1986年(日本では翌87年)に公開されたアニメーション映画『アメリカ物語(An American Tail)』の主題歌「サムホエア・アウト・ゼア」のクレジットを初めて見た時、僕は我が目を疑った。そこに “リンダ・ロンシュタット&ジェームズ・イングラム” と書かれていたからだ。リンダ・ロンシュタットって、70年代に西海岸の一流ミュージシャンをバックに多くのヒット曲を生み出していた、あのリンダ? 彼女がアニメの主題歌? あり得ない…
リンダ・ロンシュタットは日本ではオリビア・ニュートン・ジョンと比較されることが多かった気がするが、リンダはオリビアとは真逆の印象を持たれていた。それは一言で言えば “男たらし” なイメージで、当時LAで活躍していた男性ミュージシャンの殆どが彼女と関係を持っていたんじゃないか… って、僕らは半分本気で信じていた。
彼女はいかにも “男好きのする” 外見だったし、実際、J.D.サウザー、ジェイムス・テイラー、ジャクソン・ブラウンといった西海岸系のアーティストはもちろん、ミック・ジャガーや現カリフォルニア州知事のジェリー・ブラウンまで、まさに “華麗なる” 男性遍歴を誇っていたからだ(ミックについては後に本人が否定)。
そして、リンダと言えば必ず引き合いに出されるのがイーグルスだ。グレン・フライ、ドン・ヘンリー、ランディ・マイズナー、バーニー・リードンが彼女のバックバンドで名を上げた後にイーグルスとしてデビューしたという “伝説” のせいだ。しかし、実際に彼らがバックを務めたのはほんの数ヵ月のことで、しかも彼らの名前は既にLAの音楽シーンではリンダより知られていたそうだから、この “伝説” はかなり脚色されていたことになる。やはり、彼女がいかにも “男をリードする(振り回す?)女” だという先入観があったからこそ生まれた逸話だろう。
彼女は70年代に西海岸サウンドの主役の一人として、カヴァーソングばかり数多くヒットさせてきたが、アルバム『劇愛(Mad Love)』で一転してニューウェーヴ寄りのサウンドを披露すると、それを最後に過去の人になって行った。そして、僕たちが彼女の名前を忘れかけた頃にリリースされたのが、冒頭のスローバラードだったという訳だ。
それにしても、彼女があんな純粋無垢な歌を歌うとは… あの小悪魔なじゃじゃ馬はどこに行ったのか、そのイメチェン&キャラ替え度合いの大きさに一瞬驚いた。しかし、まさにこの頃、映画監督のジョージ・ルーカスと付き合っていたというから、実際には何も変わっていなかったようだ。
なお、この曲のヒットに味をしめたからかどうかは知らないが、彼女は89年にはアーロン・ネヴィルとのデュエット「ドント・ノウ・マッチ」をヒットさせている。
Somewhere Out There / Linda Ronstadt & James Ingram
作詞・作曲:James Horner, Barry Mann, Cynthia Weil
プロデュース:Peter Asher
発売:1986年11月21日
脚注:
■ Linda Ronstadt
「Somewhere Out There」(87年3月14日2位)
『Mad Love』(80年3月15日 3位)※アルバム
「Don't Know Much with Aaron Neville」(89年12月23日2位)
2016.11.01
YouTube / dimsel
YouTube / lovinthe80s1
Information