11月19日

斉藤由貴の “胸キュンソング” ベストテン ♡ 際立つ言葉と歌唱の魔力♪

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80年代後半の音楽界に示した斉藤由貴の存在感


1980年代後半に活躍した女性アイドルのうち、中山美穂、工藤静香、南野陽子、浅香唯の4人は「アイドル四天王」と呼ばれ、昭和末期の歌謡界で絶大な人気を誇った。そんな彼女たちのブレイクより一足早く人気を集め、トップアイドルの一角に君臨したのが斉藤由貴である。彼女の活動主体は女優だが、兼業でアイドル歌手もこなし、歌手の印象も強かった。

今でもよく耳にするデビューシングル「卒業」をはじめ、斉藤由貴の楽曲は80年代後半の音楽界に大きな存在感を示したように思う。特に、自ら手掛けた歌詞、演技を交えた独特の歌唱には魔力のような中毒性があり、虜になった人も(私を含め)多かったのではないか。

今回、そんな彼女の表現の魔力が際立つ “胸キュンソング” のベストテンを選んでみた。順位は私の思い入れの強さであり、個人的趣味を反映したチョイスであることをご了解いただきたい。では10位から。

第10位:情熱


5枚目のシングル(1985年)。
斉藤由貴が主演した映画『雪の断章―情熱―』の主題歌。筒美京平氏と松本隆氏の黄金コンビによる “漢字二文字三部作” のラストシングルである。前二作の「卒業」「初戀」も名曲だが、私はこの曲が一番キュンとくる。映画のワンシーンのような情景が、眼前に迫ってくるからだ。

哀愁漂うメロディーに乗せて歌われるのは、駅のホームで別れる男女。列車のデッキに立ちVサインする彼は、彼女にとって ”決して好きになってはいけない” 存在だった。だから、”さよならねっ” と先に言い出したのに、列車が動き出そうとすると握手した手がほどけない。ついに2番では嘘がつけなくなり、”あなたが好き” と独白してしまう。「卒業」での駅の別れのシーンは淡白だったが、こちらはドラマチックで胸が熱くなる。

なお、この曲には「情熱」という言葉が全6回出てくるが、最後の「情熱」二連発は聴きどころ。胸キュンを通り越してゾクゾクっとする。

第9位:AXIA~かなしいことり


アルバム『AXIA』収録(1985年)。
ファーストアルバム『AXIA』の中の一曲で、同名のカセットテープのCMでも流された。気鋭の作詞家、銀色夏生が作曲も手掛けた数少ない曲の一つである。

二股をかけていたことを彼にさらりと伝え、“ごめんね” と謝ったうえで、“今ではあなたを好きだけど、彼とは別れられない”と悪気もなく言い切る彼女。彼にとって衝撃的な告白が、のどかでスローなメロディーに乗って淡々と歌われる。「卒業」で見せた斉藤由貴の純粋で一途なイメージがガラガラと崩れ落ちるギャップがたまらない。

なお、歌詞については上村彰子さんのコラム『ふわっと男を捕えるプロの魔力、斉藤由貴の「かなしいことり」』で詳しく分析している。お読みになれば、残酷さを通り越して ”胸キュン” する思いの一端がご理解いただけるだろう。



第8位:うしろの正面だあれ


アルバム『ripple』収録(1987年)。
全曲アカペラのミニアルバム『ripple』の中の一曲。このアルバムは、全曲を斉藤由貴が作詞し、編曲家の武部聡志氏と共同プロデュースしたユニークな作品。彼女の歌詞と歌声に加え、多彩なバックコーラスも楽しめる。

この曲の特徴は、可愛さのなかに日常の恐怖が垣間見える点だ。“うしろの正面だあれ” は童謡「かごめかごめ」の一節だが、昔の人減らしの風習が由来という説もあるくらい、当てられた時にゾクっとする恐怖がある。これを元ネタに、学校で生徒が大勢いる中で後ろを振り返った時に目が合った ”あの子” の怖さが、可愛らしく歌われる。音程がキュンと上がる特徴的なメロディーに頑張って合わせる彼女の声と、イントロで聴ける彼女のコーラス「きゅきゅきゅ」は聴きどころ。何気ない怖さも含め、胸キュン度は高い。

第7位:3年目


アルバム『PANT』収録(1988年)。
アルバム『PANT』では斉藤由貴が7曲を作詞しているが、最も完成度が高いと思うのがこの曲。彼との恋愛シーンが時系列で歌われてゆく。

 きれいねと言った 春だねと言った
 一面の花 風に笑ってる
 さしだす一束 大きな手の中
 目をあげた向こう 風がきらめいた

一番の歌詞の出だしからは、まるで金子みすゞの詩のような文学性を感じる。この後に2年前の彼との出会いのシーンが歌われ、二番では、彼に抱きしめられて夢中になり、“この人だけを見つめ続けると決めた” 1年前が歌われる。そしてリフレインでは、出会って3年目の今が歌われるのだが、何が起こったのかは本作を聴いてほしい。聴き終えた後にタイトルの意味がわかり、静かな余韻に包まれること間違いなし。

また、ストリングスを基調にした武部氏の美しいアレンジも聴きどころ。イントロの弦とピアノの響きは荘厳だ。



第6位:SORAMIMI


アルバム『チャイム』収録(1986年)。
斉藤由貴と相性がいい谷山浩子が、作詞だけでなく作曲も手掛けた数少ない曲である。テーマは報われない恋。彼に思いを伝えたくても、それによって誰かが泣くことを考えると、どうしても伝えられない。せめて自分の思いを星に託し、「アナタガスキデス」と間接的にささやいてもらうが、彼にとっては空耳にしか聞こえない。聞こえたとしても、彼には気付かないフリをしてほしい…。

告白は絶対にできない、でも彼に抱く恋愛感情をどうにかしたい。そんな告白ギリギリの複雑で切なすぎる思いをメルヘンチックに表現した歌詞が、心に突き刺さる。そして、星がきらめくような美しい演奏に乗せて感情を抑えながら歌う斎藤由貴に、胸がキュンとする。



第5位:眠り姫


アルバム『風夢』収録(1987年)。
作詞は斉藤由貴、作曲は飯島真理という異色作である。この曲のテーマも、愛の喪失。自分との約束を忘れて、どこかに行ってしまった彼。ひとりはさみしすぎるので、百年のまどろみを眠り姫にお願いする。そうすれば、彼を信じたままでいられそう。

童話『眠り姫』をモチーフに、湖の描写を絡めて幻想的に仕上げた歌詞が聴きどころだが、表現力が素晴らしい。特に一番の出だしは、ポエムを読んでいるようだ。

 雨の日の薄墨を はいた湖
 けむる向こう岸 ともる灯り
 私のはるかな夢のように~

こんな歌詞を書いて自ら歌ってしまう斉藤由貴が恐ろしくなる。急に音程が上がるサビ、バイオリンが物悲しく鳴り響くイントロと間奏も、胸キュンポイントだ。



第4位:ブルー・サブマリン


アルバム『PANT』収録(1988年)。
このアルバムには、ささやき声を駆使した楽曲が幾つかあるが、その最高峰がこの曲。アコースティックギター一本をバックに歌いあげる斉藤由貴の声は、最初から最後まで、極限までボリュームを弱めたささやき声。「あ」の発音が「あはー」と聞こえるくらい、彼女の息づかいが聞こえ続ける。これがたまらなく萌えるのだ。

テーマは例のごとく男女の別れ。谷山浩子による歌詞は意味深で重いが、切なさはそれほど感じない。それよりも斉藤由貴の声がまとわりついて離れなくなり、胸キュンがループし続ける重度の中毒性がある。私も当時、この曲ばかりテープを巻き戻して何度も聴いた。間奏と曲の終わりに挿入された口笛も味わい深く、通しで何度も聴きたくなる危険な曲である。

第3位 月野原


アルバム『ガラスの鼓動』収録(1986年)。
斉藤由貴が出したアルバムで最も売れたのが『ガラスの鼓動』。このアルバムから彼女は作詞に関わるが、その中の一曲で、後に多くの作品を提供する崎谷健次郎氏が初参加した記念すべき作品である。

この曲の宝石のような美しさは筆舌に尽くし難く、とにかく聴いてほしいと述べるしかない。子供の頃から聖歌を歌ってきた彼女の美しい長音がたっぷり味わえて、月明かりの野原を歩いているような幻想に襲われる。ストリングス主体のアレンジ、月が野原を少しずつ照らし始めるようなイントロも、極上の美しさ。アルバムタイトルにもなった “ガラスの鼓動” のような美しい表現が随所に現れ、言葉の節々に胸がキュンとする。

また、この曲はA面2曲目に収録されているが、ぜひ1曲目のインスト曲「千の風音」から通しで聴いてほしい。音楽の美しさに心が癒されると思う。



第2位:土曜日のタマネギ


アルバム『ガラスの鼓動』収録(1986年)。
3位の「月野原」の後に収録されている曲で、後に12インチシングルとして発売された。谷山浩子を起用した初の作品であり、初のアカペラ曲。プロデューサーの長岡和弘氏をはじめ、久保田利伸、亀井登志夫、武部聡志、崎谷健次郎、谷山浩子らが参加したバックコーラスだけでも聴き応え十分だ。

みんな幸せな土曜の夜に彼から振られた自分を、スープにゆらゆら浮かぶタマネギ、おなべの底に引っ付くタマネギに例えてしまう想像力には驚くばかり。この歌詞に、脱力したような斉藤由貴の歌唱がマッチして、メルヘンとダークが同居したような不思議な世界を醸し出している点が、この曲最大の魅力だと思う。

また、アカペラなので斉藤由貴の声が際立って聞こえるのもポイント。スローな主旋律から微妙に遅れて声を発するあたりも聴きどころだ。

第1位:MAY


8枚目のシングル(1986年)。
1位は、やはりこの曲しかなかった。これまでアルバムを中心に選曲してきたが、最後はど直球のシングルヒット曲である。もはや細かい解釈や説明は不要だが、自分の思いを相手に伝えたくても伝えられない女性の心情が、歌詞の節々から痛いほど伝わってくる。

個人的な聴きどころは、2番のサビ。

 ばかね私 あなたを喜ばせたい なのに
 この夢から出られない 少し
 うつむいて微笑むだけ
 だけど好きよ好きよ誰よりも好きよ

混じり気なしのピュアな思いが、斉藤由貴の歌声に乗り、心にビシバシと突き刺さってくる。特に、最後の「好きよ」が絶品だ。当時の私はこの部分を聴き、涙がこぼれた。タイトルの「MAY」の意味は不明だが、言葉を聴くだけで心が優しくなれる曲である。

なお、この曲は編曲した武部聡志氏が、シングル化を強く希望して実現した作品。その武部氏がプロデュースしたデビュー35周年記念セルフカバーアルバム『水響曲』に収録された「MAY」も、合わせて聴いてみてほしい。別の意味で感銘を受けるはずである。


―― 以上、斉藤由貴の楽曲から、胸キュン度が強い10曲をランキングしてみた。「卒業」、「初戀」、「悲しみよこんにちは」といった代表曲が抜けているが、斉藤由貴の胸キュン度はアルバム曲に多く、この結果となった。また、90年以降のアルバム曲もクオリティが高いが、今回はピュアな胸キュンを意識して80年代から選ばせてもらった。

最後に、斉藤由貴の魔力のような表現力を最大限に引き出したのは、80年代のほとんどの曲を編曲した武部聡志氏と、キャニオンレコード(当時)の長岡和弘プロデューサーの功績が大きいと思う。ポップにクラシックを融合した武部氏の絶妙のアレンジが歌声を引き立たせ、声の表情と言葉を重視した長岡氏の曲作りが、彼女の内なる力を覚醒させたように感じる。

今回、そんな彼女の歌声を聴きすぎた私は、久々に魔法をかけられ虜になった。しばらくは、この夢から出られそうもない。

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2022.09.10
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カタリベ
1966年生まれ
松林建
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