ブルー
1984年のデビューアルバム『ブラック・アンド・ブルー』に収録。今やキッスのギタリスト、トミー・セイヤーが在籍したバンドとして知られるブラック・アンド・ブルー。日本のレーベルが積極的にプロモーションを行い、LAメタルの先鋒としてデビュー。実際にラットやモトリー・クルーよりも早く来日公演を行っている。
この曲のタイトルに入った「18(エイティーン)」という数字と、ジャケットで姿を見せた若々しいイメージ通り、フレッシュな感性のハードロックが特徴だ。ドイツでの制作ゆえか、意外にも日本人好みのウェットでメロディアスなテイストも漂わせている。
第9位:マーチ・オブ・ザ・セイント / アーマード・セイント
1984年のデビューアルバム『アーマード・セイント』に収録。“LAメタル” イコール “ヘアメタル” という画一的な先入観を、いち早くぶち壊してくれたバンドだ。多数派の軟派なヘアメタル勢と対峙するように、レザーと鎧を連想させるコスチュームを身にまとい、硬派な正統派メタルを奏でた。彼らからの関連で、マリス、レザーウルフら同系統の良質なバンドの存在にも注目が集まった。
アルバムのオープニングに収められたこの曲は、文字通りバンドのテーマソングと言える、ノリの良い疾走感を伴う勇壮なヘヴィメタル。LAメタルにおける正統派の進軍を、高らかに誇示しているかのようだ。
第8位:ライト・トゥ・ロック / キール
1985年のセカンドアルバム『誇り高き挑戦(The Right To Rock)』に収録。LAメタルが醸し出す、溌剌とした若さを象徴するバンドのひとつが、キールだ。バンド名の由来であるフロントマン、ロン・キールをはじめルックスも粒ぞろいで、女性ファンの支持も集めた。
タテノリのリフ攻撃一発で押しまくるこの曲は、思わず拳を突き上げたくなるエナジーが充満している。“ヘヴィメタルへの言われなき迫害から、若者達をキールのロックで救い出す”。そんな痛快なストーリー仕立てのMVも印象的だった。MVでの世界観が示す通り、これはLAメタルに刻まれたロックキッズへのアンセムだ。
第7位:ロック・ミー / グレイト・ホワイト
1987年のサードアルバム『ワンス・ビトゥン』に収録。メジャーデビューした当初は、典型的なLAメタルバンドだったが、次第に他と一線を画すブルージーなテイストを注入。3枚目で完全に路線変更し、全米チャート上位を記録する成功を収めた。
この曲は、7分強に及ぶ長尺で構成されたブルース・ハードロックで、凡百のヘアメタル勢には成し得ない、深みと聴き応えに溢れている。ロバート・プラントを彷彿とさせる、ジャック・ラッセルのエモーショナルな歌唱と、マーク・ケンドールが紡ぎ出す泣きのギターフレーズが、普遍的な魅力を放つハードロックの世界へと誘う。
第6位:ラウド・アンド・クリアー / ストライパー
1984年のデビューアルバム『イエロー・アンド・ブラック・アタック(神聖紀)』に収録。神への賛美を歌詞にしてヘヴィ・メタルに乗せた、いわゆる “クリスチャン・メタル” を世に広く知らしめたストライパー。その活動目的が、日本人の感性には新鮮に映った。
黄色と黒のストライプの奇抜なコスチューム、ステージから聖書を投げ入れるパフォーマンスなど、特異性の塊のようなバンドだったが、マイケル・スウィートの突き抜けるハイトーンと分厚いコーラスワークを軸に、整合性の高い美旋律メタルを奏でた。デビュー作の冒頭を飾るこの曲は、未完成ながら、彼らだけのトレードマークを凝縮させた原点だ。
第5位:アイ・ワナ・ビー・サムバディ / W.A.S.P.
84年の初のスタジオアルバム『魔人伝(W.A.S.P.)』に収録。煌びやかなLAメタルシーンの忽然と現れた “悪魔の化身”。総帥ブラッキー・ローレスの股間に装着されたノコギリの歯に象徴される、存在自体のヤバさが、HM/HRファンの間で噂が噂を呼び、怖いもの見たさの期待感が醸成されていった。シーンにおける衝撃度は、数多のLAメタルバンドの中でダントツだろう。
アクの強いブラッキーの声質は好みが分かれるが、下世話なバンドイメージとは裏腹に、この曲に代表される意外にも王道で覚えやすい、キャッチーとさえ言えるハードロックが特徴だ。 地獄の扉の向こうに蠢く危険な姿を、MVで初めて見た時の衝撃も忘れられない。
第4位:トゥース・アンド・ネイル / ドッケン
1984年のセカンドアルバム『トゥース・アンド・ネイル』に収録。“硬柔” を併せ持つLAメタルバンドがドッケンだ。メタル系には珍しいドン・ドッケンの甘くソフトな歌唱と、カミソリの切れ味と称された、ジョージ・リンチの鋭いギターワーク。のちに不仲を露呈した二人だが、危うくも絶妙なコンビネーションが織りなす、メロディ重視のヘヴィメタルで日本で高い人気を誇った。
名盤のタイトルを冠するに相応しいこの曲は、“水と油” が同居する、ドッケンの真髄を極めた必殺曲だ。ドンにしては荒ぶる力強いシャウトと、キレ味を最大限に高めたジョージの凄技が、疾走感の中でぶつかり合い、唯一無二のケミストリーを生み出している。
第3位:カモン・フィール・ザ・ノイズ / クワイエット・ライオット
1983年のサードアルバム『メタル・ヘルス~ランディ・ローズに捧ぐ~』に収録。邦題通り、ランディ・ローズがかつて在籍したクワイエット・ライオット。その当時は鳴かず飛ばずだったが、ランディの死後、彼の魂に導かれるように生み出された本作は、全米1位、実に600万枚超という、LAメタル随一の金字塔を打ち立てた。
その起爆剤となったのが、スウィートのカヴァーで、全米5位を記録したこの曲だ。80sメタルらしい俊逸なアレンジで、彼らのオリジナルの如く完全に消化している。伝説の『USフェスティヴァル』でこの曲を披露した勇姿は、日本のTVで放映された。カリフォルニアの青空に永遠のメロディが溶けていく模様が、今も脳裏に浮かんでくる。
第2位:ライヴ・ワイヤー / モトリー・クルー
1982年のメジャーでのデビューアルバム『華麗なる激情(Too Fast For Love)』に収録。当時のFMラジオでオンエアされたこの曲に一撃でヤラレたのが、今思えば、僕がLAメタルの沼へとハマっていくきっかけだった。ヴィンス・ニールの特徴ある歌声は、一度耳にしただけで脳裏に焼きついた。何度もブレイクを繰り返しながら突き進んでいく、この曲の突進力には、LAメタルムーブメントの途方もない勢いのイメージを掻き立てられた。
そのワイルドで破天荒なバッドボーイズ・ハードロックとアティテュードは、多くの若者に共感を呼び、影響を受けたバンド達を全米各地から、LAのサンセットストリップへと呼び寄せる結果となった。まさに、LAメタルの “発火点” というべき最重要のナンバーだ。
第1位:ラウンド・アンド・ラウンド / ラット
1984年のメジャーでのデビューアルバム『情欲の炎(Out Of The Cellar)』に収録。“これぞLAメタル!” を体現するバンドが、このラットだ。LAそのものをイメージさせる、明るくノリの良い “ラットンロール” と、カラフルなカットTシャツに、盛り盛りヘアと濃いめのメイクを施した、ファッショナブルなルックスは、旧来のヘヴィメタルと全く異なり新鮮なイメージを与えた。
ラットを代表するこの曲は、MVと音楽が有機的に結びつき、MTVを通じてバンドと楽曲の魅力を最大限に発信した好例だろう。屋根裏の “ラット” が床を突き破り、セレブのディナーをぶち壊す有名なシーンは、さながらサンセットストリップから、全米、世界へと進出したラットの快進撃を予言しているかのようだ。LAメタルのみならず、HM/HR史に輝く名曲だ。
―― 90年代のオルタナ・グランジの波とともに、LAメタル系は古臭い虚飾のロックとして、シーンから一掃されてしまう。
けれども、歴史は繰り返すという格言通り、新世紀に入ってLAメタルを再評価する機運が徐々に高まり、かつての有名バンドの多くが再始動していく。さらには、典型的なLAメタル風のサウンドとルックスを現代風にパロったスティール・パンサーがブレイクするなど新世代のバンドまで登場していった。
LAメタルムーブメントから飛び出したバンドや楽曲に、不遇の時を経て再びスポットが当たったのは、群雄割拠の中で凌ぎ合ったアーティスト達の確固たる実力と、楽曲自体が持つ普遍的な魅力があったからに他ならないだろう。
ここに挙げた以外にも、ポイズンをはじめランクインさせたいバンド、楽曲は枚挙にいとまがない。この10曲をきっかけに、時代を経ても色褪せない煌めきをまずはサブスクで辿り、存分に味わってほしい。
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2022.01.20