2021年 12月17日

劇画家 さいとう・たかをが「ゴルゴ13」と「鬼平犯科帳」で伝えたかったこと(後編)

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『劇画家 さいとう・たかをが「ゴルゴ13」と「鬼平犯科帳」で伝えたかったこと(前編)』からのつづき

主亡き後も描き続けられるもう一つの平成の代表作「鬼平犯科帳」


この9月24日で逝去からちょうど1年になるさいとう・たかを氏。しかし、さいとう・プロダクションが主亡き後も現在進行形で取り組む作品がもう一つある。江戸時代を舞台にした時代劇『鬼平犯科帳』である。原作は言わずと知れた池波正太郎。また同名のテレビドラマはやはり昨年亡くなった二代目中村吉右衛門の主演によって人気を博した作品であった。

この『鬼平犯科帳』は、1967年に連載が開始された小説が原作であり、1969年には既にテレビドラマの1stシリーズの放送が始まっている。さいとう・プロによる劇画の連載がスタートしたのは、時代も平成へと変わった1993年のことである。また同じ池波作品では2001年より『仕掛人・藤枝梅安』の劇画化にも取り組んだがこちらは2021年で終了している。

昨今の傾向としては原作小説から映像化、それも実写化、あるいはアニメ化があってコミカライズが最後というパターンは決して珍しいことではない。結局カドカワ等の大手出版社の力技でライトノベルからアニメ化、ゲーム化などのプロセスを経て物量による短期勝負が展開されるケースが多い。

だが『鬼平』についていえばその読者層、年代層の支持を考えれば、そんなスピード感とは無縁である。それゆえに映像化されて久しい、「吉右衛門=長谷川平蔵」というビジュアル的に強固なイメージ、しかも原作者のお墨付きというオマケまでついて、果たして劇画が介在する余地などあるのか… という疑念も一瞬頭をよぎるが、それは全くの杞憂だ。

何のことはない。劇画を読めば立ちどころに理解できるのだが、作品自体は原作に極めて忠実に描かれている。もちろん劇画ゆえに文章による詳細な描写は省かれているが、人物の表情といい物言いといい、「あぁ、この男はこんな風貌だったのか」と改めて理解を深める新たな発見があり、映像化とはまた違った “原作に寄せて表現できる劇画の強み” が存分に発揮されていることに気付かされる。

もとより協業が確立されたさいとうプロにおいては、原作を元に劇画化を図ることなどお手のものなのだ。平蔵の吹き出しを読むたびに、2代目吉右衛門の声が脳内を巡るという、何ともアナログ的ではあるが、これもメディアミックスエンターテインメントの一つの醍醐味というものだろう。

ゴルゴと鬼平、さいとう作品の中で生き続ける男たちの矜持


さて劇画版『鬼平犯科帳』にも主人公の印象に残るセリフは数多い。もちろん冷徹なデューク東郷に比べ、人情に篤い長谷川平蔵の言葉は、心温まるものなのだが、とはいえ “鬼” と恐れられる火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長官。現代で例えるなら “殺し” や “強盗” を取り締まる「警視庁捜査一課長」のような存在であるから、中には破天荒なものも見受けられる。

「悪(ワル)も見込のある奴は生かして使うのが俺の主義だ」

―― とは、盗賊の一味ながら、殺生に手を染めず幼子の命を救った男の素性を見込んで配下の密偵として使おうという口説き文句である。かと思えば、日頃の荒っぽい捜査手法をお上から咎められて曰く…

「われらは無宿無頼の輩を相手に面倒な手続きなしで刑事を働く、荒々しき御役目。… ゆえにその建前をもって此度の事件も処理いたした。それがいかぬと申されるなら、火付盗賊改メを廃止すればよろしい」

言葉は丁寧だが、上司に対しても言うべきことは言う。半沢直樹ばりに胸のすくセリフだ。そしてそれは彼のこのような考え方にも起因する。どうやら「相手が将軍家であろうとも、盗賊であろうとも、俺にとっては変わらぬことよ」というのが本音なのだろう。

平蔵が活躍した時代は老中松平定信による「寛政の改革」(1787~1793年)の頃。先の老中田沼意次の悪政によって、人心が荒み、盗みや殺しが横行して市井の治安は悪化の一途を辿っていったとされている。世の中に “御法度” なるものはあっても、法治国家とは程遠い不安定な社会だ。そしてここで問われるのも自分に課した掟のようなもの。

時代劇を愛した劇画家さいとう・たかをが結実した一つのダンディズム


国家も、幕府も、自分を守ってはくれない。世を渡り生き抜いて行くには己の生き方、考え方に独自のものさしを持たねばならない。悪を悪と疑わず、善を善と過信せず。だが自らが是と判断したならば最後まで信じる。時代も環境も違えども、前述した現代劇のヒーロー “ゴルゴ13” にも通じるものがある。二つの人物像の描写は劇画家さいとう・たかをによって、ひとつのダンディズムに帰結している。

劇画家さいとう・たかをは時代劇を愛した。リアリティを求められる劇画の世界にあって、誰も事実を確かめようがない昔話にはファンタジーが介在する余地が残されている。氏が残したさいとう・プロダクションは、対極の世界にありながら価値観の似た二人の男の姿をファンが求める限り、これからも描き続けることだろう。

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2022.09.25
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カタリベ
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