9月21日

今じゃ聴けない?杏里が歌うヨーロピアン風味のニューウェーブ【シティポップ・クリスマス】

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杏里のアルバム「哀しみの孔雀」(リビエラからの手紙収録)発売日
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シティポップ・クリスマス vol.1
▶ リビエラからの手紙 / 杏里
・作詞:佐藤奈々子
・作曲:鈴木慶一
・編曲:岡田徹
・収録アルバム:哀しみの孔雀
・リリース:1981年9月21日

地中海沿いに広がる風景が目の前に鮮やかに浮かび上がる「リビエラからの手紙」


クリスマスが近づいたこの季節、切ない気分に浸りたくなる方にお勧めしたいシティポップの名曲が、杏里の「リビエラからの手紙」だ。この曲は1981年9月21日に発売された3枚目のアルバム『哀しみの孔雀』に収録されている。

 リビエラの海沿いに 
 車 走らせ
 ラジオから流れる
 クリスマスメドレー

クリスマスの時期、ヨーロッパのリビエラ海岸を走る車の中で、ラジオをつけるとクリスマスソングが流れてくる。恋人と過ごした夏の日々を思い出しながら、愛が終わったことを噛み締めている主人公。別れの手紙の代わりにクリスマスカードを送り、長かった恋愛期間に決着をつけようとする。特に別れの理由は語られていないが、醒めてしまった思いは、もう二度と戻ることはない。最後に呟くように歌われる “Bon Noel”(フランス語のメリー・クリスマス)が切なすぎる。

「リビエラからの手紙」はわずか2分31秒という短さだが、ヨーロピアン調のマイナー・メロディーと、フランスの恋愛映画の1コマを見ているかのような映像的な歌詞で、フランスのニースからイタリアへと、地中海沿いに広がるリビエラ海岸の風景が目の前に鮮やかに浮かび上がる。

鈴木慶一のシンプルかつ哀愁あふれるメロディー


作詞を務めた佐藤奈々子は、大学在学中に佐野元春と出会い歌や詩を書くことを習得した。その後、1977年にアルバム『Funny Walkin’』でデビューし、以降は加藤和彦やムーンライダーズの作品にも参加。1980年にはニューウェーブバンドの “SPY” を結成している。

また野宮真貴への提供曲「Twiggy Twiggy」(1981年)がその後ピチカート・ファイヴに「トゥイギー・トゥイギー~トゥイギー対ジェイムズ・ボンド」として受け継がれ、世界的ヒットになる…といった具合に、一貫してヨーロピアン・センスの人である。

シンプルかつ哀愁あふれるメロディーは、ムーンライダーズの鈴木慶一の作曲。鈴木はこの曲を含めたアルバム『哀しみの孔雀』のプロデュースもつとめている。アレンジはムーンライダーズのキーボーディスト・岡田徹で、この時期の杏里のシングル「可愛いポーリン」や「コットン気分」の編曲も手がけた。



ムーンライダーズの面々も参加したアルバム「哀しみの孔雀」


アルバム『哀しみの孔雀』はヨーロピアンムードの楽曲で統一されており、作家陣は鈴木慶一・博文兄弟、岡田に加え、前述の佐藤奈々子、そしてシネマの松尾清憲、大貫妙子、パンタ、ハルメンズの比賀江隆男、糸井重里。もちろん演奏にはムーンライダーズの面々も参加している。

ムーンライダーズのヨーロピアン指向が始まったのは、1977年のセカンドアルバム『MOONRIDERS』以降だが、『哀しみの孔雀』の発売前年には、ヨーロッパ映画を題材にした『カメラ=万年筆』というアルバムを発表しており、まさに欧州路線ど真ん中の時期。鈴木慶一はシネマ、ハルメンズ、パンタのアルバムをプロデュースした直後で、その時の参加メンバーが『哀しみの孔雀』にも顔を揃えている。

アルバムタイトルは、スコット・フィッツジェラルドの短編集『マイ・ロスト・シティー』に収録された同名の小説からだろう。ファニーな歌い方が珍しい「セシルカット」、ニューウェーヴ色強めな「エスプレッソで眠れない」など楽曲も粒揃い。ムーンライダーズのアルバム『Istanbul mambo』(1977年)に収録されていた「さよならは夜明けの夢に」もカバーされている。

一編のフランス映画を観たかのような気持ちにさせてくれる名曲


『哀しみの孔雀』発表時の杏里は方向性を模索していた時期で、ニューウェーブ的なサウンドやヨーロピアンな世界観は、その後の彼女には見られないこの時だけのものだ。この翌年に発表したアルバム『HEAVEN BEACH』(1982年)以降、杏里の “夏” や "海" といったリゾートソングのイメージが確立され、現在のシティポップ人気まで繋がっていったのだが、『哀しみの孔雀』も、音楽性こそ違えど、シティポップ的な観点で語られることも多くなってきた。

「リビエラからの手紙」の、センチメンタルな感情を凝縮したかのようなマイナーのメロディーラインも、杏里の透明感のある乾いたボーカルで歌われると、日本的なウェットさが消え、切なさだけが際立つ。クリスマスムードに浸りながら、一編のフランス映画を観たかのような気持ちにさせてくれるのだ。真冬の冷え切った空気の中、海岸線をドライブしながら聴くと切なさも際立ってくることだろう。このシーズンならではのシティポップの名曲である。 

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2025.12.22
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