カタリベの人たちに1965年生まれが多いのは、80年代を迎える高校・大学の学生時代に、貪るように音楽を聴きまくっていた人たちがそれだけ多いということなのだろう。その時代、僕らは少しでも早く流行を捉えようと、日頃からCMの楽曲やドラマ主題歌に関心を持っていた。 そんな時『サントリーCANジンフィズ』のCMで流れる女性のしゃがれた歌声が気になった。洋楽好きの友人との間では、あれはきっとボニー・タイラーの新曲だ! という話に。ボニー・タイラーは1979年の第10回世界歌謡祭において「悲しみのオーシャン(Sitting on the Edge of the Ocean)」でグランプリを獲得、日本ではちょっとは知られたアーティストになっていた。 どこに訊けばわかる? テレビ局? いやサントリーのCMなのだから、サントリーに訊いたほうが早いな… ケータイのない時代のこと、皆で10円玉を出し合い、公衆電話に群がることになった。やや緊張気味に電話口の女性に用件を伝えると、しばらくして予想外の回答が返ってきた。 葛城ユキさんの「風の彼方に」という曲ですね。 聞いたことのない歌手、しかも邦楽(!)という結果にがっかりしたものだが、それもそのはず、彼女のブレイクはこの2年後、1983年の「ボヘミアン」まで待たねばならない。また、後で調べてみるとこの曲は日本語詞で、頭サビの ”Beyond the wind. someday, somehow~♪” なんて英語部分だけをCMにあてている。既に「悲しみのオーシャン」をカバーして、和製ボニーなんて言われていた彼女の声をキャッチにした、サントリーの狙いも何となく想像できるのだが… ところで、ボニー・タイラーの「悲しみのオーシャン」は日本以外では全く成功していないようである。本家ボニーも全米チャート制覇を成し遂げるのは、同じく1983年の、「愛のかげり(Total Eclipse of the Heart)」となる。 本稿執筆にあたっては、残念ながらPVが当たり前ではない時代、当時の楽曲を唄う葛城ユキの動画は発見できなかった。「風の彼方に」も「悲しみのオーシャン」のカバーも、今は彼女のベストアルバムで聴くことができる。
2016.05.05
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