9月

吉田美奈子が魂を込めて歌ったゴスペル曲!クリスマスは誰でも笑って過ごせるわけではない

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吉田美奈子のアルバム「BELLS」発売日(CHRISTMAS TREE収録)
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シティポップ・クリスマス vol.2
▶ CHRISTMAS TREE / 吉田美奈子
・作詞:吉田美奈子
・作曲:吉田美奈子
・編曲:吉田美奈子
・収録アルバム:BELLS
・リリース:1986年9月

クリスマスにはゴスペルを聴こう


クリスマス × シティポップ
ーー そんないかにもモテ系なテーマを、もう15年以上も1人ぼっちで聖夜を過ごしている私に振ってくるとは、Re:minderもなかなかチャレンジャーだ。

ちなみに私は、毎年イブに1人で “回らない寿司” を食べに行くことが多い。なぜならクリスマスの寿司屋はだいたい空いているからだ。だから行くと歓迎されるし、けっこうサービスしてくれる。高級フレンチ店みたいにクリスマス特別料金なんて取らないから、行くならもう寿司屋に限る。てか、彼女がいたときもイブは寿司屋だった(笑)。“メリー寿司スマス” なんちて。

いきなり話が横道にそれた。そんな私だけれど、クリスマスに聴く音楽についてははゴリゴリの “原理主義者” である。全然クリスチャンでも何でもないのだが、なぜか教会系の音楽が聴きたくなるのだ。賛美歌とかじゃなくて、もっと黒っぽいヤツ。そう、“ゴスペル” である。

ゴスペルの語源は “god spel” といわれる。このgodは神でなく古英語で良い(=good)、spelは伝えるという意味で、すなわち “良き知らせ=福音” というわけだ。17世紀後半、アフリカ大陸から無理やりアメリカまで連れて来られて、プランテーション (大規模農園)で強制労働に従事させられていた黒人奴隷たち。英国から独立する前、新世界と呼ばれたアメリカが国力を増大していったのは、彼らの苦難と表裏一体だった。

搾取する側は、奴隷たちが絶望して自ら命を絶たないよう “教化” する必要があった。彼らに宗教を与え、クリスチャンにしたのである。旧約聖書にある『出エジプト記』は黒人奴隷たちにとってひと筋の希望でもあった。預言者モーゼが、当時エジプト人の奴隷と化したイスラエル人を “約束の地” へと導く話だ。

黒人奴隷たちは、いずれ自分たちの前にもモーゼのような救世主が現れ、この苦難から解放される日が来るかもしれないと願い、実際に南北戦争が終結した1865年、リンカーン大統領によって奴隷制は廃止された。解放された奴隷たちは “出エジプト” のように南部を出て、北部の街・シカゴに集結。黒人たちの街ができ、彼らが集う教会も作られ、黒人の牧師も誕生した。黒人牧師たちの教えにはやがて即興が加わり、信者たちも高揚して同じ言葉を叫び、そこにオルガンが加わって歌になっていった。それがゴスペルだ。

奴隷制反対を明確に掲げていた中の一派がプロテスタントのバプティスト教会で、ゴスペルの発祥が1920年代後半、シカゴのバプティスト教会といわれるのはそんな背景があったのだ。このように、音楽は歴史や宗教とも密接に関わっていたりする。クリスマスにただ音楽を消費するだけでなく、そんなこともぜひ心に留めておいて欲しい。

3,000枚限定で発売された吉田美奈子のゴスペルアルバム「BELLS」


で、本題。“シティポップ” というくくりがある中で、私がぜひクリスマスに聴いてほしい1枚が、吉田美奈子のゴスペルアルバム『BELLS』である。このアルバムは1986年に “世界初の自主制作CD” として3,000枚限定で発売された。鉛筆でロットナンバーを書き、CDの封入も吉田自身が行ったというこの『BELLS』。オリジナル盤はすぐに入手困難になり、私は学生のときに日本一マニアックなレンタルCD店『神保町ジャニス』で借りた。CDは2002年、2014年に再発。2023年には初めてアナログ盤も発売されて、現在はサブスクでも聴ける。

収録されている全6曲(2002年の再発時に「もみの木」が加えられ7曲に)は、どれも吉田がライブで歌っていた曲で、7分台の曲もあれば1分台の短い曲もあったりと尺もバラバラ。まさに自主制作だからこそ出せたアルバムで、吉田の音楽に対する純な思いがあふれている。特に2曲目の「CHRISTMAS TREE」は、まさにこの時期にふさわしい1曲だ(作詞・作曲はいずれも吉田自身)。



吉田美奈子の歌声には天使の羽がついている


 嫋やかな翼をたたえた
 時の隙間抜って訪れた事を
 ひとつずつTableauにしていく
 夢で見た気がする色に染め上げて

 拡がれ空からの贈り物
 永遠を思わせる様な
 星達の瞬きにゆだねてみる

 街の灯が輝き増すたびに
 魅せられる程の物語りがある
(幾千もの星 夢そのものを)

聖夜の街の情景が目に浮かぶ詞を、ゆったりと情感を込めて歌う吉田。“Tableau” はフランス語で “絵画” だ。彼女の歌自体がまるで絵画のようで、ひとつひとつは何でもない言葉なのだが、吉田が歌うとそこに言霊(ことだま)が乗る。「♪拡がれ空からの贈り物」って、なんて素敵なフレーズだろう。星たちのまたたきとオーバーラップする街の灯。どんな人の人生にも、みんな何らかの物語がある。「♪幾千もの星 夢そのものを」というコーラス部分も吉田が歌っていて、まるで教会でゴスペルを聴いているかのような錯覚に陥ってしまう。こういうのをスピリチュアルというのか、吉田美奈子の歌声には天使の羽がついている。

 傍らに座る影の様な
 悲しみが時々何か届けても
 ひとつずつCandleに託し
 灯す光にほら 心暖める

 聞こえる?精霊の羽ばたきが
 あなたにも微笑みかける
 夜はもういつの日も素敵なChristmas

この部分、私自身辛いときにすごく救われたことがあったし、まさに心を癒してくれる曲だ。クリスマスは、誰でも笑って過ごせるわけではない。ウクライナやガザ地区では住む家を破壊されて苦しんでいる人たちがいるし、国内でも福島や能登の人たちは今なお苦難の日々が続いている。戦闘地域や被災地以外でも、さまざまな困難と戦っている人たちがいる。失業したり、失恋したり、夢破れてさんざんな1年だったという人たちもいるだろう。ーー 吉田の歌が心に沁みるのは、そんな辛い状況にいる人たちに向けて歌っているからだ。

“奇跡の1枚” に収められたオリジナルのゴスペル曲「CHRISTMAS TREE」


なぜ吉田がこの名盤を “自主制作盤” として出したのか? それは契約期間終了を待たずに、アルファレコードとの専属契約が解除になったからだ。フリーになりじっくりと音楽に向き合う時間ができた吉田。アーティストとして表には出なくなったが、作家・プロデューサーなど裏方の仕事が増え、飯島真理、鈴木雅之、薬師丸ひろ子など他アーティストのアルバムプロデュースなども手掛けるようになった。

中森明菜との仕事ではそれなりの印税収入も入ったようで “貯蓄の趣味はないから” と、吉田はその印税で自身のアルバムを作ることを思い立つ。この「CHRISTMAS TREE」はライブで何度も歌っていた曲で、ちゃんとレコーディングしてみたらどうなるんだろう?と軽い気持ちでスタジオに入ったそうだ。自分が歌いたい曲を、何の制約もなく、思うがままにレコーディングしていった吉田。こうしてアルファから出した『IN MOTION』(1983年)以来、3年ぶりのアルバム『BELLS』は完成した。

売ろうとか、そんなことはまったく考えず、純粋に今歌いたい曲を、魂を込めて歌った “奇跡の1枚” に収められたオリジナルのゴスペル曲「CHRISTMAS TREE」。ぜひクリスマスの夜に、まっさらな気持ちで聴いてほしい。何かとキナ臭くなっている世の中だが、すべての人に平和と安寧の日々が訪れますように… 。

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2025.12.23
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カタリベ
1967年生まれ
チャッピー加藤
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