昨今の世知辛いニュースを聞くにつけ、ちょっとやるせない気持ちになる。うるさい自主規制などなかった大らかな昭和を恋しく思う。そんな時ふと観たくなるのが、ご存知「江戸川乱歩の美女シリーズ」だ。
1977年7月からテレビ朝日系列で始まった2時間ドラマの王者、土曜ワイド劇場。中でも人気の高かった本シリーズは、三ツ矢歌子を初代美女に迎えた『氷柱の美女』で同年8月からスタートし、天知茂が亡くなる1985年まで、全25作が製作されている。その後明智役は北大路欣也、西郷輝彦に引き継がれ、シリーズは1994年まで続いた。
私が思い入れがあるのはもちろん天知茂版。明智といえば天知、天知といえば明智である。当時の私は小学生から中学生への成長期。あんなにドキドキして放映日を待ったことはなかった。
苦みばしった鋭い眼差しと眉間のシワ、渋く乾いた低い声。颯爽とイタリアンスーツに身を包み、ダンディーを地でいく当たり役だった(まあ、子供心に気になったのは、何よりネクタイの太さと、変装を解くシーンで顔に残る糊の痕だったけど)。
そんな洒落た出で立ちと真摯な探偵っぷりで、妖艶なワケあり美女をどんどん恋に落としていく。
その美女がとにかく脱ぐ。19作品を手がけた井上梅次監督は本作で最も大切なことは「午後9時55分に裸を出すこと」と断言している。エロに加えて分かりやすくグロテスクな死体、奇怪でチープなコスプレ感、毒々しく荒唐無稽な背景プロットなど、お茶の間の下世話な好奇心をフルスロットルで満たしてくれる玉手箱だった。
「キャー!」と叫んで顔を覆った手の指の隙間から目に飛び込んでくる、人工着色料のような血糊の鮮やかさ! OH キョーレツ!
ドラマをさらにケバケバしく怪しげに盛り立てるのが鏑木創による音楽だ。今回、テーマ曲のタイトルを散々検索して探したのだが、見つからなかった。「江戸川乱歩の美女シリーズのテーマ」としか出てこない。しかも、これまでにサウンドトラックは一度も発売されていなかったらしい。なぜなのか。大人の事情があったのだろうか。今後に期待したい。
そして、どの曲もタイトルがわからないのに、脳裏に焼き付いて離れない。これから始まるドラマへの期待を否が応にも煽る華やかなテーマ曲をはじめ、事件への導入部分をテルミンのような旋律で不穏に描き出す曲、美女の入浴シーンをムーディーに飾る哀切漂う曲、カーチェイスなどで使われていたドラムが印象的な曲、謎解きの変装解除で流れる曲などなど。ドラマにスリルとサスペンス感を上塗りして、心を離さない。思い出すだけで、どうしてこんなにワクワクしてしまうのか。
そんなことを SNS でつぶやくと必ずと言っていいほど盛り上がる。先日もそうだった。女優はだれが良かったかとか、どの回が一番好きかとか、あまりのエロさに親と一緒にテレビを観られなかったとか。
ちなみに私が選ぶベストは、ジュディ・オングが美女なのに犯人ではない第5作『黒水仙の美女』(エンディングが最高)。あ、でもやっぱり、『黒蜥蜴』を原作にした井上梅次監督ならではの第8作『悪魔のような美女』(小川真由美が最高)も捨てがたい。いや、82年のお正月スペシャルとなった『天国と地獄の美女』(原作が『パノラマ島奇談』)の大迫力も素晴らしい!
最終第25作『黒真珠の美女』撮影終了後に天知茂は倒れ、放送を観ずに亡くなったという。このニュースは覚えているし本放送も観た。本当にショックだった。自分の中で、天知茂=明智小五郎として永遠に記憶に刻まれた瞬間だったと思う…
なんて、飲みながらだったら、誰とでもいくらでも何時間でも話せる自信がある。よかったらどなたか美女シリーズ飲み会やりませんか?(笑)
※2017年11月26日に掲載された記事をアップデート
2018.07.27
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