昨今のシティポップブームにおいて再び脚光を浴びている香坂みゆき 香坂みゆきは、3歳から少女モデルとして活躍した後、1975年にフジテレビ系のバラエティ番組『欽ちゃんのドンとやってみよう!』のマスコットガールに抜擢され、お茶の間の人気を獲得する。そして1977年に14歳でシングル「愛の芽生え」をリリースして歌手デビュー。以降、タレント、女優、そして学業と並行しながら、着実に歌手活動を歩んでいった。
デビューした1977年から1979年までに9枚のシングルと3枚のオリジナルアルバムを発表しているが、1970年代の楽曲はアイドル的なアプローチが中心であった。しかし、本来の魅力である高い歌唱力は、1980年代に入るとボーカルの個性が際立つ楽曲によって、より鮮明に引き出されていくことになる。1980年に発表された「KIRARI」や「流れ星」は、当時のニューミュージックブームを背景に制作された楽曲だが、この時期からボーカルスタイルは明らかに大人びたものへと変化した。ちなみにこの2曲は、昨今のシティポップブームにおいて再び脚光を浴びている。
VIDEO
世代や国境を越えて愛され続けている「ニュアンスしましょ」 その後、山崎ハコのデビューアルバム『飛・び・ま・す』から「気分をかえて」「サヨナラの鐘」をカバーし、実力派ボーカリストとして再注目されたりもした。大人のシンガーとしてキャリアを重ねる中、1984年に資生堂化粧品・秋のキャンペーンCMソングに起用されたのが、彼女の代表曲「ニュアンスしましょ」だ。大貫妙子作詞、EPO作曲によるこの歌は、自身最大のヒットを記録。現在も世代や国境を越えて愛され続けている。
1987年には、デビュー以来在籍したポリドールからフォーライフ・レコードへ移籍。この時期のシングルは2枚だが、香坂みゆきはアルバムアーティストとして極めて質の高い作品を世に送り出している。当時の評価以上に、サブスクで音楽を聴く現代の感性にしっくりと馴染むのは、音楽の持つ不思議な魅力と言えるだろう。1987年の『Nouvelle Adresse』(ヌーヴェルアドレッセ)、1988年の『La Vie Naturelle 』(ラ・ヴィ・ナテュレル)は、全曲の作詞を吉元由美、編曲を瀬尾一三が手がけた名盤だ。
VIDEO
早すぎたカバーアルバム「CANTOS」 1990年代に入ると、新たな挑戦としてカバーアルバム『CANTOS』シリーズを発売。1991年4月、6月、8月と2か月おきにリリースされたこの3部作は、日本の名曲を斬新で洗練されたアレンジで表現するも、カバーアルバムはまだ珍しい形態であり、ヒットには至らず。まさに早すぎた企画だった。そして、この『CANTOS』シリーズを最後に、タレント、女優業の多忙化もあり、シンガーとしての活動を休止する。転機が訪れたのは、デビュー45周年を迎えた2022年のことだ。
還暦を前に、今やりたいことを自問した際、自然と浮かんだ答えが “歌うこと” だったという。そこで配信リリースされたのが、カバー曲「かもめはかもめ」と「虹のひと部屋」である。「かもめはかもめ」は中島みゆきが研ナオコに提供した、言わずと知れた1978年の名曲だが、「虹のひと部屋」は石川セリのアルバム『ときどき私は……』(1976年)に収録された隠れた名曲。再始動にカバーを選んだのは、活動休止前の『CANTOS』の続編にしたいという思いがあったからだという。そこには、30年以上のブランクを感じさせない、艶やかな歌声が響いていた。
VIDEO 歌手活動の再開にあたり、SNSを通じて作詞家、吉元由美と再会したことも大きな出来事だったという。フォーライフ時代もお茶を飲みながらの会話から多くの歌詞が生まれたというが、2024年の新曲「黄昏とせつなさと」では、吉元由美が歌詞を提供。この曲にも、2人の対話から生まれたヒントが反映されている。
また、この時期から自身での作詞もスタート。「黄昏とせつなさと」と同時配信された「風にまかせて」や、2025年リリースの「明日へ」では自ら言葉を綴っている。
デジタルシングル「空」を4月21日に配信 2025年には「ニュアンスしましょ(Studio Live 2025)」を収録した『BEST OF CANTOS』をアナログ盤限定でリリース。復帰後はマイペースながらも、着実に音楽の道を歩み続けている。そして、デビュー49年目を迎えた今年(2026年)の4月21日には、新曲「空」が配信された。意図的な設定ではなく、自然なタイミングで生まれたというこの曲は、作曲を手がけた古川ヒロシのギター1本によるシンプルでナチュラルな作品だ。
想像した未来とは 違う明日でも
それはそれで幸せ
現在のありのままの自分を受け入れるという、彼女からのさりげないメッセージが込められた等身大のバラードである。また、カップリング曲の「二人」は、シティポップ風の軽快なアレンジが初夏の風を感じさせる、これからの季節にふさわしいナンバーだ。この2曲は、ハワイでの休暇に出かける直前に古川から送られてきたもので、休暇中のハワイの朝の空気の中で、彼女自身が言葉を書き上げた。
VIDEO 今年も自分らしく活動を続ける中、5月31日にKIWA 天王洲で開催されるライブは早くも完売。7月から9月にかけては、古川ヒロシのギターと彼女のボーカルによる『CANTOS』ライブツアーが予定されており、初上陸となる博多をはじめ、大阪、東京の3都市を巡る。来年のデビュー50周年を前に、まずは新曲「空」「二人」に耳を傾け、その現在の歌声に触れてみてほしい。
▶ 香坂みゆきのコラム一覧はこちら!
2026.04.26