出会ったときが新曲!世代を超えてつなぎたい50年前の名曲 vol.3▶ タイトル:ラムはお好き?
▶ アーティスト:吉田美奈子
▶ 収録アルバム:Flapper
▶ アルバム発売日:1976年3月25日
聴くだけで非日常へ誘われる吉田美奈子「ラムはお好き?」
ラム。サトウキビを原料とする甘い香りの蒸留酒である。アルコール度数は40度と高く、コーラやソーダなどで割って飲まれることが多い。ラムのコーラ割りにライムを添えたカクテルはキューバ・リブレと呼ばれている。
今回は「出会ったときが新曲!世代を超えてつなぎたい50年前の名曲」ということで、吉田美奈子のサードアルバム『Flapper』から「ラムはお好き?」を選んでみた。非日常という言葉がこれほど似合う素敵な楽曲は、他にあるだろうか。改めて何度も曲を聴きながら、この音楽がつくられている風景を頭の中でスケッチしてみると、あまりにも鮮やかに描けることに驚いた。歌の中で描かれている世界に、吉田美奈子の歌唱がとてもマッチしているのだ。
若い女性ピアニストが、ゆらゆらと体を揺らしながらピアノを奏でている。そのリズムは、凪いだ南の海の上にいるような、もっちゃりとした重さがあって心地よい。いつのまにかドラムやパーカッションが加わり、誰かがスパニッシュ風のギターソロを重ね、別の若い女性が歌詞をつけて、さらっと歌い出す。歌詞は、どうやら想い人を待つ女性のモノローグのようだ。どこからかコーラスも聴こえてくる。とにかくいろんな音がワウワウと重なって聴こえてくるのだ。
舞台は船上パーティー。多くの人が集う場所のようだが、曲から聴こえてくる歌声にも、何人かで楽しむ宴のような雰囲気がある。途中でまたスパニッシュ風のギターソロが聴こえてきた。調子のよさそうな男性が “One More Coca-Cola?” と女性に声をかけるが、彼女は “No, Thanks!” と断り、最後には “Crazy” と吐き捨てる。そんな微笑ましい風景が歌の中に見えた。

20代の才能が集結して生まれた、年代不詳の無国籍ポップ
もちろん実際は、国内のスタジオでレコーディングされたものだ。けれど、ここに描かれている風景は、なんともいえず無国籍だ。どの時代なのか、どんな人たちが作っているのかすら、一聴しただけではよくわからない。実際にアルバムがリリースされたのは1976年だが、年代を感じさせない。だから、2010年代の若いインディーズバンドが海外へ遊びに行き、どこかの島のバーでピアノを弾きながら “せーの” でセッションして録ったんだよ、と言われても、何も知らなければ信じてしまうかもしれない。
最近は、聴き慣れない曲が流れてきても、サブスクを見れば曲名やアーティスト名がすぐにわかるし、少し調べれば細かな背景まで知ることができる。そしてこの曲も、村井邦彦のプロデュース、吉田美奈子の作詞、細野晴臣の作曲とリズム、ホーンアレンジ、矢野顕子のピアノ、鈴木茂のギター、山下達郎のコーラスアレンジによるものだとたどることができる。
そう、今ではレジェンドと呼ばれる音楽家たちによる作品だが、彼らがこれを作ったのは、まだ20代の若者だった頃である。可愛らしい女性の恋愛模様があふれ出す歌詞に、メロディがさりげなく寄り添う。不安な気持ちがのぞく場面では、メロディにも緊張感が生まれる。トロピカルなサウンドに重なる、やわらかいコーラスやスキャットを含めたボーカルワークも、まさにキューバ・リブレのような甘さと酸味を感じさせる。歌詞に “ラム” とは一言も出てこないのだが、エンディングの小芝居的なお遊びから、それを連想させるところも洒落ている。
50年後の今も新曲のように響く「ラムはお好き?」
『Flapper』が発売された1976年も、50年後の2026年も、船上パーティーは多くの人々にとって、ふわふわとした非日常であり、憧れの時間ではないだろうか。船の上で、甘いお酒にほろ酔い加減になって、香りと波とリズムに身を任せる。陽気な空気の中で心も体もリラックスできる、まさに “It’s So Nice” な1曲。50年前に生まれたとは思えないほど軽やかで、今初めて出会っても新曲のように響くのである。
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2026.09.15