日本語ヒップホップシーンがアツい。
書店にはヒップホップ史の本が平積みになりミュージックマガジン誌では特集が組まれたりと、音楽ファンなら無視できないブームが来ているようだ。私の知人などは「韻を踏むことの楽しさ」を伝えたいなどと言って国語の授業にMCバトルを導入させたそうな。全くDOPEなことである。
ところで日本のヒップホップの原点と言えば何だろう。それは吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」であるそうだ。なるほどトラックの低音の響き、ライムの踏み方や出身地についてラップするスタイルはヒップホップ的だろう。
僕は日本各地を電車で回っていた時、五所川原で途中下車し津軽鉄道というローカル線に乗ってこの歌で歌われた金木まで行ったほどこの曲が好きだ(太宰治の出身地ということもあったが)。
そもそも僕はこの曲を何で知ったのか。それはネット文化にあった。
時は2007年。ネット上の動画サイトではMADムービーというものの制作・公開が隆盛を極めていた。それはアニメや映画の音楽や動画を元ネタにして、それに違う動画から取った音声を当てがって面白おかしいものに変えてしまうというシロモノだ。
著作権法的にギリギリのそれは、まだスマートフォンが普及する前にあったネット界隈の「アングラ」な雰囲気の中で局所的なブームになっていた。アップロード者たちはこぞってセンスの良さを競い合っているようだった。
そんな中、突如謎の動画がアップロードされた。それはコナミのダンスゲームミュージック「Briliant 2U」と「俺ら東京さ行ぐだ」がマッシュアップされたもの。津軽弁で歌われる歌詞とユーロビート調のトラックが不思議と馴染んでいるこの動画に感銘を受け、じわじわと制作者たちが現れた。
それはちょうどヒップホップの「サンプリングとリミックス」と同じ手法である。まさに「日本語ヒップホップ」の元祖の曲を扱うにふさわしい方法ではないか! その後、2008年前半にかけて多くのマッシュアップ作品が生み出された。質やセンスの良いものが多くアップされ、その盛り上がりは「IKZOブーム」とまで呼ばれるようになった。
その盛り上がりは、ついに吉幾三の耳にまで届いた。普通なら自分の曲がある種「ふざけて」冒用されていることに怒っても良いはずである。しかし我らがIKZOは違った。何と使用を許可し、MADムービーの作者とシングルを新規レコーディングまで行ったのだった。
Macやアプリなどでトラックを簡単に作れるようになった現在でも、多くのMADムービーが「俺ら東京さ行ぐだ」を元に制作されている。この曲は断じてコミックソングではない。シックの「グッド・タイムス」やレッド・ツェッペリンの「レヴィー・ブレイク」と並ぶ、最上のサンプリングトラックに違いない。
2017.10.23
YouTube / ゆっくりクラック【兵工藤】
YouTube / LiTaNia Kim
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