12月15日

宮崎駿 引き算の美学「ルパン三世 カリオストロの城」はルパンと次元のバディもの!

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映画「ルパン三世 カリオストロの城」劇場公開日
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「ルパンは緑」という誓いの合言葉


「緑ルパンが復活するって」

そう教えてくれたのは、当時―― 小学校の同じクラスのアニメ通のEクンだった。彼には大学生のお姉さんがいて、なんでもアニメ研究会なるサークルに所属しており、そのツテでディープなアニメ情報を仕入れては、時々僕に教えてくれた。

そのころ―― 1970年代末は、それまで「テレビまんが」と称されていたものが「アニメ」と呼ばれ始めた、いわゆるアニメ黎明期。ブームをけん引したのは、高校生や大学生のお姉さんたちだった。

彼女たちのお目当ては、松本零士先生の作品だった。そう、『宇宙戦艦ヤマト』の古代進や『キャプテンハーロック』のハーロック艦長が、女子高・大生たちのアイドル。つまり、『さらば宇宙戦艦ヤマト』の主題歌が沢田研二になったり、『銀河鉄道999』の劇場版の鉄郎が二枚目に改変されたり、その主題歌をゴダイゴが歌ったのは―― 彼女たちのマーケットに配慮した結果。アニメが男性オタクの趣味になるのは、その後の話である。

閑話休題。

緑ルパン―― それは、僕とEクンの間で度々交わされた「ルパンは緑」という誓いの ”合言葉” だった。

「ルパン三世 カリオストロの城」。監督は宮崎駿


当時は、毎週月曜の夜7時から『ルパン三世』の第2シーズンが放映中だった。だが、僕とEクンは、その赤いジャケットのルパンを認めていなかった。僕らの中でルパンと言えば「緑ルパン」のことであり、即ち再放送でしか知らない第1シリーズを指していた。

小学生ながら、僕らは緑ルパンの魅力を「話の面白さ」と見抜いていた。初期の大人の世界を垣間見せてくれるクールなルパンも、中・後期のエンタテインメント全開のコミカルなルパンも、どちらも話の面白さでは甲乙つけがたく、僕らは両路線とも好きだった。後年、初期は大隅正秋(現・おおすみ正秋)サンが、中・後期は高畑勲・宮崎駿コンビが演出していたことを知るが―― 小学生の僕らは、ただ「緑ルパン」という記号のみで、両者の偉業を称えていた。

そして話は冒頭に戻る。

「緑ルパンが復活? マジで?」
「マジ。映画だけど」
「面白いと?」
「わからん。でも、緑だから」

今ならネットを使えば、瞬時に映画のスタッフリストが手に入るが、当時の小学生に映画の詳細情報を知る術はない。原作者がモンキー・パンチなのは知っていたが、一度原作漫画を読んでショックを受けて以来、僕らの間で原作者の名前は封印された。

そして、映画は公開の日を迎える。

時に、今から44年前の1979年12月15日―― 映画のタイトルは『ルパン三世 カリオストロの城』。監督は宮崎駿、その人である。

大人の男2人の物語、ルパンと次元の映画


その年の冬休み、僕らはEクンのお姉さんに付き添ってもらい、中洲の映画館へと出かけた。

「めちゃくちゃブスやけん、驚くなよ」

Eクンにそう脅されたお姉さんは全然ブスじゃなく、思ったより小柄で、大人しい人だった。今では信じられないが、館内は半分くらいの入りだったと記憶する。

映画は、国営カジノのシーンから始まる。ルパンと次元が札束の入った袋を抱えて逃げる。間違いない、緑ルパンだ。この瞬間、僕は軽く興奮したのを覚えている。

その後、札束が偽札と分かり、2人は愛車・フィアット500から大量の札束を車外に放つ。めちゃくちゃな量の札束が放たれる。そして空へ――

ここにタイトルが被さる――『ルパン三世カリオストロの城』。

なんだろう、抜けるような青空に右上がりの書体がカッコいい。「ルパン三世」と書かれた紙には短剣が突き刺さり、「城」の文字は象形文字のごとく城のシルエットになっている。このタイトルを見た瞬間、僕は同映画が傑作であることを確信した。本当だ。タイトルを見ただけで、こんなにもワクワクさせてくれる映画は他にない。



そして主題歌の「炎のたからもの」が流れる。当時、映画は冒頭に主題歌がかかっていたのだ。作詞・橋本淳、作曲・大野雄二。歌うは、ボビーである。

 幸せを訪ねて 私は行(ゆ)きたい
 いばらの道も 凍てつく夜も
 二人で渡って 行きたい

タイトルバックは、ひたすら旅を続ける愛車フィアットと、ルパンと次元の2人が描かれる。ポイントは、歌詞にもある「二人」だ。そう、僕らは忘れかけているが、『ルパン三世』は第1シリーズの1話を観ても分かる通り、原点は ”バディもの” である。大人の男2人の友情物語。普通、「二人」と書かれると恋人同士を連想するが、ここでは敢えて友情説を取りたい。敢えて、ね。カリ城は、要するにルパンと次元の映画なのだ。

パリの最新モードを着る峰不二子


以前、ルパンのアニメ化40周年を記念して、銀座松屋で『ルパン三世』展が開催されたことがあった。僕も来場したんだけど、この時、第1シリーズと第2シリーズそれぞれの企画書が展示してあって、両シリーズの違いを知るのに、印象的なくだりがあった。

まずは、第1シリーズの企画書である。峰不二子の紹介ページには、なんと彼女のオールヌードが描かれ、こんなキャプションが添えてあった。

「峰不二子は、オンエア時点のパリの最新モードを着せます」

―― カッコいい。不二子の魅惑のボディを惜しげもなく見せつつ、それはエロティック目的ではなく、あくまで表向きはファッションを理由に掲げる。これぞ大人のウィット。緑ルパンが傑作なのは、この種の大隅正秋サンが記した文章のセンスからも分かるというもの。

それに対して、第2シリーズの企画書である。こちらのキャラクター紹介のページは、前文にこんな但し書きがあった。

「本シリーズでは、ルパン・次元・五右ェ門・不二子・銭形の5人が毎回必ず揃います」

―― なんということだ。ゴレンジャーか? この一文からも分かる通り、第2シリーズは、いわばルパン一家のキャラクターショーである。まず5人ありき。僕とE君が抱いた同シリーズへの違和感も、そこにあった。ちなみに、宮崎駿監督が第2シリーズの立ち上げ時に演出を打診された際、「五右ェ門が出ない回を作っていいですか?」と聞き返して、そこで話が折り合わず、参加を見送ったエピソードが残されている。

言われてみれば―― カリ城における五右ェ門の存在感は薄い。不二子ですら単なる脇キャラである。銭形も、ルパンの敵役ではなく、サポート役でしかない。ラストに名セリフを吐いて記憶には残るが、全体を通したキャラは弱い。

お分かりだろうか。あの物語で宮崎駿監督が伝えたかったのは、これは「ルパンと次元」の ”バディ” の話であり、「ルパンとクラリス」の淡い恋の物語であり、その3人で伯爵を倒す冒険活劇なのだ、と。

そう、敢えて五右ェ門と不二子と銭形を強調しないことで、カリ城は名作となった。これぞ引き算の美学。そのメッセージを冒頭の主題歌でさりげなく教えてくれる宮崎駿監督は、やはり天才である。



そう言えば、あの日、映画館を出て、Eクンのお姉さんが帰りしなにこんなことをつぶやいた。

「五右ェ門様、あんまり活躍しなかったな」

彼女がカリ城に対して口にした感想は、あとにも先にも、それのみである。


2018年12月15日に掲載された記事をアップデート

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2023.05.05
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ボンクラ
緑も赤もええと思うで
2023/05/08 00:03
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カタリベ
1967年生まれ
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