3月25日

時代のリアルを捉えるPANTAの鋭い視点!三回忌にあたって語り継ぐべきロックスターの魅力

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1970年代、もっともセクシーなロックシンガーだったPANTA


7月7日はPANTA(中村治雄)の命日。個人的な感想だけれど、PANTAは1970年代の日本の音楽シーンにおいてもっともセクシーなロックシンガーだった。

僕がPANTAを初めて見たのは “頭脳警察” の時代だった。日付までは覚えていないけれど、たしか1970年の秋だったはずだ。大学の学園祭の野外ステージに “はっぴいえんど” と頭脳警察が出演したのだ。はっぴいえんどはファーストアルバムが出ていたけれど、頭脳警察はまだレコードが出ていなかった。それでも頭脳警察の名前は知っていたし、強い興味を持っていたからもちろん両方とも最前列で見た。

当時、はっぴいえんどと頭脳警察は表面的にはまったく異質に見えていたけれど、どこか共通点があるなあと感じていた。それは彼らが、日本語のロック、日本のロックを追求するという、当時のロックバンドとしては異端と言える姿勢を共に持っていたからだ。

はっぴいえんどはバッファロー・スプリングフィールドなどのウエストコースト系バンドの影響を受けたサウンドに、風景の中に情感をにじませていく松本隆の言葉をのせていった。それに対して頭脳警察は、TOSHIのラテン・パーカッションとPANTAのアコースティック・ギターがつくりだすシンプルだけれど激しいビートの中に鋭い言葉をぶつけていく。

そのステージはアグレッシブだけれど、なんとも色っぽさを感じさせるものだった。そしてなにより印象的だったのは、学園祭のステージで間近に見たPANTAのセクシーさだった。正直、当時テレビに出ていたどの男性シンガーよりもかっこいいのではないか。



発売中止となったファーストアルバム「頭脳警察Ⅰ」


もうひとつ、とても印象的だった頭脳警察のステージがあった。もしかしたら、こっちの方が先だったかもしれないが、場所は日比谷野外音楽堂だった。頭脳警察の演奏が始まると、赤いヘルメットにサングラスとタオルで覆面をした青年が現れ、演奏とともに “ブルジョワジー諸君‼” で始まるアジテーションを行ったのだ。

頭脳警察の代表曲のひとつ「世界革命戦争宣言」は、1969年に赤軍派によって宣言されたものだけれど、頭脳警察はこの宣言をそのままのタイトルで自分たちのレパートリーにしていたが。そしてこの日登場したのは本物の赤軍派メンバーだった。当時、赤軍派は新左翼セクトの中でも最過激派として公安警察にマークされていたから、おそらく文字通り秘密裡に行われたギグだろう。この時の緊迫感溢れる演奏と鬼気迫るアジテーションのインパクトはいまだに忘れられない。

頭脳警察は1972年3月にこの「世界革命戦争宣言」も含むファーストアルバム『頭脳警察Ⅰ』を発表する予定だったが、同年2月に連合赤軍によるあさま山荘事件が起きたことで発売中止となる。そして5月に急遽セカンドアバム『頭脳警察セカンド』を発表するが、これも発売1か月で発売禁止となった。

しかし、僕は『頭脳警察セカンド』を発禁になる前に手に入れることができて、愛聴盤の1枚になっていた。なかでもヘルマン・ヘッセの詩に曲をつけた「さようなら世界夫人よ」の抒情性には強く惹かれたし、「コミック雑誌なんか要らない」のシニカルな味わいも好きだった。そう、PANTAの己の信念と美学を貫く精神性とロマンティシズムも強く感じていたのだ。



“PANTAの世界” を広げる挑戦


頭脳警察は1975年に解散し、PANTAは翌1976年にソロアルバム『PANTAX’S WORLD』を発表する。しかし、このアルバムは頭脳警察の発展形としてのPANTAを期待していたファンには不評だった。しかし、それは無理もないことだったのだろう。

頭脳警察をスタートするにあたって、PANTAはこう考えていたという。自分が惹かれていたブルースやR&Bは、アメリカの黒人たちが凄惨な歴史の上に生み出した音楽である以上、彼らとはなんのゆかりもない自分が表面的に真似をしてもしかたがない。たとえカッコ悪くても自分たちに根差した音楽をするべきだと。しかし、ソロアーティストとして再スタートするにあたって、彼は頭脳警察とは違う自分にフィットする音楽を探す作業が必要だった。

そしてその転身は、まさにアルバムタイトル通りに “PANTAの世界” を広げる挑戦だった。だから、ここでは頭脳警察では控えていたR&Bやブルースも含め、さまざまなスタイルにチャレンジしながらPANTAならではのロックの流儀を探っていた。その意味で、頭脳警察の発展形を期待したファンは裏切られたと感じたかもしれないけれど、いま聴くと非常に興味深いアルバムになっている。



PANTA&HAL名義で発表したコンセプトアルバム「マラッカ」


翌1977年にリリースしたセカンドアルバム『走れ熱いなら』でも、PANTAはさらにサウンド面でのアプローチを深化させていった。そして、これらの成果を踏まえて1979年にアルバム『マラッカ』をPANTA&HAL名義で発表する。

『マラッカ』は、この時代の日本のロックアルバムとしては極めて珍しい社会問題をテーマとしたコンセプトアルバムだった。“マラッカ” とは、インドネシアとマレーシア、シンガポールに挟まれたマラッカ海峡のことだが、PANTAは当然ながらトロピカルなリゾートとしてではなく、アラブ諸国から日本への石油輸送ルートのシンボル・ワードとしてマラッカ海峡を描いているのだ。

もしマラッカ海峡が封鎖されたら日本はたちまちエネルギー危機に陥ってしまう。ちょうどころころ第二次オイルショックと呼ばれる石油価格の高騰があったこともあり、マラッカ海峡はシリアスな国際情勢の視点からも注目されていた。しかし、それだけではなく、このオイルルートと呼ばれる地域には、かつて欧米の植民地になったり、日本軍に占領されたりという歴史的過去もある。そして、そこには当然現地の人たちだけでなく、占領者として乗り込んでいった人たちの歴史もある。

『マラッカ』は、遠い異国に見える場所にも、じつは自分たちと密接な関係が、過去、現在、未来に渡ってあるのだ、という鋭い視点を突き付けるアルバムだった。そしてさらにPANTAは翌1980年に、80年代の東京をリアルな視点で捉えたアルバム『1980X』を同じくPANTA&HALの名義で発表した。これらの2枚のアルバムのプロデューサーが、ムーンライダーズの鈴木慶一だというのも興味深いポイントだ。





ワン・アンド・オンリーのアーティストPANTA


時代のリアルを捉える、PANTAの鋭い視点は、日本のアーティストにおいて屈指のものだと思う。そういった意味では頭脳警察のコンセプトの発展形をソロ作品でも明確に示しているのかもしれない。1980年代に入って発表された『浚渫(SALVAGE)』(1983年)、『16人格』(1984年)、『R★E★D(闇からのプロパガンダ)』(1986年)、『クリスタルナハト』(1987年)といったコンセプトアルバムにもその姿勢は貫かれている。

けれど、それは頭脳警察ファンの期待に応えるということではなく、PANTAというアーティストがあくまでも自分のやりたい音楽を貫いた結果なのだ。だから、軟弱だと当時のファンには不評だった『KISS』(1981年)、『唇からスパーク』(1982年)といったスウィートな世界も、確実にPANTAが表現したい世界のひとつなのだ。なにしろPANTAは「夢見るシャンソン人形」(1965年)で知られるフランス・ギャルの大ファンだということを公言してはばからなかったのだから。



そう、いま改めて言えることは、PANTAも時代を超えて聴き継がれ、語り継がれるべきワン・アンド・オンリーのアーティストのひとりだということだ。

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2025.07.07
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カタリベ
1948年生まれ
前田祥丈
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