数々の名勝負を演出したヨコハマタイヤの挑戦
横浜ゴム(ヨコハマタイヤ)というメーカーは、つくづくチャレンジャーだと思う。世界トップを争うチャンピオンブランドのブリヂストンに対し、横浜という地名に由来するブランド名からドメスティックな印象を与えるかもしれないが、日本車と共に海外への進出も著しい立派な国際ブランドでもある。
前回も書いたがタイヤの性能差に敏感な人たちはごく一部に過ぎず、メーカーは選ばれる理由を自ら作り出さなければ、買替えニーズの競争に勝つことが出来ない。ブランディングは大きな意味を持つのだ。
ヨコハマタイヤは一部から強く支持されるメーカーである。モータースポーツの世界ではよく「雨のヨコハマ」などといわれ、特に雨中のレースで抜群の性能を発揮し、数々の名勝負を演出してきた実績もあり、その存在感を如何なく発揮し続けている。
ヨコハマを音楽で支えた和製AOR、井上鑑、安部恭弘、鈴木雄大、稲垣潤一
CMはどうだろう。圧倒的なシェアで国民的タイヤとして王道を貫くブリヂストンは、耳ざわりの良いメジャーな楽曲を採用して、カーライフの世界観を形作ってきたが、ヨコハマは常に少し個性的なアプローチを展開する傾向があった。80年代のヨコハマブランドを支えてきたのは、和製AORといえるジャンルの音楽。
1980年の大ヒット曲、寺尾聡「ルビーの指輪」「Shadow City」から始まり、そのアレンジャーでもあった井上鑑を筆頭に、安部恭弘、鈴木雄大、さらに彼らから楽曲提供を受けていた稲垣潤一とそろいも揃って東芝EMIのシティポップ路線を築き上げた「ニューウェーブ4人衆」たちの楽曲を一貫して採用し続けた。
これらの楽曲はまさにヨコハマのCMがきっかけとなって、それぞれがヒット曲となったことで、印象に残っている方は非常に多く、YouTubeには間違いなく一時代を築いたであろうヨコハマタイヤのCM曲を集めた動画が度々アップされている。
F-1チャンプ、ニキ・ラウダも出演したヨコハマタイヤCM
映像の中身はというと、登場人物はニキ・ラウダ、ポール・フレール、ロビン・ハードという、モータースポーツの世界のレジェンドたち。ドライバーがひたすらサーキットやワインディングロードをひた走るシーンに、件の楽曲たちがオーバーラップする。
知らない人にとっては「誰それ?」でも、知っている人たちなら「マジか!」と驚愕するあまりにもエッジの効いた “通な人選” とキレのあるクルマの走りっぷり、アダルトな男性ヴォーカルの対比が80年代のヨコハマタイヤの世界観を築きあげていった。
「どう? いいでしょ! でも分からん奴はついて来なくていいから」
… とでも言いたげなアプローチ。この時代のヨコハマは独自路線で攻め続け、一部のファンに強く支持される今日の姿はその結実の表れともいえるだろう。
ゴルフ用品にも進出、起用されたキャラクターは、なんとChar
そういえば横浜ゴムがPRGR(プロギア)というブランド名でゴルフ用品に進出してきたのもこの80年代であった。後発であるがゆえにゴルフクラブの開発でもユニークな製品を世に送り出してきており、今日のUTクラブの元祖、通称「タラコ」と呼ばれた肉厚のアイアンタイプの名器INTESTもヨコハマ銘柄である。
最近このプロギア製品のキャラクターとなったキャストを見て、大いに驚いた。プロゴルファーでもアスリートでもない、何とギタリストのCharの起用である。時代は変わっても、やはり何かヨコハマの音楽的な攻めの姿勢を感じざるを得ないのだ。
※2017年2月23日に掲載された記事をアップデート
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2022.03.01