スリー・ストーリーズ by Re:minder
オアシス来日公演直前 ② 未完成のまま走り続けた国民的ロックバンドが帰ってくる!
再結成したオアシスの来日公演が目前に迫っている。東京ドーム2デイズを即日完売── その事実だけでも期待の大きさが伝わってくる。1990年代に青春を過ごしたリアルタイムの世代が懐かしんでいるだけではなく、彼らを知らない世代までもがオアシスに熱狂しているのだ。Re:minderではそんな彼らの魅力をスリー・ストーリーズとして展開。今回はその第2話で、サードアルバム『ビィ・ヒア・ナウ』から解散までの歩みを追ってみよう。
“ネブワース以降” の音を求めて
1997年に発表された『ビィ・ヒア・ナウ』は、当時のブリットポップを象徴するような過剰さと壮大さをまとっていた。続く2000年の4作目『スタンディング・オン・ザ・ショルダー・オブ・ジャイアンツ』では、ポップで一緒に歌えるオアシス像から一歩離れ、重厚でサイケデリックなサウンドを打ち出す。
その背景には、やはり1996年のネブワース・パークでのライブがあるだろう。2日間で25万人を動員し、オアシスは名実ともにイギリスの “国民的ロックバンド” になった。スタジアムの最上段まで音を届けるには、音圧と厚みのある楽曲が必要になる。結果として、彼らはミドルテンポで音の壁を築く方向へと進化していった。ノエル自身も “ポップソング職人” から “サウンド・アーキテクト" へと意識を変えていったように思う。そこには、少年性から脱却しようとする大人のロックバンドとしての自負もあったのだろう。
メンバーチェンジで英国インディーロックのドリームチームが結成
しかし、その変化に全員が納得していたわけではない。1999年、オリジナルメンバーのボーンヘッドとポール・マッギーガンが相次いで脱退。代わって、ヘヴィ・ステレオのゲム・アーチャーとライドのアンディ・ベルが加入。それはまるで英国インディーロックのドリームチームが結成されたかのようだった。
2002年に発表された『ヒーザン・ケミストリー』では、再び “歌えるオアシス” が戻ってくる。ギターのストロークが気持ちよく響き、メロディーラインも明快。メンバーチェンジによって演奏の厚みが増したことで、重さを引き算してもダイナミズムを保てるという自信が生まれたのだ。
この方向性は2005年のアルバム『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース』にも受け継がれている。ドラマーがアラン・ホワイトからザック・スターキー(リンゴ・スターの息子)へ交代し、ビートルズ譲りの粘りあるドラムがサウンドをぐっと引き締めている。リバプールの血がマンチェスターのロックンロールスターを再び活気づけた瞬間だった。
最後のアルバムとなった「ディグ・アウト・ユア・ソウル」
2008年の『ディグ・アウト・ユア・ソウル』は、結果的に最後のアルバムとなった。ここで再び、彼らは音の探求者に戻る。歪んだギター、厚塗りのドラム、シタールの導入── 1960年代後期のサイケデリック・ロックへのオマージュが満載だ。
この作品では、メロディーよりも “サウンドで語る” オアシスを志向している。UKロックという枠を超え、もはや “ブリティッシュ・ロックの伝統" を継ぐ存在になっていた。ただし、ファンの受け止め方は分かれた。『モーニング・グローリー』のようにシンガロングできるポップさを求めた層からは “難しい" と感じられていたが、一方で音の深みを評価する声も多かった。評価が割れたこと自体が、彼らの挑戦の証だったのかもしれない。
このアルバムを引っさげたツアーの最中、事件が起きる。2009年8月28日、フランスのフェス出演直前、楽屋でノエルとリアムの兄弟が激しく衝突。リアムがギターを投げつけ、ノエルは “もう我慢できない。バンドを辞める” と言い残して立ち去った。当然、その日のステージはキャンセル。ノエル抜きで続けられるはずもなく、オアシスはそのまま解散した。あっけなく、しかし、あまりにも彼ららしい幕引きだった。
終わらないロックンロール・スター
中期から後期のオアシスは、音楽性の変化、メンバーチェンジ、兄弟喧嘩と、常に問題を抱えていた。アルバムの完成度にもムラがあったのは事実だ。だが、そんな混沌の中でも彼らは名曲を生み出し続けた。「ライラ」「ザ・インポータンス・オブ・ビーイング・アイドル」「フォーリング・ダウン」── どれもオアシス後期を象徴する傑作だ。
結局のところ、オアシスとは、未完成のまま走り続けたロックンロールだったのだろう。栄光も混乱も抱えたまま、それでも前へ進もうとしたタフさ。そこに、いま聴いても心を掴まれる理由がある。こうしてオアシスは、紆余曲折を経ながら2009年に終止符を打った。しかし、物語はそこで終わらなかった。解散から16年を経た2025年、彼らは再びステージに戻ってくる。3話目は、現在のオアシスがどんな音を鳴らそうとしているのかを探っていく。
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2025.10.23