11月16日

トップテンに4ヶ月も!Wink「愛が止まらない」がロングヒットになった理由

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平成最初の大ヒット曲、Wink「愛が止まらない」


『ザ・ベストテン』昭和最後の放送となった1989年1月5日、ベストテンに初登場したWink「愛が止まらない」は、平成に入ると4月までベストテンにランクインし続け、平成最初の大ヒット曲になりました。この年の9月『ザ・ベストテン』の最終回にも「淋しい熱帯魚」がランクインし、Winkは『ザ・ベストテン』の最終年を盛り上げました。

この曲でブレイクしたWinkはその当時、新たなアイドル像を示し、鮮烈な印象を与えてくれましたが、楽曲としての「愛が止まらない」には、皆さんはどのような印象をお持ちでしょうか? “Winkの最初のヒット曲” であり “Winkの雰囲気にマッチ” していて “洋楽カバー曲とは思えないほど完成度が高い”… というような印象でしょうか。

いえいえ、そんな「Winkを代表する1曲」という程度で済ませてはいけません。「愛が止まらない」は『ザ・ベストテン』“1978〜89年全放送回合計得点ランキング” 第9位! つまり、80年代全体を代表するヒット曲なのです。そこまでの大ヒット曲だと認識していない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

かく言う筆者も「愛が止まらない」のヒットがどんなにすごいのかを説明しようとしても、うまく伝えられる自信がありませんでした。発売当時も「愛が止まらない」の大ヒットにはそれまでと明らかに違う何かを感じていましたが、その違和感の正体をつかめないままでした。

そこで、発売から34年経った「愛が止まらない」のヒットの特色を、音楽ヒットチャートランキングの観点から改めて考えてみました。本コラムでは、この曲のヒットのすごさ、そしてそれまでのヒットと何が違うのかを考察していきます。

「愛が止まらない」、ヒットの特色とは?


まずはヒットチャートの概況を確認します。「愛が止まらない」は、1988年10月期のドラマの主題歌として11月に発売され、オリコン19位初登場から4週後、12月最終週にTOP10入りすると、翌年4月最終週まで18週もの間TOP10にランクインし続けました。「ザ・ベストテン」は1月初週から4月最終週までの17週間でした。オリコン、ザ・ベストテン、共に1位を獲得しています。

当時は、TOP10に10週(2ヶ月強)もランクインすれば年間を代表するヒットと言える状況でした。ところが「愛が止まらない」はTOP10を4ヶ月間もキープしたのですから、ヒットチャートウォッチャーだった当時の筆者は「なぜこんなにロングヒットになっているのか」と不思議に思っていました。このロングヒットを紐解いていくと「愛が止まらない」のヒットの特色が浮き彫りになりそうです。

では、過去にどのようなロングヒット曲があったのでしょうか。ここでは、1980〜88年にオリコンTOP10に “15週” 以上ランクインした曲(筆者調べ)を見てみましょう。

1980年:「大都会」「贈る言葉」「ランナウェイ」「ダンシング・オールナイト」「別れても好きな人」「恋人よ」
1981年:「奥飛騨慕情」「ルビーの指環」「長い夜」「ハイスクールララバイ」「みちのくひとり旅」「ギンギラギンにさりげなく」
1982年: -
1983年:「さざんかの宿」「めだかの兄妹」「矢切の渡し」
1984年: -
1985年:「恋におちて」
1986年: -
1987年: -
1988年:「剣の舞」「とんぼ」

さすがに、オリコンTOP10に15週以上ランクインした曲は錚々たる顔ぶれですね。しかし、皆さんが80年代の大ヒット曲として思い浮かぶ曲のうち、ここに挙げている曲はごくわずかだと思います。例えば1982〜83年は、TOP10に13〜14週ランクインした曲が多く、15週以上となると限られてくるのです。

さて、ロングヒット曲を見ると、いくつか例外もありますが、ロングヒットには以下のいずれかの条件が必要だと考えることができそうです。

① 演歌
② タイアップ先が社会現象化
③ 既にヒット曲を持つ実力者が名曲と出会う

これが80年代後半になるとロングヒットが激減しています。それは、情報の流通スピードが上がり、音楽が消費される時代に入ったことで、レコード / CDが早く売れてしまい、長く売れるという現象が起こりづらくなったからではないかと推察します。

「愛が止まらない」は上記①〜③のいずれにも当てはまらず、しかもロングヒットが著しく少なくなった80年代後半の楽曲です。にもかかわらず、TOP10に18週もランクインしたのですから驚くべきことです。当時の筆者がこの曲のロングヒットに違和感を覚えたのは “過去のロングヒット曲の特性に「愛が止まらない」が当てはまっていなかった” からだったのです。言い換えると「愛が止まらない」は、

“ポッと出の非演歌アーティストが、強力なタイアップ無しに、音楽が消費される時代にロングヒットを記録した希有な楽曲”

―― だということです。

これは「『愛が止まらない』のヒットは何がすごいのか?」に対する答えになっていると思います。

ロングヒットの要因は、ポップスでありながら演歌のようなクオリティ


「愛が止まらない」のヒットの特色が見えてきたところで「なぜこんな希有なヒット曲が生まれたのか?」を考えてみましょう。レコード / CD売上ランキングにおけるロングヒットという現象は “数万枚のレコード / CD売り上げが長期間にわたって続く” ということですから “ヒットしてからある程度の期間が経過してもなお、その楽曲を買いたいと思う人が次々と現れる” ことが必要です。

上述したロングヒットの条件①~③を改めて見ると、①と③はヒットすることで楽曲が徐々に認知され、曲を知った人たちの中で「良い曲だからレコード / CDを買おう」と購買意欲を喚起される、という図式だと思います。つまり、楽曲のクオリティの高さがロングヒットを生んでいると考えられます。

また条件②は、社会現象として話題になっていることが、レコード / CDの購買意欲を喚起するわけです。社会現象は、普段その現象に関心を持たない層にも時間をかけて浸透していきますから、それがロングヒットという形となって現れるのでしょう。「ハイスクールララバイ」「めだかの兄妹」「恋におちて」などがこのパターンに当てはまると思います。

「愛が止まらない」は条件①〜③に当てはまっていませんが、それでもロングヒットになったということは、上述した “楽曲のクオリティの高さ” または “社会現象的な世間への認知” があったということになります。たしかに当時を振り返ると「愛が止まらない」は、これら両方を持っていたと思います。

楽曲のクオリティとしては、カバー元であるカイリー・ミノーグのような華やかさをやや抑えめにしてWinkとしての雰囲気を出しつつ、親しみやすいユーロビートのテンポと楽器を厚めにしたアレンジでアイドル曲らしさを出しています。カバー元のキー Em に対して、Wink版は半音3つ下げた C#m にしており、このキーがWinkの声域に完全にマッチしています。

ですから「愛が止まらない」は何回聴いても飽きが来ることがなく、新鮮な印象を受けるように感じます。聴くほどに味わいが出てくる感覚は、演歌の名曲と同じですよね。ポップスでありながら演歌のようなクオリティを持っていることが、ロングヒットにつながったのだと思います。



平成の始まりと共に生まれた新たなアイドル像Wink


また、社会現象的な世間への認知をWinkが得ていたことは、当時を知る方ならご納得かと思います。従来のアイドルとは明らかに異なるたたずまいで、人形のような雰囲気の中にも2人の個性が感じられ、独特な振り付けとせつなくて艶もある歌声は、平成の始まりと共に生まれた新たなアイドル像として世間に驚きを与えました。

そんなWinkの2人の雰囲気に「愛が止まらない」は見事に符合しました。「愛が止まらない」という楽曲があったからこそ、Winkのアイドル像が際立ち、それが徐々に浸透することでロングヒットにつながっていった、と考えることができるでしょう。

結局「愛が止まらない」がロングヒットになった理由は “楽曲のクオリティ” と “Winkという新たなアイドル像” という、少し考えればすぐ分かりそうな理由に帰着しましたが、クオリティもアイドル像も極めて高いレベルで表現されていなければ、これほどのロングヒットにはならなかったでしょう。80年代のロングヒット曲の希少性を思うと、そのレベルの高さには改めて敬服いたします。

Winkといえば「淋しい熱帯魚」が取り上げられることが多いですが、Winkを語る上でも、そして80年代や平成1桁年代のヒット曲を語る上でも「愛が止まらない」のすごさや素晴らしさは、もっともっと語られていいと思います。

最後にもう一度書きますが「愛が止まらない」は “ポッと出の非演歌アーティストが、強力なタイアップ無しに、音楽が消費される時代にロングヒットを記録した希有な楽曲” ―― なのですから。

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2022.11.16
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カタリベ
1970年生まれ
倉重誠
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