アルバム未収録の「幻の一曲」とも呼べる曲が、どのアーティストにも存在する。今ではYouTubeを探せばすぐに見つかるそんな曲も、僕が中学生の頃、2000年代初頭までは、自分の「足」で探さねばならなかった。その頃は、いよいよCDというメディアが凋落を始め、アルバム全体を売る形態から一曲ごと「配信」するという形に移行しつつあった。
今ではCDやLPを買う層とDLで済ます層が明確に分かれているので、貴重なシングル曲などは、CDを売るためのボーナストラックとして収録されるようになった。しかし、そのような形態も(当時の僕が知る限り)なかったゼロ年代初頭、シングルのみの曲を聴くには、そのシングルを探すか、もしくは海外のコンピレーション盤を探さなくてはならなかった。僕が探していたのは、クイーン唯一のクリスマスソング『サンク・ゴッド・イッツ・クリスマス』である。
この時期のクイーンは、まさにスランプであった。南アフリカの白人専用保養施設、サン・シティで公演をしたことを理由に国連のブラックリストに載り、英国ミュージシャン協会へ制裁金を払わされるなど、業界から干されていた。一方その頃、ボブ・ゲルドフらが中心となって、アフリカの飢餓を救うため「バンド・エイド」が結成され、チャリティシングル『ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス』がチャートを席巻していた。完全にクイーンの立ち位置は不利だった。
そのバンド・エイドの向こうを張ったこのシングル曲は、全く話題にならなかった。そしてこの隠れた曲を聴くための最も簡単な手段は、彼らの『GREATEST HITS Ⅲ』のUK盤を買うことだった(日本盤は別の曲に差し替えられているため)。まだ渋谷や新宿の有名レコード店を知らなかった僕は、地元のあらゆるCD店を自転車でしらみつぶしに回り、店員にも訊いたが結局、手に入れることができなかった。
今ではネットで簡単に聴ける曲だが、その「簡単さ」に何か「苦さ」を感じてしまう。なぜなら私がこの曲を求めて回ったCD店は、ほとんど潰れてしまったのだから……。
2016.12.06
YouTube / Fritzes007
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