80年代を代表するハードロックの傑作『白蛇の紋章~サーペンス・アルバス(原題:Whitesnake)』を創ったホワイトスネイクのデイヴィッド・カヴァデールには心から感謝する一方、このアルバムに関連したメンバー交代劇には今でも少々恨めしい感情を抱いている。 その時に脱退したギタリスト、ジョン・サイクスの後任の名前を知った時、僕はがく然とした。“エイドリアン・ヴァンデンバーグ”。ヴァンデンバーグのリーダーでありリードギタリスト。彼がホワイトスネイクへ引き抜かれることは、大好きなバンドの終焉を意味したからだ。 オランダ出身のヴァンデンバーグは、同郷のヴァン・ヘイレンに倣いエイドリアンのファミリーネームをバンド名に冠し、82年に『ネザーランドの神話(原題:Vandenberg)』でメジャーデビュー。70年代の古き良きハードロックテイストを80年代にアップデートし、叙情的な旋律を絶妙に織り交ぜたサウンドで注目を集める。アメリカではシングル「バーニング・ハート」がビルボードTOP40を記録し、日本でもエイドリアンがニューギターヒーローに一躍躍り出た。 勢いに乗った彼らは翌年、僕にとっては最高傑作のセカンドアルバム『誘惑の炎(Heading For A Storm)』を発表。メインストリームに接近したサウンドを標ぼうするも、LAメタルブームが到来したアメリカでは時代の波に乗れずに成功を収めることはなかった。しかし、日本ではさらに人気が沸騰し来日公演まで成功させて、彼らの音楽性が日本人の嗜好に完璧にマッチすることを裏付けた。 金髪の長身でレパード柄のジャケットと蝶ネクタイを身にまとったエイドリアン・ヴァンデンバーグは非凡なるソングライティング能力の持ち主。人並み外れた大きさの手指を活かした弦飛びフレーズ等は個性的で、トレードマークのレスポールから丁寧に紡ぎ出される美旋律で組み立てるスタイルはマイケル・シェンカーを想起させた。また、アルバムのアートワークもすべて自ら描くなど、多方面での才能を発揮した。 バラードをしっかり歌い上げられる実力を持つヴォーカルのバート・ヘイリングも彼らを特徴づけた。当時「恋におちて」が大ヒットしていた女性シンガーの小林明子がヴァンデンバーグ好きを公言しており、コンサートではバラード曲「ディファレント・ワールド」をカヴァーしたという。 85年、起死回生をかけたサードアルバム『アリバイ』では、初めて外部プロデューサーを起用。充実した楽曲を揃えたがセールスは振るわず、バートの脱退も相まって活動は行き詰まってしまう。そんなタイミングに、エイドリアンはホワイトスネイクへの誘いを受けたのである。 ホワイトスネイクの名曲「スティル・オブ・ザ・ナイト」のPVに登場したエイドリアンは、レスポールを捨て煌びやかな衣装に身を包み、ヴァンデンバーグ時代の面影はなく、僕はショックを受けた。エイドリアン加入後の来日公演を観たときも同じ気持ちになり、心からライヴを楽しめなかったほどだ。 結局、ホワイトスネイクとしてのアルバム制作も不慮の怪我により実現せず、スティーヴ・ヴァイが代役を務めた『スリップ・オブ・ザ・タング』も平凡な内容に終わった。その後、ホワイトスネイクも一度解散に追い込まれるのだから、エイドリアンが絡んだメンバー交代劇は誰も幸せになれなかったように思える。 ホワイトスネイクのような “一流の大企業” からヘッドハンティングされたら誰も断らないだろうし、エイドリアンの才能を見抜いて抜擢したデイヴィッド・カヴァデールに対し、恨めしく思うのはお門違いだとわかっている。だけど、エイドリアンが本来持つ才能やスタイルをもっと生かして、素晴らしい音楽を共に作り上げてほしかったのだ。 2013年、エイドリアンは新バンドを結成し活動中だが、あのヴァンデンバーグの夢よ再び、とはいかず。短命だったヴァンデンバーグが残してくれた僅か3枚のアルバムの輝きは、僕の中で増していくばかりなのである。
2018.01.10
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