再三ツイートしているが、男も女も年齢関係無く「可愛げ」は非常に人として大事であると思っている。しかし大抵の男性は「可愛い!」という褒め言葉に対して昔も今も困惑する。
「男としては可愛いって言われて喜べない」
―― と何度も若い時から言われたが、はて、男に対して「カッコイイ!」では無く「カワイイ!」を最大の褒め言葉として使ったのはいつ頃からかを考えたらある記憶が蘇った。
1983年。私はアパレル会社の社員をしていた。原宿のピテカントロプス・エレクトスや DEPT を運営する会社が自社ビルを建設する事になり一時的に雑居ビルへ本社を移転した。幹線道路沿いで周りに店も無く、ビルの地下に唯一入っていた中華料理店で毎日ランチを食べざるを得なかった。その日も同僚6人位とお昼に入店。日替わり定食は確か支那そば。大きなテーブルに座り談笑していると団体が入って来た。
「あ!」
私達は無言で目配せした。
ビルに面した幹線道路の向かいには、やはりアパレル会社 45rpm があり、そこのデザイナーの太田保美(井上保美)さんを先頭に、後ろに沢山の男性が見えた。
デニムメインのユニセックスブランドのデザイナーで取締役の太田さんは黒髪のロングヘアーに眩しい位の白いシャツワンピースで当時の私達からしたら思わず背筋を伸ばしてしまう凛とした魅力的な存在だった。
小さな店内で団体が座る場所が無かったので私達の大テーブルを太田さんにお声掛けして譲り、私達はカウンター席にバラバラで移動した。その時、席を譲った太田さんの連れが7人の男性である事に気付いた。大テーブルでも狭くキチキチになりながら、やはり彼らも「支那そば」を注文した。
先に注文した私達の支那そばが来た。カウンター席でバラバラなため、さっきまでと打って変わり無言で食べながら耳だけは太田さんたちの会話に集中。どうやら彼らはデビューが決まっているミュージシャンで全員一緒に住んでいるようだ。彼らの衣装を太田さんがデザインする事になったらしい事は分かった。そして、ようやく彼らの大テーブルに支那そばが出された。
「麺が縮れとう」
このイントネーションで「福岡の人だ」と確信した。グループ名が「チェッカーズ」と判明したのは私達が会計に席を立った時だった。
太田さんに会釈をすると彼らも会釈をしてくれた。店の外に出てエレベーターで本社に戻る時に同僚が声をあげだした。
「可愛かったねー!」
「カワイイー!」
「カワイイって? 太田さんが?」
「違う! チェッカーズに決まってるじゃん!」
その日の午後から社内は「チェッカーズがカワイイ!」で持ちきり。当時アパレルメーカーがリースする事はあってもグループの衣装をデザインしてタイアップする事は非常に珍しい時代だった。太田さんがデザインした “先染めチェック” の衣装を身に纏った彼らはあれよあれよと大ブレイク。
カワイイは正義。
カワイイは無敵。
男女問わず、今でも変わらない。
2019.04.08
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