来日してない最後の大物、ローリング・ストーンズ初来日!
“ストーンズ、来日するらしいよ” ―― 1989年の暮れ、そんな噂が流れてテンションが上がったのは筆者だけではなかったと思う。ローリング・ストーンズは来日しない(というか、来日できない)最後の大物だった。前年にミック・ジャガーのソロ来日公演が実現し、展望が開けたとはいえ、まだ心の中で疑っている部分もあった。
翌年の2~3月のストーンズ初来日の狂騒はご存じの通り。ここでは個人的な狂騒記を思い出せる限り、書いてみようと思う。
寒さなんか屁でもねえ、徹夜で並んでチケット確保!
1990年1月5日、金曜日。当時大学4年だった自分は情報誌『ぴあ』の編集部でバイトをしていた。仕事始めのこの日の午後、ストーンズ公演のチケットが明日から発売されることを知る。公演は9回(後に追加公演が発表され、10回になる)、会場はいずれも東京ドームで、チケットは一万円。えっ、本当に来るの!? スタート・ミー・アップ!ギャー!!
仕事中ににわかに落ち着きを失った自分は休憩がてら、近場の半蔵門のチケットぴあを覗いてみた。そしたら、すでに10人ほど並んでいた! さらにアウトオブコントロールに陥り、ストーンズファンだらけの大学のサークルのコネクションに電話連絡。「悪いけど、今から半蔵門のチケットぴあに並んで。仕事終わったら合流するから」
日も暮れて仕事も終わり、18時半頃、再びチケットぴあへ。後輩ふたりと、大学の同期である当サイトの主宰者、太田氏が先乗りして並んでくれた。列の前の人たちも友人たちと合流したのだろう。我々の前にはすでに30人以上が並んでいる。もちろん、皆、徹夜覚悟だ。気温は5度を切っていたが高揚しているせいか、寒さなんか屁でもねえ。レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー!
チケット争奪戦の厳しさ、高名な音楽評論家も自力で?
一度の公演ではサティスファクションできないし、二度、三度見たら、もっともっと見たくなるだろう。映画『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』を何度も何度も見てるんだから。「よし、9回、全部行くぞ!!」…… と決意して、卒業旅行用に貯めておいたお金を下ろした。
大学の先輩たちに電話したら、「行きたいからチケット、頼むねー」とのお言葉が。4人並んでいるだけではチケット、取り切れないかも… と思い、他の後輩にも「今から来て~」と頼む。友を待つ。埼玉から車でやってきた後輩もいた。我々の集団は6人になった。ありがとー。先輩たちも「寒い中すまんね」と差し入れを持ってきてくれた。ありがとうございますー。
0時を過ぎて日付が変わった。巡回中の警察官が「今夜はこの冬いちばんの冷え込みになるから、体に気を付けてね」と声をかけ、チャリで去っていった。さすがに寒いので、順番に近場の終夜営業のお店へ暖を取りに行こう… ということに。かくして、我々はミッドナイト・ランプラーと化す…… いや、暴れてはいないけど。
列は200人くらいになっただろうか。他の集団を見ていると、これがなかなか面白い。我々の後に並んでいるグループは発電機とこたつを持ち込み、麻雀を始めている。皇居のお堀の間近で卓を囲むなんて、なんだかハッピーじゃないか! 前方の列に目を向けると、高名なストーンズ評論家の方が車でやってきて、並ばせている手下たちに差し入れを配っていた。聞き耳を立てると、このお方は渋谷のチケットぴあにも手下を配していて、そちらはすでに300人くらい並んでいるとのこと。評論家の方でも自力でチケットを取らねばいかんのか…… と、争奪戦の厳しさを痛感した。
買えるチケットは1公演のみ4枚まで、それでも即日ソールドアウト!
夜が明けた。チケット発売の10時まで、あと一時間。チケットぴあの女性職員が列の前に現われて、販売方法を説明する。「チケットは、おひとり様一公演のみ、4枚までです」――列にどよめきが起こった。何日分でも買えるだろう…… そう思っていたのは自分だけじゃなかった。シーズ・ソー・コールド!! 慌てて、昨夜差し入れを持ってきてくれた先輩に電話をして状況を説明し、今から来てくださいとお願いする。思い当たるストーンズ好きの友人にも電話して、近場のチケットぴあに並んでくれ… と頼み込む。
発売開始10時の時点で、最初は30人ほどだった自分の前の列が100人近くに膨れ上がった。皆同じ事を考え、同じような行動を起こした結果だ。この時点で、全日通うのは半ば諦めた。ノー・エクスペクテーションズ。とりあえず、今並んでいる人数で、別々の日にちを4枚ずつ買おう…… ということに。
ローリング・ストーンズ来日公演のチケットは発売初日に瞬殺ソールドアウトと報じられた。やっぱりストーンズはすごい。とりあえず自分は4日分のチケットを押さえることができたし、それだけでもヨシとしないと。ユー・キャント・オールウェイズ・ゲット・ホワット・ユー・ウォント… である。
アツかったり、ユルかったりの狂騒は、さらに続く。本稿は次回に続きます。
2020.02.14