福生の夕焼けは赤い。
真っ赤な空に U.S. Air Force の輸送機が離陸する。ジェット・ストリームみたいと言えばロマンチックだが、輸送機のエンジン音は重低音でビリビリくる。
2007年 12月。僕は福生に住んでいた。
横田基地第5ゲートの16号を入った所。伝説のコンポラテーラー「K.ブラザーズ」近くのアメリカンハウスだ。
70年代から80年代にかけて名だたる表現者達が創作活動を行っていたという場所。RCサクセションもメンバーで住んで曲を作っていたと言われている。
その日も16号を第5ゲートから第2ゲートに向かいイージーライダー風のチョッパーチャリ「パープルレイン号」を寝そべるような格好で漕いでいた。後輪にはバイクのタイヤが装着されている。
優雅に漕いでいるとその横をフルチューンされたレース仕様のチャリがもの凄いスピードで抜き去った。サイクリングスーツに身を包みヘルメットまで装着した男が抜き去る瞬間コチラをチラッと見た!
一瞬で清志郎さんだとわかった。
遅れてマネージャーと思われる人がヒイヒイ言いながら自転車を漕いでいる。清志郎さんは既にK.ブラザーズに着いていた。
ピンと来た。
復活ライブの衣装を作りに来たんだ!
K.ブラザーズは50年代から米兵相手にフルオーダーのコンポラスーツを製作していてコンポラと 50's の生地にかけては日本一のテーラーだ。清志郎さんはここでいつもステージ衣装を製作していてお店にも写真が貼ってあった。僕も福生に来たばかりの頃に、光の加減で色が変化する60年代のデッドストック生地で玉虫色のスーツを作って貰った。
お店をそっと覗くと店主の唐鎌さんと清志郎さんが真剣にデザインを決めている。それを見守るマネージャーとK.ブラザーズの岡田さん。これは復活ライブ、凄い事になるなと直感した。でも残念ながらチケットは手に入らなかった。
武道館では、花柄のド派手ではあるが寸分狂わぬ採寸と縫製技術と着用者によって、誰にも真似出来ない品ある出で立ちで登場、「JUMP」が歌われたことを後で知る。清志郎からマントを受け取るマネージャー役が着用しているスーツもK.ブラザーズ製。奇遇な事に僕のコンポラスーツと同じ生地!
だが、清志郎さんはもういない。そして、K.ブラザーズも閉店してしまった。
清志郎さんがチャリで駆け抜けていく、その後ろ姿の線の細さが夕焼けの朱色と共に一編の詩のように脳裏に浮かぶ。きっと今でも、あの曲がり角をまがれば清志郎さんが待っている。
シフトダウンで通り抜けるあの曲がり角のところで…。
※2017年5月13日に掲載された記事をアップデート
2019.02.10
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