PANTA復活を確信していた矢先の訃報
2023年6月14日渋谷のライブハウスduo MUSIC EXCHANGEで「夕刊フジ・ロック5th Anniversary "Thanks"」と銘打たれたライブが開催された。もともとは2021年11月に頭脳警察とシーナ&ロケッツの対バンライブの予定だったが、PANTAの病気療養、シーナ&ロケッツの鮎川誠の急逝、再びPANTAの緊急入院が重なり、2度にわたる延期を経てやっと開催されたイベントだった。
この日、危篤と寝返りも禁止された絶対安静を乗り越え、ステージに戻ってきたPANTAは「地獄から2度も追い返され戻ってきました。今は何気なくできることが本当に幸せなんだなと思っています。だいぶ人生観も変わりました」と頭脳警察らしからぬコメントを笑いながらしていた。療養中のためフルセットのライブは望めないものの、PANTAの歌声には力強さがあり、僕はPANTA復活を確信していた。その矢先の訃報だった。
ラジオから流れてきたPANTA&HALの「つれなのふりや」
今を遡ること40数年前、16歳のある日、ラジオから流れてきたPANTA&HALの「つれなのふりや」を聴いたのがきっかけだった。PANTA&HALから始まり、スイート路線、PANTAソロ、頭脳警察再結成、もちろん並行して、間に合わなかった時代の頭脳警察にも遡り、今に至るまでずっと聴き続けている。どうしてそうなってしまったのだろうか?たぶん当時の僕の乏しい音楽情報の中には存在しない音楽だったということ。そしてそれが刷り込まれたままここまできてしまったのだろう。
PANTA&HAL名義のアルバムは、日本の生命線といわれるオイルロードをテーマにした『マラッカ』と、天皇が崩御した東京をテーマにした『1980X』の2枚だ(ライブアルバムは除く)。
聴いていると、行ったことも見たこともない世界なのに、頭の中にどんどん映像が浮かんでくる。そんなことは初めてのことだった。知らない言葉がたくさん並んでいる歌詞だけど、細かいことは無視しても僕には抱えきれないぐらいスケールがでかい音楽だった。
PANTAはその後も『16人格』や『クリスタル・ナハト』などのコンセプトアルバムを発表しているが、そんな大作以外のアルバムに収録された1曲1曲からでもやっぱりイメージが湧いてくる。
きっとそれはPANTAが頭脳警察からずっとこだわり続けてきた「日本語のロック」によるものだろう。ストレートで暴力的な言葉もあれば、考えさせられる比喩的な表現もあり、PANTAは音楽で僕の知らない世界のことを教えてくれる。小説や映画よりも強烈な擬似体験に繋がった。
コロナ真っ只中にリリースされた頭脳警察のシングル「絶景かな」
コロナ真っ只中の2020年7月に頭脳警察のシングル「絶景かな」がリリースされた。同時期に公開された頭脳警察のドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50ー未来への鼓動ー』のエンドロールでも流れる楽曲だ。ギターのカッティングで始まるイントロを初めて聴いたとき、『頭脳警察1』(1972年に発売禁止になったファーストアルバム)の1曲目に収録されていた「世界革命戦争宣言」が浮かんできた。僕にはPANTAが頭脳警察の始まりから見続けてきた50年の景色を「絶景かな」で表現しているように感じた。
PANTAがライブで「絶景かな」を演奏する前に、よくルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」の話をしていたことを思い出す。この曲の背景にはベトナム戦争があり、そこで起きたことを逆説的に歌詞にしていて、それは批判ではなく、その先の未来への願いを描いているのだとPANTAは説明していた。
そして、いつか自分もそんな歌を作りたいと思っていたのだという。そんな思いを頭に置いて「絶景かな」を聴くと、PANTAが見て、感じて、歌ってきた50年間の決して絶景ではない景色が見えてくるようだ。同時に、70歳を過ぎても全く衰えないPANTAの創作意欲には畏れを感じる。
PANTAX'S WORLDはこれからも続く
昨年あたりからはPANTAの体調を見ながら新作のレコーディングが始まっていた。すでにライブでも数曲が演奏されているのだが、今回のアルバムのテーマは「復讐劇」だという。70歳を超えた男の復讐劇はかな〜りヤバそうだ。お蔵入りだけは勘弁して欲しい。
PANTAの歌には知らない言葉がたくさん出てくるけど、それはそれとして聴いていてもどんどんイメージが膨らんでいく。今はピンとこなくても、ある時「そうか!そういうことだったのか」と気がつくことが往々にしてある。だから僕は40年以上何度も聴き続けているのかもしれない。その意味では僕はまだPANTAの歌を完全に理解しているわけではない。
そうだ、まだまだこれからだ。
PANTAX'S WORLDは続く。
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2023.07.12