1980年代、日本のヘヴィメタルは世界的なムーブメントに呼応しながら、独自の進化を遂げていった。ファンを熱狂へと導いたのは、メタル然としたリードギター、激しいドラミング、ハイトーンボーカルのシャウトだけではない。ハードでヘヴィな音像の骨格を支え、バンドの個性を決定づけたのは、ベースを操る “影の主役” たちだった。ここでは11月11日のベースの日にちなんで “低音の鋼鉄美学” と題してジャパメタ黄金期を築いた4人のベーシストをピックアップしたい。
最強プレイヤー集団、ラウドネスの個性を繋ぐ世界水準のアンサンブル能力
山下昌良(ラウドネス) ジャパニーズメタルの頂点に君臨するラウドネス。世界進出への快進撃を支えた重要な立役者が、ベーシストの山下昌良だ。ギターの高崎晃、ドラムの樋口宗孝という最強のプレイヤーと相まみえる重責の中で、山下はリズム隊としてラウドなドラミングとタイトに同期。弦楽器隊としても複雑なギターリフと華麗なユニゾンを決め、時にテクニカルなギターソロを泳がせるなど両雄を効果的に繋ぎ、その個性を際立たせた。
プレイスタイルは堅実かつしなやか。派手な技巧や過度なスタンドプレーに走らず、卓越したリズム感と指使いで、楽曲に “重さと躍動” を共存させた。低音のレンジを拡げる一方で、リズムの解像度も高めたサウンドメイキングも群を抜く。軽やかなステップでステージを駆ける動的なパフォーマンスも強い印象を与えた。バンドの土台を強固にして、繋ぐことに力点を置いた世界水準のアンサンブル能力こそが山下の真骨頂。1980年代のどの楽曲においても、その功績を存分に味わえるはずだ。
アンセムの絶対的リーダーにして、ジャパメタの精神的支柱を担うベースヒーロー
柴田直人(アンセム)アンセムの絶対的リーダーにして、ジャパメタの精神的支柱を担うベースヒーロー柴田直人は、単なるベーシストではない。ソングライター、バンドリーダーとして音楽的中核を担い、“ヘヴィメタルとは何か” を哲学のごとく問い続けた求道者。デビュー40年を経て、アンセムが今もなお “最も信頼できるジャパメタバンド" として支持されるのは、愚直に信念を貫く柴田の姿が、シーンの精神的支柱であり続けるからだ。
鋼鉄の響きを宿すベースプレイには、不屈の信念が投影されている。ピック弾きのゴリゴリした強烈なアタックは、メタル特有の推進力を与え、同時に重厚さを醸し出す。ギターリフと同等の存在感を放ち、巨大なエンジンの鼓動のごとく、バンド全体を突き動かす低音を轟かせる。一音一音に鋼鉄の魂を込めたプレイスタイルを、今に至るまでいささかも揺るがずに堅持し続けている。柴田の凄みの本質を最も実感できるのがライブだ。ステージから放たれるオーラと音圧から、ベースヒーローと呼ぶに相応しい。
アースシェイカーに “もうひとつのメロディ” をもたらすベースライン
甲斐貴之(アースシェイカー)ハードさの中に情感豊かなメロディが息づくアースシェイカーの楽曲。その感情の起伏を支えるのが、甲斐貴之の繊細で歌心あるベースプレイだ。メロディを紡ぐマーシー(西田昌史)のボーカルやシャラ(石原愼一郎)のギターと共に、甲斐のベースは常に “もうひとつのメロディ” を歌うように奏でていく。ボーカルの裏でコードの隙間を縫うように動く滑らかなベースラインは、単なるリズムとしてではなく、温もりや切なさなど様々な情景を与えてくれる。技巧よりも感情で聴かせる稀有な存在のベーシストだ。
甲斐を語る上で不可欠なのが、ソングライターとしての非凡なる才能だ。疾走メタルの「ウォール」、自らが歌う甘酸っぱくポップな「テイク・マイ・ハート」と、両極端な人気曲を手がけた。「ウィスキー・アンド・ウーマン」では、モータウンビートに自身のベースラインをフィーチャーした印象的な曲調を生み出し、代表曲のひとつとして愛され続けている。
バンドの屋台骨を長年担ったBOW WOWベーシスト
佐野賢二(BOW WOW / VOW WOW) “キンサン” の愛称で親しまれる佐野賢二は、ジャパニーズメタルが誇るレジェンド。BOW WOW / VOWWOW 両バンドを通じ、その屋台骨を長年担った。ツインギター主体による本格的ハードロックの “B” 時代(BOW WOW時代)は、ドライブ感満点の指弾きによるプレイスタイルでハードなロックンロールベースの魅力と本質を知らしめた。キーボード奏者を加え叙情的な正統派ハードロックを標榜した “V” 時代(VOWWOW時代)は、より緻密な構築性も追求。理知的でありながら荒々しさも失わない、世界水準のベーシストに進化を遂げた。
特筆すべきは、常に全身全霊を爆発させたライブパフォーマンス。スリムな長身にサングラスの個性的なルックスでステージ狭しと動きながら、観客を煽る様は実にエネルギッシュ。“B” 時代の楽曲では、しばしばシャウトを披露し、バンド内にアクティブな要素をもたらした。英国進出後の1987年に突然音楽シーンから去ってしまったが、ハイエナジーなその勇姿は、当時のライブ映像にしっかりと刻まれている。
ーー 以上、4人のベーシストを振り返ると、“名バンドには名ベーシストあり” という事実に改めて気づかされる。勿論、シーンにおける個性的で優れたベーシストは、他にも枚挙にいとまがない。当時のジャパメタを聴き直す機会があれば、ぜひベースラインにも注意深く耳を傾けてみてほしい。轟音の中から立ち上がる低音の響きに、ベーシストたちの確かな存在感と誇りが感じられるはずだ。
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2025.11.11