2023年 3月22日

BUCK-TICK「無限 LOOP」にみるニューウェーブとヴィジュアル系の深いつながり

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日本のロック史上他にいなかったフロントマン、櫻井敦司


インスト系は別として、私は昔からJ-POPはおろか、邦楽全般が苦手だ。

いちおう、自分なりに色々な国のニューウェイヴを聴いては考察し蘊蓄(うんちく)を語る、という活動をしているのだが、批判を恐れずにいえばどんなに評価されているアーティストにしたって、音の厚みが洋楽に比べて貧相なのも否めないし、ヴォーカリストの声質も、1つの楽器と呼ぶにはちょっと心許なくて音楽に集中できない。何より “音” だけで十分な情緒があるのにその上からメッセージ性のある歌詞で訴えかけられるともう、言葉の意味が分かるだけに、余計な感傷に邪魔されるのが辛い。どうも自分の音楽の聴き方というのが、邦楽と相性が悪いのかもしれない。

しかし良い悪いは別として、日本でもロックバンドの中には強烈な個性を見せる演奏をしてくれるバンドもたまにいたりするから食わず嫌いも考えものだ。BUCK-TICKはそんなバンドのひとつ。これまで数曲しか聴いたことはなく、訃報に乗っかってるように思われるのもイヤなのだが、あの存在感やヴォーカルといった全ての世界観からして櫻井敦司ほどに完璧なフロントマンは日本のロック史上他にいなかったと思う。35年というキャリアの中で、無論コマーシャルに音楽性を変えたアルバムも多数あるものの、彼らの血肉である70〜80年代ニューウェイヴやゴシック・ロックという軸がハッキリ見てとれた希少なバンドだと思っている。

中にはガッツリとノイズやノイエ・ドイチェ・ヴェレなどを再現した、ミニマルかつ狂気に満ちたマニアックな曲作りすら随所にあって、今更ながら圧倒される。だからここで、あまり語られる事のないニューウェイヴと日本のヴィジュアル系の深いつながりについて触れておきたい。

80’sニューウェイヴ・サウンドが全開だった「無限 LOOP」




今年リリースされた、櫻井さんのヴォーカルとしては最後のシングルになってしまった「無限 LOOP」は久しぶりの80’sニューウェイヴ・サウンドが全開だった。

彼らが1991年にリリースした幻の如く美しい代表曲「JUPITER」を彷彿とさせる冷たく儚いメロディに、まるでティアーズ・フォー・フィアーズ、またある時のデペッシュ・モードあたりに見られるような80年代エレポップのリフが艶やかに重なる。今の時代では ”コールド・ウェイヴ” とも呼べるかもしれない。こんな曲を、1980年代から活躍する日本のバンドがこの2023年に発表してくれるとは、なんとも意義深いものだ。しかもそれが28年ぶりに出演したミュージックステーションで披露されたということも、ファンの中でもニューウェイヴ世代の人たちなんかはさぞかし感無量だったであろう。

とはいえBUCK-TICKの音楽のベースは、もっとパンク寄りなバウハウスとその派生バンドや、ザ・キュアーといった耽美派ゴシック・ロックにあることは有名な話。つまりイギリスを中心としたヨーロッパにルーツがあり、他にここからインスパイアされているヴィジュアル系といえばデルジベット、BOØWY(音楽というよりメイクか)、そして新宿ツバキハウスの常連客で結成されたSOFT BALLETなどがこれに当たる。彼らの世界観は暗黒趣味で宗教的・悪魔的、そして少々のダンディズムといったモチーフも多かったりするのが特徴。この耽美派ゴシック・ロックを経て、”お化粧するのは当たり前” スタンスを根付かせたイギリスの仇花ムーヴメント、ニューロマンティック(デュラン・デュラン、アダム&ジ・アンツ…)のおかげで、のちにヴィジュアル系へと発展していく日本のお化粧バンドが大量発生したという流れだった。

サウンド面で個性がはっきり分かれていた黎明期のヴィジュアル系


日本のヴィジュアル系の様態は、イギリスに影響を受けた耽美派に対して、エアロスミス、モトリー・クルー、フィンランド出身のハノイ・ロックスといった、主にアメリカをルーツとしたバッドボーイズ派、というふうに大まかに二分される。これに当てはまるのはZIGGYやデッドエンドあたりだろう。ファッション面でも金髪グラム・メタルバンドを彷彿とさせるケバケバしさだったり、トーンは暗くてもゴス系が必ず避けるデニムを着用していたりする。

両派はファッションこそ多様かもしれないが、こうした黎明期のヴィジュアル系はサウンド面で個性がはっきり分かれていたと感じる。次第にこうしたヨーロッパ、アメリカどちらの音楽にその背景があるかの垣根は崩れていき、ファッション面でも日本独自の発展を見せていったのだ。このあたりが今日多くの海外ファンを生んでいる要因かもしれない。だから我々平成生まれ世代にとって青春だった2000年代に登場してきたヴィジュアル系のバンドたちには、幸か不幸か、もはや80年代ニューウェイヴの残り香は感じないのであった(苦笑)。

しかし結果的にヴィジュアル系文化発祥の起爆剤となったイギリスのニューロマンティック・ムーヴメントにおいても、その多くのバンドがパンク〜ポストパンク、ゴシック・ロックの流れを汲んでいる一方で、例えばカルチャー・クラブがアメリカのモータウン・サウンドを基調とし、ファッションもラテンやボヘミアンスタイルを取り入れていたように、ニューロマとはつまり音楽性もファションも実に多種多様だったのである。それってつまり、日本のヴィジュアル系とすごく似通っているように感じないだろうか?

1980年ごろイギリスで突発的に発生し、のちのバンド達に影響を残したまま幻のように忘れ去られたムーヴメントが、そんなニューロマの遺伝子が日本に渡来して、独自の文化として想像をはるかに超え発展し、変容していった。そんな温故知新的 ”ネオ・ニューロマ” としてヴィジュアル系を捉えてみるというのも、とっくの昔に無くなったはずのニューロマがこの日本で形を変えてまだ生きてるみたいで、ちょっとロマンチックな妄想である。

気高くも狂気、異次元の存在感を放つフロントマン櫻井敦司


このヴィジュアル系を語る上で絶対にスルーしてはならない日本人が、一風堂の土屋昌巳だ。現に櫻井敦司とも何回もコラボしているが、この名前を知っている平成のロックファンは、果たしてどれだけいるのだろう。ニューロマンティックの元祖であるヴィサージのフロントマン、スティーヴ・ストレンジを強烈に意識したメイクとエキゾチックな風貌で、ジャパンのワールドツアーやデュラン・デュランのサイドプロジェクト、アーケイディアへの参加など、日本が世界に誇れるヴィジュアル系の開祖と呼べるのはきっとこの人だと思っている。

そして、そんなヴィジュアル系を35年間、ずっと最前線で守ってくれているBUCK-TICKには、なんだか頭が上がらない気持ちだ。このテーマでコラムの依頼を頂くまで私は彼らの曲を面と向かって聴いたことがなかったのだが、これを機にちゃんと聴き始めたら邦楽嫌いの自分が気づけばちょっとファンになってしまった。同時に、櫻井敦司という、あの異次元の存在感を放つフロントマン、気高くも狂気にも変幻自在に表現できる稀代のヴォーカリストは、もしかしたら日本のロック界でしばらく現れないかもしれないという喪失感もある。いつでも聴けるからと後回しにしていた自分を責め、1日をもっと大事に生きなくてはと思ったものだ。そうすれば5人のBUCK-TICKをライヴで観れたかもしれないのにと。



しかし今残された私たちができることは、櫻井さんが遺してくれた音楽と活動に感謝を表し、彼やBUCK-TICKがその活動の中でニューウェイヴを語り継いでくれたみたいに、彼らの音楽を、1人でも多くの世代に語り継いでいくことだと思っている。 そして、これからのBUCK-TICKの活動を、心から応援していきたい。

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2023.12.29
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カタリベ
1990年生まれ
moe the anvil
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