1977年 2月4日

どうなる!? アメリカ大統領選挙と時代の節目に現れるフリートウッド・マック

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フリートウッド・マックのアルバム「噂」が米国でリリースされた日
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トランプか? バイデンか? 全世界が注目するアメリカ大統領選挙!


11月3日(現地時間)はアメリカ国民ならずとも世界中が注目するアメリカ大統領選挙の投票日である。与野党の代表者が一騎打ちで激突するこの選抜方式は決闘好きのアメリカン気質の象徴ともいえるものだが、実はカニエ・ウエストなどの泡沫候補(失礼!)も存在していることは、日本国内ではあまり知られていない。

ともあれ注目は苦戦が伝えられている現職のトランプ大統領の票の行方である。彼はこの選挙期間を通じて、独り相撲といっていいくらい、マスクはしないわ、コロナにかかるわ、お騒がせで、時として世間の嫌われ者であった。例えば支持者の集会などで人々がよく知る楽曲を使うと、その作者やら著作権者から「貴方を支持していない」「心外だ」などといって、楽曲の無断使用に対して抗議を受けている。

もともと彼は先の大統領選でも過去の女性スキャンダルや女性蔑視とも取れるような発言をして、フェミニストとして知られるマドンナをはじめ、他の有名女性アーティストが不支持を表明するなど、ミュージシャンたちとはあまり相性がよろしくない。少し挙げただけでも「ハッピー」を使われたファレル・ウィリアムスの他、リアーナ、エアロスミス、アデル、トム・ペティの遺族やプリンスの遺産管理団体、ニール・ヤングに至っては法的措置まで行って抗議の意思を訴えた。

あれ、ニール・ヤングってカナダ人だよな? といえば、アメリカ人だけでなくイギリスのミュージシャンたち、ローリング・ストーンズやクイーンからも総スカンを喰っている。「スタート・ミー・アップ」とか「伝説のチャンピオン(We Are The Champions)」とか、いかにもキャッチーなフレーズの楽曲を持っているから身もふたもない気もするが、トランプ大統領自身はニール・ヤングの大ファンだそうだから、その点は気の毒としか言いようがない。しかも彼は「奴らにはちゃんと著作権料を払っている。誰に何を言われる筋合いはない!」と典型的な金持ちの論理を持ち出して憎まれ口を叩くから余計に嫌われる羽目になる。挙句「マスコミは左翼ばかり!」と偏見を振りかざし、メディアも敵に回すほどの傍若無人ぶりで、すっかり有権者から見限られた…… かといえばそうでもない。

対する民主党のバイデン候補も決め手に欠け、支持率でそこそこ競ってるそうだから、“アメリカの保守層、恐るべし” である。なにしろ優勢が伝えられるバイデン候補の支持理由で最も多いものは、「トランプ大統領じゃないから」という、極めて後ろ向きなものらしい。土壇場の大逆転を画策するトランプ陣営は、ギリギリまでどんな奇策を講じてくるか、いわくつきの郵便投票の無効を訴えたり、最悪の泥仕合もあり得る、まさに由々しき事態なのだ

選挙集会で流す音楽は? ビル・クリントンが使った「ドント・ストップ」


トランプ大統領がこれまでの大統領と明らかに違うと感じるのは、彼がアメリカ国民に全体に政策を語るのではなく、あくまで彼の支持者に向けて話しかけている印象が強いことだ。

未だに根深い差別や社会の分断が叫ばれて久しいが、彼の政策は時折せいぜい半分程度のアメリカ人に向けたものになっていて、根っからのビジネスマンであるがゆえに、理論上国民の49%には支持されなくても選挙は勝てると本気で信じているように見えてしまう。確かに不支持を表明する人たちは、声を上げて目立っているけれども、実は黙して目立たない支持者が多いともいわれている。

勝利を得るためには徹底したマーケティング戦略と票読みを行う参謀役が不可欠だ。かつての大統領選で、裏方たちの健闘ぶりに初めてスポットが当てられたのは、ビル・クリントンの勝利を収めた1992年の選挙戦においてである。この模様は後日『The War Room(クリントンを大統領にした男)』で映画化され、アカデミー賞ドキュメンタリー映画部門にもノミネートされている。

このキャンペーンで注目を集めたのは、キャッチフレーズやビジュアル面を重視したイメージ戦略であった。そこで注目された古い一枚の写真がある。まだ一介の学生議員であったクリントン候補が、当時のケネディ大統領から握手を求められた瞬間を捉えたもので、それは彼があたかも “JFKの後継者” であるかのようなイメージを人々に強く印象付けた。この写真は選挙後には日本の富士フィルムが広告に採用したから、記憶している方も多いだろう。

また全米各地で開催される選挙集会で使用するテーマソングには、あえてロックミュージックが採用された。選対チームは若き候補者の登場感を演出しようとフリートウッド・マックの大ヒット曲「ドント・ストップ」を選定した。景気の停滞感を払拭し、今こそ改革へ歩みだそう呼び掛けるもので「♪ Yesterday’s gone ~ Yesterday’s gone~」と繰り返されるフレーズは、若い有権者たちのハートを捉えた。それまでどちらかといえば反逆、反体制のイメージが強いロックが政治キャンペーンに使われるのは異例で、有権者たちに新時代を感じさせる画期的な出来事でもあったのだ。

時代の節目に今また登場、TikTok で拡散されたフリートウッド・マック


ところで、この楽曲「ドント・ストップ」が収録されたフリートウッド・マックのアルバム『噂(Rumours)』は最近、40数年ぶりに全米チャートのトップ10にランクインしたことでも大きな話題となっている。

これまた最近トランプ政権が禁止措置をとった人気アプリTikTokで、収録曲の「ドリームス」を口ずさんだ投稿を元ネタに利用者の間で拡散したことが、予想外のリバイバルヒットにつながった。奇しくも大統領選が行われる2020年に、時代を超え、形を変えて、28年後に再びメジャーシーンに現れたことは、まさにこのグループの偉大さを物語っている。

さて、60年代に英国で結成されたこのバンドが、アメリカへ渡った70年代以降、いかに国民的スーパーバンドに成り得たか、その歩みは、バッキンガム・ニックスという男女のデュオがグループに加入したところから始まる。その後はアルバム『ファンタスティック・マック』(1975年)、『噂』(1977年)、『牙(Tusk)』(1979年)、『ミラージュ』(1982年)と80年代半ばにかけてビッグセールスを重ね、数々のシングルヒットと共に快進撃を続けてきた。

中でも前出の『噂』は全米チャートで31週連続1位という不滅の大記録を打ち立てている。ベトナム戦争が終結し、鬱屈した70年代も後半を迎え、明るい兆しが見え始めた頃に「ドリームス」や「ドント・ストップ」といった前向きのメッセージを込められた楽曲は、同時代を生きたアメリカの人々の心に深く刻み込まれた。フリートウッド・マックがこうした時代の節目に、度々人々に呼び出されるのは、決して偶然などではないのだ。

ローリングストーン誌 “歴代最高のアルバム” で7位になった「噂」


今年、アメリカの音楽雑誌ローリング・ストーンは、恒例の企画「The 500 Greatest Albums of All Time」を8年ぶりに更新。2003年の第1回25位、2012年の第2回には26位だったこのアルバム『噂』の順位を、これまでの最高順位である7位にランク付けた。リバイバルヒットのリソースの宝庫ともいえるこのアルバムは、グループの絶頂期を象徴する1枚であるが、実はこの頃、メンバーの私生活がどん底にあったというのは、よく知られた話である。

リーダーと2組のカップルからなるこのグループは、この時期メンバーの全員が、ほぼ同時期に離婚や離別を経験していた。だがリーダーのミック・フリートウッドはまだしも、気まずい相手と毎日のように仕事場で顔をつき合わせなければならない2組のカップルにとっては、まさに苦痛の日々である。彼らは互いに当てつけともとれるような歌詞や作風を盛り込みながら、ある時は衝突し、またある時には殻に閉じこもることを繰り返しながら、レコーディングを続けた。そうして作品群にはメンバー同士の感情がぶつかり合ったタイトルが並ぶことになる。

たとえば「ドント・ストップ」はクリスティン・マクヴィーが、元夫のジョンに対して三下り半を突き付けたもの。「ドリームス」はスティーヴィー・ニックスが、元恋人のリンジー・バッキンガムの不貞を非難したものといわれていて、これらのテーマを解釈しながらタイトルを追ってみると「また始まったわ」「もう戻らない」「振り返らない」「勝手にしろよ」「もう君のことはどうでもいい」と、まるで口喧嘩のセリフの応酬を彷彿とさせる。

もちろん当事者たちがその意味に気付かないはずもなく、時には遠慮なく議論し合ったりして、レコーディングは1年の長きに及んだ。それでも彼らは其々が仕事に逃げ込むように曲作りに没頭し、途中で録音が飛んでしまうというアクシデントが見舞っても、プロとして創作活動に勤しんだ。やがて深い葛藤と張り詰めた緊張の持続が、偉大な成功をもたらし、そのプライドは強い絆となって、結果的にメンバー達の気持ちをバンドにつなぎ留めることになる。

メンバーの心境はいかに? 鬱屈した愛憎劇を象徴する2つの楽曲


これら昇華の片鱗は、実はラインナップの中にも認めることができる。「ザ・チェイン」は、スティーヴィー、リンジー、クリスティンが代わる代わるリードを取りながら、全メンバーでコーラスで入る珍しい構成の楽曲となっているが、その意味は “絆” というには、少々後ろめたい感情が込められている。

 You would never break the chain
 (しがらみが絶ち切れることはない)

と互いに歌い「私たちは共に運命共同体だ」と呼び掛けているようだ。たとえ別れようが、どこに行こうが、もう俺たちは腐れ縁なのだと、リーダーのミック自らが主導して、メンバーを巻き込むことで再認識を促したと云われている。また「ソングバード」というクリスティンの手による美しいバラードでは、

 The songbirds keep singing,
 Like they know score

… と彼ら自身を “小鳥” に例えて、「(彼らは何があろうと)楽譜(≒使命)を知るかのように歌い続ける」と歌われており、これはメンバーに捧げた曲であることをクリスティンが公言している。新天地アメリカで、新しいメンバーと共に大きな成功を得ようとした時、あわや空中分解寸前という危機を迎えて、古参メンバー達が引き締めを図ったのである。

さて、この原稿が掲載される頃には選挙の大勢は決定付けられているだろうか。いずれ指導者たちは国民の団結を呼びかけることがあるかも知れないが、それは自らの政策を都合よく進めるための手段でもある。その時この「ザ・チェイン」に着目することがあるだろうか。耳当たりこそ良いが、果たしてその真意を、彼らの鬱屈した愛憎劇について、誰かが気付いていたら、それが政治キャンペーンに相応しい希望に満ちた楽曲とは、決して思わないはずだ。



2020.11.04
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カタリベ
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