スリー・ストーリーズ by Re:minder
郷ひろみ ② 初のニューヨーク録音!24歳の大人っぽい色気と広がる表現力
特色をもったオリジナルアルバムを発表していた1970年代後半の郷ひろみ
1970年代後半の郷ひろみはテレビや映画の露出も多く、本人も出演したTBS系テレビドラマ『ムー』の挿入歌となった「お化けのロック」(1977年)や、その続編である『ムー一族』の挿入歌「林檎殺人事件」(1978年)などのヒットで、新たなファン層を獲得していった。
アルバムリリースも積極的で、郷ひろみ自身が作詞作曲を手がけた曲も収められた『街かどの神話』(1976年)。シングル以外は全作曲を都倉俊一が担当した『アイドルNO.1』。大多数の作詞作曲が阿木燿子と宇崎竜童のペンよる『ピラミッドひろみっど』(1977年)。全ての作曲編曲を穂口雄右が担った『Narci-rhythm』(1978年)など、1作ごとに特色を持ったオリジナルアルバムを発表している。
ライブアルバムのリリースも多く、アメリカでのライブ『GO GOES ON!HIROMI IN U.S.A』(1976年)や、『フェニックス HIROMI IN BUDOKAN』(1978年)など、1975〜78年の間に5枚のライブ盤を出している。ここで目に付くのは洋楽ポップスやロックなど外国曲のカバーがかなり多く収められていることである。
初の海外レコーディングが行われた「SUPER DRIVE」
そして、1979年に郷ひろみは3枚のオリジナルアルバムを発表した。まず、筒美京平が全曲の作曲を久しぶりに手がけた『アポロンの恋人』。アナログ盤のA面はシングル曲などのオリジナル曲、B面にロニー・ミルサップ、ビリー・ジョエル、ニール・ダイアモンドなどのコンテンポラリーな洋楽ヒット曲の日本語カバーを収めた『LOOKIN' FOR TOMORROW』。そして今回の本題、郷ひろみにとって初の海外レコーディングとなったニューヨーク録音の『SUPER DRIVE』である。
『SUPER DRIVE』の演奏は全面的に24丁目バンド(The 24th Street Band)が担当している。24丁目バンドとは、ニューヨークの第一線スタジオミュージシャンによって1978年に結成されたグループで、メンバーはハイラム・ブロック(ギター)、クリフォード・カーター (キーボード)、ウィル・リー (ベース)、スティーヴ・ジョーダン (ドラムス)といった面々。1979年にファーストアルバム『24thストリート・バンド』を発表した、当時の世界的最先端バンドだった。
けれど、『SUPER DRIVE』を聴いても、初の海外レコーディングだから特別なことをしなければといった気負いは感じられない。それは、収録楽曲すべてが萩田光雄、林哲司、吉野藤丸、菅原進などの日本人作家によるもので、編曲も全曲を萩田光雄が担当。いつもの郷ひろみの世界とあまり違和感のないイメージに仕上げられているからだ。
おそらくそれは、時代の先端を走るかっこいいアーティストとして成長していく姿を見せながらも、郷ひろみのファンが付いて来られない世界をつくるのは違うという制作サイドの判断もあったろう。なので、24丁目バンドの卓越した演奏によるハイセンスなフュージョン・テイストのサウンドを持ちながらも、洋楽感覚に走り過ぎず、歌謡ポップスのアルバムとして成立するように作られている。このあたりの匙加減は見事というほかはない。
24丁目バンドが作り出す洗練されたサウンド
『SUPER DRIVE』に収められているのは全10曲。この中でシングル曲は1曲目の「朝陽のプロローグ」と、続く「マイ レディー」の2曲。「マイ レディー」は郷ひろみが出演したTBS系ドラマ『家路〜ママ・ドント・クライ』の挿入歌で、アルバムとは違うアレンジが施されている。
一方の「朝陽のプロローグ」は、『SUPER DRIVE』の1か月後にリリースされたシングルB面に収められた。A面の「セクシー・ユー(モンロー・ウォーク)」は、この『SUPER DRIVE』には収められていないが、南佳孝が1979年4月に出した「モンロー・ウォーク」のカバー。今でいうシティポップの名曲のひとつで、当時は知る人ぞ知る曲だった。そんな曲を突然カバーしたということで、郷ひろみを見直す音楽ファンも多かった。そういった意味においては、24丁目バンドをさらっと起用して、洋楽ファンにも一目置かれることになった『SUPER DRIVE』にも通じるシングルだったといえるだろう。

この「セクシー・ユー(モンロー・ウォーク)」でも感じられるが、『SUPER DRIVE』の楽曲からは、郷ひろみの歌にこれまでにない表現力の広がりや大人っぽい色気が感じられる。そして、24丁目バンドが作り出す洗練されたサウンドが楽曲の表情をさらに豊かなものにしている。そんな音楽的感性が感じられることも、このアルバムの魅力だ。
心地よい軽快なアンサンブル、フュージョン・テイストのアルバム
たとえば、コンテンポラリーなソウルテイストの「WANNA BE TRUE」のスリリングなアンサンブル。「地平線の見える時」でたっぷり泣いてるハイラム・ブロックのギター。そして、しっとりとしたソウルバラードの「SOMEONE LIKE YOU -君に似た誰かが-」ではクリフォード・カーターのハモンドオルガンがムーディに間奏を彩っていく。
さらに「FEEL LIKE GOIN' HOME -夢が住む街へ-」では、バリー・ホワイトのラブ・アンリミテッド・オーケストラを思わせる、なんとも心地よい軽快なアンサンブルを聴くことができる。全体的にはフュージョン・テイストのアルバムなのだけれど、その中にスライドギターを効かせたカントリーロック風の「哀愁ニューヨーク」があったり、アルバムのラストをムードジャズ・テイストの「LONELY NIGHT」で飾ったりと、サウンドのバリエーションでも飽きさせない。
そして何よりも、この極上サウンドに乗った歌が “郷ひろみそのもの” であることが、このアルバムの大きな魅力なのだ。10代の郷ひろみにはなかった、大人になろうとしている男の色気がリアルに醸し出されている。デビュー当時「男の子女の子」を無邪気に歌っていた愛くるしい少年が、自分なりの人生を真っすぐに受け止めて成長し、これほどまでに魅力的な男になった。『SUPER DRIVE』は、そんな感慨を抱きたくなるアルバムだ。横尾忠則が描いたカバーアートも、彼にしかできない表現を極めようとする、強い個性を象徴しているように感じられる。
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2026.01.27