9月5日

研ナオコが熱望した「夏をあきらめて」桑田佳祐が描くデカダンスの香り

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研ナオコという稀有なシンガー。今の季節に最も相応しい「夏をあきらめて」


昭和を代表する名コメディアン・志村けんがコロナ感染で惜しくも亡くなった際、過去の様々な映像が流れた。その中で演じられた多くの芸能人との名コラボの中でも、昭和・平成・令和と長くコントを作る相棒としての研ナオコのコメディエンヌにおける “世代を超えた実力” を見せつけられた。

考えてみれば、毎週のように昭和のバラエティ番組で捧腹絶倒のコントを繰り広げた後、「愚図」などのシリアスなロスト・ラブソングを切々と歌う真逆の方向性をいとも当たり前のように、TVの前のお茶の間に成立させていたのは、冷静に考えてみれば普通有り得ない唯一無二の個性と言い切れる。

そして、その凄さを声高に言うこともなく、確かな仕事を続けてきた研ナオコという稀有なシンガーの存在は、他に比類なき輝きを今も放ち続けているのかもしれない。    

彼女の数多いヒット曲の中でも、現在この季節に最も相応しい楽曲は、何と言っても「夏をあきらめて」という方が圧倒的に多いのは想像に難くない。

元々1982年7月21日発表、サザンオールスターズのアルバム『NUDE MAN』収録曲であったのを、研がスタッフとの会食中に聴き、カバーを熱望。シングル発売が同年9月5日であったことから、本当に夏の終わりのリリースに間に合わせるようなスピード感を持って制作されたのが伺える。



研ナオコのハスキーな声と桑田佳祐の底知れぬ才能


「私がこの楽曲を歌えばヒットする」と考えたように、研のハスキーで表現力豊かな声が、ミデイアムテンポでメロウな曲想に合い、文字通りのヒットを記録するが、それ以上に今も聴かれ続けているスタンダートにまで昇華した名曲と呼ぶべきか。同時にソングライティングを担当した桑田佳祐の底知れぬ才能をもアピールすることに繋がったのも付記したい。

ただ80年代当時に、この楽曲をサザンや研、それぞれのバージョンを聴く中で、それまでの桑田が書いてきたバラードと何か質感が異なると感じた方も少なくないのではないか。

「勝手にシンドバッド」で衝撃のデビューを飾ってから、例えバラードであっても、桑田自身の言葉を借りると、何かしら「胸騒ぎ」がするエモーショナルな要素が漂うのが彼の楽曲の持ち味であったのが、あえて衝動を排除したかのような印象を当時から受けていた。

セクシャルな言葉を選択しながらも、何故か肉体性は欠如させる。しかも全体の湿度だけは高く焦燥感は濃厚な設定は、何か舞台の不条理劇にも似ている。多分桑田は、この楽曲の背景にデカダンスの退廃的な匂いを加えたかったようにも考えてしまう。例えるなら、フェデリコ・フェリーニ監督の映画『甘い生活』のような何か甘やかに堕ちていくような世界観… を、描きたかったようにも思えてならない。



「夏をあきらめて」の背景と研ナオコの慧眼


そこで興味深いのは、研ナオコにとって最重要のソングライターは、多数の名曲を提供した中島みゆきに他ならないが、中でも単なる悲恋に留まらない人間の宿縁を受け入れて生きていく崇高さをも表現した「かもめはかもめ」、更に研が尊敬するシンガーとして幾度となく語り、人気TVドラマ『相棒』にゲスト出演した際のジャズシンガーの演技造形にもそのイメージが浮かんだと語っている浅川マキの人気曲は「かもめ」であった。この「かもめ」というキーワードが持つ、さまよいながら生命力を込めて空を飛び、海で羽根を休める姿は、研が歌い続けてきた主人公達にも重なるかのようだ。

だからこそ、「夏をあきらめて」の背景となっている夏の海には、かもめの姿が見受けられない、明らかな異世界の中での新しさを当時の我々は感じたのではないだろうか。

更に言うと、終末物のSF映画のように、他の生物は消え失せて、登場人物二人だけが取り残されたかのように解釈することすらも可能でもある。恐らくその荒涼とした世界だけが持つ残酷な美しさまでも描いたかのような楽曲は、今もなお永遠に届かない “晩夏の蜃気楼” のように揺らめいている。ここにデカダンスの香りを感じ取った研の慧眼は改めて評価せずにはいられない。

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2022.09.05
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カタリベ
1966年生まれ
吉留大貴
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