10月21日

僕のラジオデイズ、深夜に胸ときめかせた辻仁成のオールナイトニッポン

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限りなく夜明けに近い月曜の深夜3時。微かにノイズが混じったラジオのスピーカーから DJ のシャウトが弾けると、凛と張りつめた深夜の空気が踊りだすように感じた――


Hello! Hello! This is Power Rock Station!

こんばんは。DJ の辻仁成です。

真夜中のサンダーロード、今夜も抑え切れないエネルギーを探し続けているストリートの Rock’n Rider… 夜更けの硬い小さなベッドの上で愛を待ち続けている Sweet Little Sixteen…

愛されたいと願っているパパも、融通の利かないママも、そして今にもあきらめてしまいそうな君にも、今夜はとびっきりゴキゲンなロックンロールミュージックを届けよう。

アンテナを伸ばし、周波数を合わせ、システムの中に組み込まれてしまう前に、僕の送るホットなナンバーをキャッチしておくれ。

愛を! 愛を! 愛を! 今夜もオールナイトニッポン!


これは、87年10月5日から89年10月2日まで2年間にわたり午前3時から放送された『辻仁成のオールナイトニッポン』オープニングのナレーションだ。

当時、僕は19歳。一週間の始まりのこんな深い時間にラジオの周波数を合わせ、この番組を聞くことが、12歳から始まった僕のラジオ・デイズの最後だったように思う。80年代をティーンエージャーとして過ごした僕にとって、ラジオの存在は、十代特有の自意識過剰でわがままな孤独を受け入れ、すぐ傍にいてくれる理解者のようなものだった。

12歳のころは、たのきんトリオや松田聖子などの10分枠のアイドル番組を羅列した『吉田照美のてるてるワイド』に夢中になり、中学時代は同じく文化放送で深夜0時30分から始まった『ミスDJリクエストパレード』に夢中になった。

ここでは、佐野元春、浜田省吾といった、テレビではお目にかかれない邦楽アーティストがヘビロテされていた。クラスの誰も話題にしない僕だけのヒットナンバーがそこにあった。周波数を合わせてキャッチするゴキゲンなナンバーに胸を躍らせ、ラジオのヴォリュームに手を伸ばす。その無意識の行為がなんて尊かったんだろうって今改めて思う。

僕だけのヒットナンバーは、たとえ悩みを抱えていても、ひとりぼっちでも大丈夫だと教えてくれた。それは、ザ・フーのギタリスト、ピート・タウンゼントが言うところの「ロックンロールは、別に俺たちを苦悩から解放してもくれないし、逃避させてもくれない。ただ悩んだまま躍らせるんだ」と同じことだった。

十代という多感な時期のぼんやりとした不安。ただただ理由も見つからないまま親や学校に反抗して、自分の居場所を探し続けていた僕にとって、深夜のラジオから流れるロックンロールは、何の悩みも解決してくれない。しかし、根拠のない自信をもたらしてくれた。頭の中をカラッポにしてくれた。ウソじゃなく、その瞬間だけが全てと思わせてくれた。その極めつけが『辻仁成のオールナイトニッポン』だった。冒頭で書いたナレーションが僕にとってそのままロックンロールだった。

「アンテナを伸ばし、周波数を合わせ、システムの中に組み込まれてしまう前に、僕の送るホットなナンバーをキャッチしておくれ」

―― というフレーズは、極めて個人的なメッセージと思えた。リスナーからのハガキをカードと呼び、どんな悩み事にも「問題なーい!」とシャウトする辻氏のスタイルに、大好きな映画『アメリカン・グラフィティ』に登場し、アメリカ全土にリスナーを持っていたウルフマン・ジャックの姿を重ね合わせていた。

この番組を通じて、僕はザ・クラッシュの「ポリス・オン・マイ・バック」やアダム・アントの「グッディ・トゥー・シューズ」などポストパンク期の名曲を知る。そして、そんな音楽の向こう側に果てしない荒野を思い浮かべた。ラジオから流れるロックンロールは長いトンネルの先に見える小さな灯りをほのめかせてくれた。

当時のそんな僕の心情を辻氏率いるエコーズは「JACK」という曲の中で、


 十歩先をよむのが得意な 批判家のように
 俺達はいつも急ぎすぎて
 忘れてしまっている
 ダウンした時には必ず
 君の話を聞いてくれた Angel
 またどこかにきっといて
 この道の上で君を待ち続けている


と歌ってくれた。

ダウンした僕の話を聞いてくれたのは、いつも深夜のラジオから流れるあなたの声だった。そこに流れる3分間のロックンロールは、ストリートでいつも僕を待ち続けてくれた。あれから30年。僕は、あの頃のラジオ・デイズを思い出す。そして、十代のうつむき加減の自分の肩に手を伸ばし「人生まんざらでもないぞ」と声をかけてみる――

辻氏は90年代に入ると作家として頭角を現し、97年には芥川賞を受賞。現在では当時のスタイルとはまったく違った遠い存在になってしまった。

それがいいとか悪いとかはない。

時は流れ、人は変わっていく。しかし、僕はいまでも「ひとなり」ではなく「つじじんせい」と呼んでいる。



歌詞引用:
JACK / エコーズ

2018.07.18
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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