しかし驚くべきは、そんな曲が25.6万枚を売り上げているという事実である。タネを明かせば、この曲、ソニーのあのカセットテープ / ビデオテープの CM ソングだったのだ。
カセットテープ版 CM の舞台は、ブロードウェイのオーディション風景。舞台の上で多くの若者が踊っているバージョンと、その中の一人ひとりをフィーチュアした2つのバージョンがある。コピーは曲名そのまま「Over Night Success」。商品はノーマルポジションの「HF」シリーズ。具体的には「HF-ES」(「AHF」の後継)と「HF-S」(同「BHF」)。
私は、この曲が入った LP『オーバーナイト・サクセス』(「テリー・デサリオ ウィズ カルボーン&ズィトー」名義)を持っているが、そのジャケットには CM のオーディションシーンがもろに使われているし、「EXECUTIVE PRODUCER」として「KAZUO YOSHIE」= CM 音楽制作会社「ミスターミュージック」の吉江一男氏の名前がクレジットされている。これらは、この曲が CM ありきのプロジェクトだったことを明確に示している。
テリー・デサリオとは、マイアミ出身の女性シンガー。高校の同級生であった「KC &ザ・サンシャイン・バンド」の「KC」とのデュエット曲『イエス・アイム・レディ』で、80年3月にビルボード2位という大ヒットを記録した人。そういう人を日本でしか流れない CM が呼び寄せるのだから、ジャパンマネーの力がいよいよ強まってくる時代だったということだ。
さて、当時のカセットテープ市場において、ソニーのライバルはマクセル。この『オーバーナイト・サクセス』とほぼ同時期に流れていたマクセルの CM で起用されていたのが、人気上昇中のワム!である。曲は『フリーダム』で、コピーは「えっへん、ハイポジション。」。商品は「UD Ⅱ」(こちらはクロームポジション)。
これは、マイケル・ジャクソン研究家としても名高い、ノーナ・リーヴスの西寺郷太氏が『噂のメロディ・メイカー』(扶桑社)という本で呈示し、検証にトライした仮説である。検証の結果については、この名著にあたっていただきたいのだが、要するに、この時期のカセットテープの CM で流れていた2曲の「洋楽」は、実は「邦楽」だった(かもしれない)ということなのだ。