デーモン閣下が歌う「22才の別れ」 “えっ⁉” と驚くような組み合わせだ。PANAM設立55周年を記念したカヴァー企画『PANAM 55/100 SUPER SONG COVERS』の第7弾として、5月13日に配信リリースされたこのカヴァー。楽曲はフォークソングを代表する名曲「22才の別れ」。歌うのは、人間の体を借りた悪魔、聖飢魔Ⅱのヴォーカル・デーモン閣下である。しかも、作詞作曲を手掛けたフォーク界のレジェンド、伊勢正三ご本人がリードギターで参加している!
どうしてもデーモン閣下の起用に驚く。いや、もちろん、彼の歌唱力は素晴らしい。これまでも昭和・平成の名曲カヴァー企画やコラボレーションにに多数加わっており、歌謡曲への知識や愛も広く知られている。世を忍ぶ仮の姿で大学に通っていた頃、フォークソングクラブに所属していたというから、筋金入りだろう。デーモン閣下の「見上げてごらん夜の星を」のカヴァーを聴いたことがあるが、名歌唱だった。
ただ、「22才の別れ」は、風に吹かれて消えてしまうような、繊細な儚さが印象的な歌だ。正直、彼の力強い声質と圧倒的な声量を活かせる曲とは言い難い。さあ、どうなる? 興味をそそられながら再生ボタンを押す。聴こえてきたのは、時代の変化に合わせたアレンジでも、悪魔風の奇抜なアピールでもなく、ひたすら「22才の別れ」という楽曲、そして伊勢正三への深い深いリスペクトだった。
22歳で嫁ぐ時代に生まれた「22才の別れ」 まず、オリジナル「22才の別れ」がリリースされた時代背景や、歌詞のストーリーがなかなか衝撃的なので振り返っておきたい。最初は昭和49年、かぐや姫のアルバム『三階建の詩』に収録された。そして翌昭和50年、かぐや姫解散後、伊勢が大久保一久と結成したフォークデュオ・風のデビューシングルとして新たに録音されたバージョンが発売された。
昭和50年前後は、今よりもずっと若くして結婚することが当たり前とされた時代だった。それでも、22歳で嫁いでいくという設定には、今あらためて聴くと驚かされる。歌われているのは、17歳から5年間付き合った相手に別れを告げ、その人の知らないところへ嫁いでいく22歳の女性の心情だ。あまりにもやるせないストーリー。それを伊勢正三は驚くほどさらりと描いている。
デーモン閣下はリリース当時、世を忍ぶ仮の年齢で12歳。まだ人間の身体はちびっ子だった。今回カヴァーするにあたり、「当時は22歳で嫁ぐために別れるという、すごく大人の世界を垣間見るような気持ちで聴いた歌だった。それをはるかに上回る “世を忍ぶ仮の人間年齢” になったときに、作ったご本人の前で歌うことになるとは…… オーディションのような気持ちになった」と語っている。
佐橋佳幸が見事に再現したギターの音色 この曲が熱狂的に愛された理由は、共感できる歌詞だけではない。その魅力を決定づけているもののひとつが、あまりにも印象的なアコースティックギターの音色だろう。細い糸が危なっかしく絡み合うかのようだ。特に、「♪そんな気がして……」の部分で鳴る、伝説の “ピン” と弦を弾く音!をプロデューサーである佐橋佳幸がギターを奏で、見事に再現している。当時ギターを手にした若者の多くが、この “ピン” を弾きたくて「22才の別れ」を練習したのではないだろうか。
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リメイクではなくリスペクト!悪魔が歌う「22才の別れ」 さて、未知数に思えたデーモン閣下との組み合わせはどうだったのか。ミュージックヴィデオには、あのテレビで見る(馴染みの)姿のデーモン閣下がレコーディングする姿が映し出されている。普通なら、悪魔のいでたちのインパクトが強すぎて、歌が入ってこなくなる危険もある。正直、私もそれをある程度覚悟していた。ところが、声量を抑え、まろやかな声で言葉をひとつひとつ置くように歌う彼からは、曲を自分の色に染めようとする気配は、かけらもなかった。不思議なほどの切なさと、この曲を何度も聴いてきた者ならではの、好きで好きでたまらない(これはこうでなくてはいけない)という想いが届いてきたのである。
それは、リメイクカヴァーというより、リスペクトカヴァーという行為に近いのかもしれない。ああ、このカヴァーの目的は、昭和フォークの世界観を令和風に再現することではないのだ。デーモン閣下、佐橋佳幸、林立夫、小原礼、Dr.kyOnという錚々たるメンバーが、「22才の別れ」を聴いたあの時の衝撃と感動を、そのまま大切に抱えて、ただただ丁寧に作っている。伊勢正三を囲み、“たまらないなあ” と噛みしめるように、それぞれの胸の中にある「22才の別れ」を、もう一度そっと取り出している――。悪魔が歌っているけれど、こんなに人間味のあるカヴァーはそうそうないかもしれない。
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2026.10.26