2月21日

筒美京平を通過した【80年代アイドル総選挙】聖子と明菜は1曲も歌わず!

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アイドルにとって最重要人物―― 筒美作品


70年代初頭からアイドルポップスを聴き続けてきた筆者にとって、最も重要な作曲家は筒美京平である。南沙織を筆頭に麻丘めぐみ、太田裕美、岩崎宏美と、気づけば好みのアイドルはみんな筒美作品を歌っていた。

この傾向は80年代においても変わらず、アイドルポップスを聴く際には、「筒美京平基準」で選んでいたところがある。アイドルとはルックスやパフォーマンス、女優やCMなど他の仕事での輝きを含めた総合評価であるべきだが、筆者のあくまで個人的な趣向は、まず声の魅力と曲の良さ、そしてその相性。さらに極私的に言えば「筒美作品を歌っているかどうか」にあった。

もちろん、松田聖子や中森明菜のように筒美作品を一切歌わなかったアイドルも十分素晴らしい存在であることは重々承知の上なのだが、今回の「アイドル総選挙」と銘打たれた企画では、敢えて独断と偏見で「筒美京平を通過した80年代アイドル」を選ばせてもらうことにした。それでも10人に絞るのはなかなか難儀であったが、アイドルの資質と楽曲のマッチングの高さで選出してみた。

第10位:渡辺桂子


渡辺桂子はデビュー曲「H-i-r-o-s-h-i」と次の「赤道直下型の誘惑」、3作目「第Ⅱ少女期」…… と3作続けて売野雅勇と筒美京平のコンビ。全体に見え隠れするのは被虐性の魅力で、ヤバい男にフラフラ付いていっちゃいそうな、不安定な女の子というイメージ(あくまでイメージです)が、何とも危険な香りを漂わせていた。

3作いずれもマイナーアップテンポの、70年代に筒美が得意としていたタイプの曲調で、特に「赤道直下型の誘惑」は70年代に筒美が手掛けた小川みき「燃える渚」の再構築といった雰囲気。その印象も含め、この時代には珍しかった被虐型アイドルの匂いがする。「春風のいたずら」の山口百恵的な危なっかしさとでもいえばよいだろうかだ。大映ドラマ『乳姉妹』での役柄もその印象に拍車をかけていた。



第9位:早見優


82年組のうち、早見優は当時から洋楽的洗練さを持ったアイドルとして登場してきた。デビュー曲「急いで! 初恋」はフレッシュな魅力に溢れていたが、その後の3作がマイナーの曲調だったため「本人に合ってないなぁ…」と思ったものだ。

それが一転してデビュー2年目を迎えた5作目「夏色のナンシー」でいきなりベスト10入りである。みんなこれを待っていたのだ。三浦徳子×筒美京平のコンビに、四人囃子の茂木由多加がアレンジをつとめ、ニューウェイヴ的なサウンド作りで他の82年組作品とは一線を画している。

筒美はこの後、「渚のライオン」「ラッキィ・リップス」、1曲空いて「誘惑光線・クラッ!」といずれもバッキバキに明るいアッパーなポップスを提供。洋楽的な洗練度とアイドルの煌めきを融合させている。

第8位:中山美穂


筒美京平が手掛けた80年代アイドルは、70年代と異なり継続的に楽曲提供し続けるケースは少なくなっている。それでも筒美が力を入れてきたアイドルにはある傾向がみられる。3〜4作書いて一度手を離れ、再び数作を書き下ろすケースが多い。その間にイメチェンが図られているのだ。

中山美穂もその1人で、デビュー曲「C」から3作、そして7作目「ツイてるねノッてるね」から3作という登板の仕方。この後半3作が個人的にはツボで、初期のイメージを踏襲しつつも、ユーロビート路線を敷いて「踊るアイドル」へと変貌させた。思い切り「PISTOL IN MY POCKET」な「ツイてるね〜」も、♪わっくわっく、のスタッカートがキレキレの「WAKU WAKUさせて」も、バブル期の華やかさをアイドルに体現させている。時代と華麗にシンクロしたアイドルだった。

第7位:沢田玉恵


デビュー曲「花の精 / 水蜜桃」と2作目「紫外線 / 醒めた夢」のシングル2枚4曲で芸能界を引退した沢田玉恵。この4曲すべて松本隆×筒美京平のコンビで、1作目が武部聡志、2作目が船山基紀とやはり筒美系アレンジャーの凄腕を起用していることからも、ソニーのプロデューサー・酒井政利の力の入れ方がわかる。

特に2作目の「紫外線」は、本田美奈子「Tenptation(誘惑)」を思わせるマイナービート歌謡で、かなり凝ったメロディーの難曲だが、彼女が途中で聴かせるファルセットの官能性にハッとさせられる。「ソニーの神秘」というキャッチフレーズでもお分かりの通り、神秘性と透明感に溢れた、鮮烈に忘れがたいアイドルであった。予定されていたというアルバムを聴いてみたかった!



第6位:佐東由梨


アイドル戦線でデビューからボーイッシュなキャラクターを打ち出すと、他との差別化は図れるが大ブレイクはしづらい。佐東由梨もご多分に漏れずの結果となったが、どこかマニア心をくすぐるのも確かだ。

筒美京平が松本隆と組んで手がけたデビュー作「どうして?!」は、“コール・ミー歌謡”の見事な傑作で、続く「ロンリー・ガール」もマーヴィン・ゲイの「セクシャル・ヒーリング」の換骨奪胎。でもそのおかげでECDのサンプリング→加藤ミリヤのアンサーという流れを生み、時代を超えて語られ続けるアイドルとなった。個人的には「ロンリー・ガール」を歌う彼女の雰囲気が、70年代後半の金井夕子の再来を思わせる。特に松本×筒美が書いた「オリエンタル・ムーン」という曲に。本質はおっとり系だったのかも。



第5位:小泉今日子


早見優と並んで、小泉今日子も82年組の1人だが、デビュー2年目、5枚目のシングルで筒美京平を初起用し、初のベストテン入りを果たしたことまで同じ。その曲「まっ赤な女の子」のアレンジは四人囃子~プラスチックスの佐久間正英で、早見の「ナンシー」もやはり四人囃子の茂木由多加といった対比があるが、要は斬新なイメージの楽曲に仕上げ、ブレイクさせたのである。また、このリリース直前に短髪に変身したことも、成功の要因だろう。

小泉今日子は一瞬、ひっくり返ったような声になるところが最大の魅力で、筒美はこの個性を最大限に活かした楽曲を提供している。「半分少女」の♪HOLD ME TIGHT!、「迷宮のアンドローラ」の♪さーせたくせして、「魔女」の♪うーん ジェラシー、などなど。「夜明けのMEW」など愛おしすぎてキュン死である。

第4位:河合奈保子


河合奈保子は初期のハツラツとしたキャラクター、伸びのある歌唱力に最大の魅力があることは言うまでもない。だが、筒美京平が関わるようになってからは、また別の魅力を打ち出してきた。

筒美の初登板は83年6月1日発売の通算11作目「エスカレーション」。アレンジは大村雅朗で、言うまでもなくブロンディ「コール・ミー」にヒントを得ている。続く「UNバランス」はドナ・サマー「情熱物語」と、筒美が得意とするディスコ歌謡路線を彼女に充てた。作詞の売野雅勇も扇情的な歌詞で、要は河合奈保子に大人のポップスを歌わせたのだ。清廉なイメージのあった彼女のイメ・チェンには驚かされたが、あのヴォーカルに官能性を見出した売野×筒美×大村トリオの慧眼であり、清潔感を失っていないのも素晴らしい。



第3位:本田美奈子


デビューから7作連続筒美京平作品を歌ってきた本田美奈子は、5作目「1986年のマリリン」のイメージが突出しているせいか、この曲ばかりが語られる傾向にある。だが、河合奈保子と並んで「歌える人」であり、音符にピタッと声を充てられるボイシングの持ち主で、筒美にとって貴重なシンガーであったことは間違いない。

愛らしいルックスとは裏腹に、ナタのようにぶっとく切り込んでくるヴォーカルが最大の魅力だが、そんな彼女に筒美が植え付けようとしたのはリズム感の強調だったのではないか。ラテン・ディスコの「Sossote」や、モータウン調の「ONEWAY GENERATION」などリズミカルな曲調はその典型。筒美にしては珍しいロック調の「HELP」でも強力なビート感に対応できる傑出した歌唱力が最大の良さであった。

第2位:松本伊代


筒美京平が特徴的な声の持ち主が好みだというのは広く知られたところだが、平山みきと並んで強烈な鼻声ヴォイスの松本伊代こそは、まさに京平チルドレンにふさわしいシンガーである。

「センチメンタル・ジャーニー」は曲全体のもつインパクトの強さに圧倒されるが、3作目「TVの国からキラキラ」の文字通りのキラキラ・キッチュ感、「オトナじゃないの」の♪こどもじゃあん なあーい、のクセの強い歌いっぷりなど、徹底してあの声を活かした曲作りにただただ参ってしまった。

尾崎亜美作品などを経ての84年11月「ビリーヴ」からの3連作も傑作揃いで、ことにロッカバラード「ポニーテールは結ばない」の強烈な切なさは文句のつけようがない。あの声でないと出せない哀愁があるのだ。



第1位:斉藤由貴


松本隆と筒美京平のコンビは70年代後半、太田裕美で成功をおさめたが、まるでその再来のような、ノスタルジックで文学性を帯びたアイドルとして斉藤由貴が登場してきた。2人によるデビュー曲「卒業」を聴いたときの感慨は、今もって鮮烈に脳裏に記憶されている。

歌い出し、♪制服のー胸のボタンをー、の「をー」で音符がいきなり高い位置に来るところで、「木綿のハンカチーフ」の♪ぼくはたーびだつー、の「つー」を思い出したのは筆者だけだろうか。

アイドル斉藤由貴の最大の魅力は、松本隆による物語性の高い詞とそれに寄り添う筒美の丁寧なメロディーラインにあり、女優としても高い資質を持った彼女の表現法にあったと思う。物語を歌えるアイドルは、時を経てもその楽曲=物語をいつでも再現できるのだ。

80年代アイドル総選挙 ザ・ベスト100

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2023.01.07
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