4月21日

X「BLUE BLOOD」破壊と創造の集大成!80sを締め括る“青の衝撃” 

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ジャパメタ&J-ROCKシーンの地殻変動、メジャーデビューしたX


80年代が間もなく終わりを告げ、世紀末の足音さえ感じられる “1989年4月” というリリースタイミングが象徴的だ。

ジャパメタシーンでは、1988年12月にトップランナーのラウドネスから、シンガーの二井原実が脱退。1989年4月にはヘヴィメタルと決別した44マグナムが解散、さらにメタルクイーン浜田麻里が「Return to Myself~しないしないナツ」をリリースし、J-POPの世界へと羽ばたいた。

一方、J-ROCKシーンに目を移すと、1988年4月にその代表格のBOØWYが、東京ドームでLAST GIGを敢行し、惜しまれながら解散してしまう。同年9月にはB’zがデビューシングルをリリース。1989年2月には、バンドブーム到来を象徴する『三宅裕司のいかすバンド天国』がスタートした。

ちなみにXがインディーズから初のアルバム『Vanishing Vision』をリリースしたのは、奇しくもBOØWYのLAST GIGのわずか10日前、メジャーデビューはそれから1年後だ。

ジャパメタにせよ、J-ROCKにせよ、シーン全般に地殻変動が起き、主役達が目まぐるしく入れ替わるタイミングで世に送り出されたのが、不朽の金字塔、X『BLUE BLOOD』だった。

始まったX伝説「BLUE BLOOD」畏怖すら感じるYOSHIKIの才能


最強のインディーズバンド、Xがメジャーから初めて放った『BLUE BLOOD』は、異端から本流へ、いや異端が本流を “青い血” で塗り込めていく、本格的なX伝説始まりの瞬間だった。

オープニングを飾る「PROLOGUE(~WORLD ANTHEM)」。Xを嘲笑していた洋楽至上主義のメタルファンは、この選曲にさぞ驚いただろう。カナダの至宝であるハードロックギタリスト、フランク・マリノ率いるマホガニー・ラッシュの楽曲を取り上げる辺りに、YOSHIKIのセンスの良さを感じずにいられない。今に至るまで、ライヴでのSEになったのは周知の通りだ。

荘厳な導入をぶった切るように始まる「BLUE BLOOD」。聴くものすべてをなぎ倒すYOSHIKIの2バスと、タイトに刻むリフの突進力は、何たる強さだろうか。英詞で歌われる箇所が多いものの、TOSHIが歌うメロディは紛れもなく日本人ならではの感性だ。HIDEとPATAにより構築された美しいツインリードも含め、Xを象徴する要素が満載で、タイトル曲にふさわしい一撃となった。

ロックンロールバンドとしての新たなXの魅力を放散させた「WEEK END」。強いフックを持つ覚えやすいメロディを巧みに乗せたこの曲は、アレンジを変えてシングルとしても後にリリースされ、J-ROCKファンに幅広くアピールする武器となった。

いかにもライヴ映えする、ヴァン・ヘイレン風のシャッフルビートが愉快な「EASY FIGHT RAMBLING」を挟み、バンド不滅のテーマ曲「X」、今も歌い継がれる不朽のピアノバラード「ENDLESS RAIN」、日本のROCK史に深く刻み込まれる「紅」と、説明不要な名曲が続く中間部は圧巻だ。動、静、そして静から動へと、同じバンドの楽曲とは思えぬ最大限の振り幅に、心が強く揺さぶられる。

インストゥルメンタルの「XCLAMATION」では、民族音楽のエッセンスを大胆に注入し、名手TAIJIのスラップベースがフィーチャーされた。激烈スラッシュ「オルガスム」は、メジャーになろうとも、破天荒な攻撃性にいささかの変化や陰りがない、Xのアティテュードを主張するかのようだ。

HIDE作の「CELEBRATION」は、YOSHIKIがロックにハマるルーツとなったキッスを、いやが応にも想起させる軽快なロックンロール。自らのメジャー進出を “祝う” かのように、肩肘を張らずにルーツへの旅路へと誘う。

12分近くに渡る大作「ROSE OF PAIN」は、僕がこのアルバムで最も好きな楽曲だ。バッハのフレーズをモチーフにした劇的な導入に始まり、静と動を繰り返し混濁させながら、目まぐるしくテンポが変化していく。普遍的なヘヴィメタルやスラッシュメタルをベースに、シンフォニックなアレンジを大胆に施し、ツインリードギターとYOSHIKIのピアノが華麗に乱舞する。その上に乗せられるのはやはり、TOSHIが絶唱する日本人ならではの情感豊かなメロディだ。

Xが内包する音楽的なファクターを、高い緊張感と密度で凝縮させた構成は、まさに一大絵巻のようだ。これだけの構築美を極めた大作を、20代半ばの若さでまとめ上げたYOSHIKIの才能には、畏怖すら感じてしまう。

そしてラストの「UNFINISHED」では、『Vanising Vison』に未完成のまま収録されたバラードを完結させて、ここに “FINISHED” の時を迎えるのだった。

インディーズでの武器をそのままに、メジャーでスケールアップ!


メジャーデビューに際して、レコード会社やマネジメントが主導するあまり、インディーズ時代の魅力を半減させてしまうバンドも少なくない。メジャーに行って牙を抜かれてしまった、垢抜けて変わってしまった。そんな残念な例はジャパメタに限らず、ロックシーンには枚挙にいとまがない。

けれども、Xが『BLUE BLOOD』で表現したサウンドやバンドイメージは、生誕以来、自らの手で80年代に積み重ねてきた結晶であり、それをメジャーという彼らに相応しい檜舞台で表現した “破壊と創造の集大成” だ。

前述の「PROLOGUE(〜WORLD ANTHEM)」からして、X黎明期の高校時代のライヴで、すでにコピーを披露していたし、「X」「紅」「オルガスム」なども、ファンにはお馴染みのインディー時代からの楽曲だった。

80年代のXについては以前にコラム『80年代ジャパメタの既成概念を打ち壊した「X」の軌跡と奇蹟』で記したが、その歴史を紐解けば一目瞭然だろう。あくまでもXにとってのメジャー進出は、自らの音楽をより広く知らしめるための手段に過ぎなかったのだ。

圧倒的なエナジーと比類なき革新性、高まり続ける歴史的価値


長きに渡る熱狂的なファン層に加え、世代や国境も超越した新たなファンを今も獲得して、聴き続けられる『BLUE BLOOD』。発売からすでに30年以上の歳月が経過したが、これほどまでに歴史的価値が高まり続ける作品は、そうあるものではない。

発売当時、将来に「紅」が紅白歌合戦で披露されたり、女優が歌うCMソングに採用されたり、何よりXが世界規模のビッグなロックバンドに君臨することを、誰が想像し得ただろうか。

売れることだけが正義ではないが、『BLUE BLOOD』は結果として、実に80万枚以上ものCDセールスを記録し、今もなお更新中だ。それはジャパメタとして異例なのは勿論、80年代当時のJ-ROCKバンド群の中でも突出している。

なぜ『BLUE BLOOD』が、これほどまでに支持され売れたのか。それは「紅」や「ENDLESS RAIN」といった、誰もが知る有名曲が収録されているからだけでなく、この作品に込められた、初期衝動そのままの圧倒的なエナジーと比類なき革新性が、多くの人々の心を動かした事実に他ならない。それこそが、Xを一過性のブームではなく、時代をこじ開けるほどの社会現象にまで昇華させる原動力となったのだろう。

ジャパメタからJ-ROCKの頂点へ、全ての既成概念を打ち壊しながら成長


Xが他の凡百なジャパメタ勢と決定的に違っていた点は、洋楽至上主義のメタルの世界で、“洋楽バンドを模倣すべし” という常識をいち早く打破したことだ。

アメリカに乗り込み、ビルボードにランクインする偉業を成し遂げたラウドネス、イギリスに活動拠点を本格的に置き、長く活躍したVOW WOW。偉大な先人達はストイックに磨き抜いた技量と英詞を持って、本場欧米の一流HM/HR勢に並ぶための鍛錬を重ねた。多くのバンド達がそれに憧れ続こうとしたが、誰もその領域に到達できなかった。

一方で80年代のXは、唯一無二のメタルサウンドと奇抜なバンドイメージ、常識に囚われぬプロモーションで、たとえ非難されようが、全ての既成概念を打ち壊しながら成長を続けた。

とりわけ、サウンド面では、メタルを基に多様な方向性の楽曲を揃えながらも、あくまで日本人の感性に訴えかける、親しみやすいメロディを、どの楽曲にも巧みに盛り込んだのは特筆すべき点だ。

ジャパメタにもアースシェイカーのように、歌心を主軸に置くバンドは存在したけど、Xが実践したのは、歌謡的なメロディと激しいメタルを融合させるという、誰も実践したことがない手法だった。それを可能にしたのはYOSHIKIの類稀なる才覚に加え、どんな曲調もXの色合いに染め上げて歌った、TOSHIの非凡なる歌唱力と天性のハイトーンヴォイスによるところが大きい。

ジャパメタから始まりヴィジュアル系を確立し、広義のJ-ROCKシーンまで席巻。今やメイドインジャパンを代表するビッグなロックバンドとして、他の追随を許さないX JAPAN。その比類なきエッセンスを凝縮した『BLUE BLOOD』が、これから先もロックファンや、ロックを志す者達にとっての教典として、大いなる影響を与えていく未来が見えるようだ。

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2021.10.29
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カタリベ
1968年生まれ
中塚一晶
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