大学生の頃、ともだちと共にプロのミュージシャンを目指していたぼくの髪はいつのまにか肩まで伸びていた。
よしだたくろう(吉田拓郎)が「結婚しようよ」で “僕の髪が肩までのびて~♪” と歌っていたように、バンバンが「『いちご白書』をもう一度」で “就職が決って髪を切ってきた時〜♪” と歌っていたように、60年代から70年代にかけて、「長髪」は日本のフォークシンガーたちのシンボルのようなものだった。
もちろん、彼らのバックボーンには、当時アメリカで起こったヒッピー・ムーブメントがあったはずだが、遅れたフォロワー世代のぼくには、どちらかといえばファッション的な意味合いのほうが強かった。長髪=ミュージシャン、長髪=かっこいい、長髪=モテる、みたいな感じの上っ面フォロワーというか。
だから、ぼくも大学に入学してすぐに同じくらい髪の長いともだちを誘ってフォークデュオを作り、髪を伸ばし始めたのだ。
いきなり「髪」の話で脱線してしまったが、1980年の終りにヒットした、チャゲ&飛鳥の「万里の河」が大好きだった。フォークデュオという彼らのスタイルにシンパシーを感じたせいもあるし、アジアな雰囲気の曲調も新鮮でよかったが、何より、ふたりともとてつもなく歌がうまかった。コーラスグループではなく、ツインボーカルという印象のふたりの声の絡み合いにゾクゾクした。これくらいの実力がないと、プロデビューなんかできないんだろうな、なんて思いにもなった。
そういえば、中野坂上という駅の近くに、大学の頃にバイト仲間とよく通っていた小さなスナックがあった。そのお店のチーママをやっていたのは、ヒーちゃんという同世代のかわいい女の子(スナックのオーナーの娘さん)で、その子に会うのが楽しみだったこともあった。
80年の終りか、81年の初めだったか、その店で初めてカラオケで歌ったのが「万里の河」だ。アマチュアとはいえミュージシャンを目指しているぼくのことを知っていたヒーちゃんに「なんか歌って~」と言われて、そのとき大好きだった「万里の河」を選んだのだ。さすがにヒット曲だから、ヒーちゃんも知っていて、歌い終わったあとで「うま~い!」ってほめてくれた。ま、チーママだからね、当たり前っちゃ当たり前の反応だけども、それがすごく嬉しかった。
チャゲ&飛鳥はいつのまにかCHAGE&ASKAになり、いくつものヒット曲を生んで、ふたりの素晴らしいハーモニーで多くの人を魅了してきたが(ぼくもそのひとり!)、今はもう彼らの歌が話題になることはあまりない。いやー、もう、ほんとにもったいない。もっと彼らの歌声を聴きたいのに。
ふと気付いてしまったが、そういえばチャゲ&飛鳥(CHAGE&ASKA)もデビュー当初「長髪」組だったじゃないか! おそらく「長髪」になんらかの意味を感じていた最後の世代じゃなかろうか。
2016.09.24
YouTube / 早見淳
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