7月25日

森高千里「非実力派宣言」強い意志をもってバブルの時代を生き抜くアイドル

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photo:Warner Music Japan  

1980年代の終わり、というか平成がはじまったばかりの1989年に僕がもっとも衝撃を受けたアルバムのひとつが森高千里の『非実力派宣言』だった。

美脚をめいっぱいアピールしたカラフルなコスプレ・コスチュームのジャケットも、もちろんインパクト十分だった。(さすがに買いはしなかったけれど、このジャケットのスタイルでフィギュアにもなった)。けれど、そんなビジュアルもさることながら、なにより僕が惹かれたのは、大胆にジャンルをクロスオーバーしながら構築されたオリジナリティあふれる音楽の面白さだった。

森高千里がシンガーとしてデビューしたのは1987年のことだった。正直言えばファーストアルバムの『NEW SEASON』は、コンテンポラリーテイストのサウンドに乗せた、ちょっとイケイケの女の子の世界という、バブル時代にはありがちな作品に思えて、あまりインパクトを感じなかった。

けれど、ダンサブルなデジタルビート色を強めたセカンドアルバム『ミーハー』 (1988年)、サードアルバム『見て』(88年)と、森高千里はアルバムを重ねるごとに、その個性をくっきりとしたものにしていく。なかでもとくに魅力的だったのが歌詞だ。『ミーハー』のタイトル曲「ミーハー」で、彼女は初めて自作の詞を発表しているが、大胆に自分をただのミーハーと言い切ってしまう詞には、それまで聴いたことがない感性があった。

続くサードアルバム『見て』では、「ストレス」、「出たがり」、「見て」など9曲中7曲の詞が森高千里の書きおろしとなる。ポップなサウンドに乗せて、男女の関係の機微を、女性ならではの視点で鋭く切り取ってい彼女の世界は、異色のガールズポップとして注目を集めていった。

しかし、森高千里のブレイクはまったく違う形で生まれた。彼女は1989年5月に、70年代を代表するアイドル歌手だった南沙織のデビュー曲「17才」(1971年)をカバーヒットさせた。そして「17才」がまだ話題となっていた1989年7月25日に発表されたのが4枚目のオリジナルアルバム『非実力派宣言』だった。

収録されているのは14曲。最初と最後には「17才」がふたつの編曲パターンで収められていたが、残る12曲中11曲の詞を森高千里が手掛けていた。

「17才」は、森高千里をアイドルとして認知させるヒット曲だった。これは推測だけれど、このタイミングで彼女自身も意識的にアイドルとして自分を演出していこうとしたんじゃないかと思う。アルバムジャケットに象徴される過剰にさえ見えるコスプレ衣装や、ステージでのアイドルっぽい振付など、アイドルのプロトタイプとも思える演出は、確かに男性ファンの心を捕えていった。

しかし、そんなお人形のようなビジュアルとは裏腹に、彼女が歌う曲からは、強い意志と、冷静に自分を見つめる自立した女性像が伝わって来た。だから森高千里がどれほど大胆なコスプレをしても、そこには下品さはなかった。だから彼女には女性ファンも多かった。

ブリブリのアイドルと自立した女性。森高千里が見せたそんなギャップのなかには、あの時代のバブル景気に浮かれる日本人の奥にあるリアルが描き出されていたんだと思う。

森高千里が描くアイドル像は、かつてのような男の子の願望にそった虚構の女の子像ではなく、強い意志をもってバブルの時代を生き抜くしたたかな “物言うアイドル” だった。ブリブリのアイドルを演ずることによって彼女は、男の画一的な女性に対する価値観に鋭いツッコミを入れていった。

それまでの “アイドルは夢の存在” というお約束を裏切る動きは、小泉今日子の「なんてったってアイドル」(1985年)からあったが、アイドルというキーワードを使っての姿を、『非実力派宣言』以降の森高千里は、さらに大胆に推し進めてみせることで、彼女は優れたコンセプチュアルなアーティストとしても認知されることになった。

『非実力派宣言』を、さらに興味深い作品にしているのが、マニアックな音楽ファンに支持されていたロックバンド、カーネーションとのコラボレーションだ。

カーネーションは「17才(カーネーション・ヴァージョン)」など3曲で演奏参加していた。一曲はカーネーションの「夜の煙突」のカヴァー、さらにもう一曲は、バンドリーダーの直枝政太郎(現・政広)が作曲し、森高千里が作詞した「はだかにはならない」だ。このカーネーションとのコラボレーションによって、『非実力派宣言』は、作品としての深みを獲得するとともに、ディープなロックファンにも一目置かれる作品となった。

さらに、「夢の中のキス」では、森高千里自身がドラムとオルガンを演奏しており、その後のマルチプレイヤーとしての一面も垣間見せるなど、『非実力派宣言』は、その後森高千里が創り出していく独自の世界観の最初の結晶といえる作品だった。

現在のアイドルシーンにも、ももいろクローバーZのように、ジャンルを越えたアーティストとのコラボレーションを積極的に行いながら表現の幅を広げていこうとする動きがある。振り返ってみれば、森高千里こそ、そうしたハイブリッドによって新たな可能性を切り拓いていった先駆者だったのではないかと思う。

2019.07.25
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カタリベ
1948年生まれ
前田祥丈
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