夏うたを2026年の視点で再編集 vol.7
夏のめぐり逢い / 加山雄三
シンガーソングライターの草分け加山雄三
コンサート活動引退から早4年を迎える加山雄三。その姿を拝見できる機会こそ少なくなってしまったが、2024年には幼少期から独身時代までを過ごした茅ヶ崎の名誉市民に迎えられた。茅ヶ崎市役所前の広場に黄金の銅像が建立され、除幕式に出席していた元気な姿も記憶に新しい。そして2026年、89歳となった現在もすこぶる健康で穏やかな日々を過ごしていると聞く。淋しいがもう人前で歌うことはないのだろう。しかしながら、60年以上に及んだ歌手活動における数多のレコーディング音源と、豊潤なライブ映像にいつでも接することができることは幸せだ。
絶頂期はやはり1960年代。映画『エレキの若大将』の主題歌となった「君といつまでも」のウルトラヒットで加山ブームが巻き起こり、1966年はビートルズ来日、ウルトラマン放映開始。そして、加山雄三人気の年として記憶されている。「夜空の星」「蒼い星くず」「お嫁においで」「夜空を仰いで」「旅人よ」などなどヒットを連発したが、上述の「夜空の星」「蒼い星くず」「旅人よ」はいずれもシングルB面曲だったのだから畏れ入る。しかもレパートリーのほとんどが弾厚作のペンネームによる自作曲で、シンガーソングライターの草分けでもある。
「若大将」シリーズのリバイバル上映で新たなファンが開拓
1970年代に差し掛かると次第にヒット曲から遠ざかり、本業の俳優業も映画界の斜陽で仕事が減っていた頃、親戚のホテル経営に参画していたが故に多額の借金を背負ってしまった不遇の時代もあった。さらに追い討ちをかけるように母・小桜葉子が亡くなり、スキー場での事故で大怪我を負ってしまう。それを乗り越えられたのは、1970年代半ば、久々のコンサート開催や映画 “若大将シリーズ” のリバイバル上映で新たなファンが開拓され、再びブームが到来したおかげだった。
復活の象徴といえるのはシングル「ぼくの妹に」やアルバム『海 その愛』(1976年)のヒットであろう。映画のオールナイト上映には当時の大学生たちが詰めかけ、スクリーンに向かって拍手し、共に歌った。そんな映画や歌によって、加山と海のイメージが完全に定着する。30代後半になっていた加山は彼らのよき兄貴分であった。
同じ東芝EMI(現:ユニバーサル ミュージック)所属だった荒井由実時代のユーミンや弟分のワイルドワンズと共に、湘南サウンドのキャンペーンが展開されたのもこの頃。ユーミンは八王子出身だが、歌詞やメロディーにブルジョアならではのリゾート感があり、なによりも1976年のアルバム『14番目の月』収録の「天気雨」に茅ヶ崎の老舗サーフショップ、ゴッデスが登場していたのが決め手であった。
新たなる歌世界「夏のめぐり逢い」
『海 その愛』のあとにも、『地平線の彼方』『加山雄三通り』などコンスタントにアルバムを発表していた加山は、デビュー25周年を迎えた1985年に新興のレコード会社、ファンハウスへ移籍する。冬の時代に自ら志願して加山のディレクターとなった新田和長氏が東芝EMIから独立して興したファンハウスには、氏が手がけていたオフコースやチューリップ、甲斐バンドらも追随した。
移籍した加山は4月にリアレンジによるベストアルバム『IN YOUR HEART Vol.1』を出した後、6月1日に約5年ぶりとなるオール新曲によるニューアルバム『永遠の夏』を発表する。その収録曲で、同時にシングルリリースもされたのが「夏のめぐり逢い」であった。
夏の終わりの避暑地で、ミセスになっていた昔の彼女(?)に偶然出くわすという白昼夢のような情景。とあるディスクガイドで “失楽園の一歩手前” という絶妙な解釈に思わず感心したことがあったが、不倫などといった湿り気は一切なく終始爽やかなのはさすが若大将である。既に2度のブームを超えて、いよいよ大人の魅力が醸し出されてきた新たなる加山の歌世界に詞を提供したのは三浦徳子。萩田光雄のアレンジは、当時マダムキラーとして人気を博していたフリオ・イグレシアスのキラーヒット「ビギン・ザ・ビギン」を彷彿とさせる。
円熟期にさしかかった加山雄三の魅力
お馴染みのスタンダード曲「ビギン・ザ・ビギン」は、かつて東宝ミュージカルの舞台で越路吹雪や高島忠夫がよく歌っていたナンバー。1980年代当時、高島が夫人の寿美花代と共にフリオにぞっこんだったのも頷ける。加山もこの頃はフリオのアルバムを愛聴していたそうだから、おそらくこのアレンジのアイデアは新田の計らいで萩田にもたらされたものではなかっただろうか。
当時まだ20歳そこそこだった自分にはこの歌の歌詞はそれほど刺さらなかったが、歳月を重ねて聴くとノスタルジックで妙に心に沁みる。何よりゴージャスなアレンジが映画の1シーンのような場面を鮮やかに思い描かせてくれるのだ。伊東ゆかりのカバーで知られる名歌「夏の6週間」(Six Weeks Every Summer / ドティ・ウエスト)に勝るとも劣らない、大人のサマーソングである。
収録アルバム『永遠の夏』の表題曲は売野雅勇の作詞。売野はもう1曲、やはり大人っぽい「センチメンタル・ラブソング」も書いている。もちろん名パートナーである岩谷時子も「ふたたびの恋」や「愛はめぐる」を提供。「夏のめぐり逢い」も含めて、円熟期にさしかかった加山の魅力が発揮された傑作アルバムをぜひ聴いてみて欲しい。
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2026.07.21