平成生まれが全力でおすすめする “薬師丸ひろ子” の名曲10選！

薬師丸ひろ子さんは、11月に「セーラー服と機関銃」で歌手デビューしてから40年を迎えました。女優としての活躍は言うまでもないですが、レコードデビュー40周年を記念するこのタイミングで今大衆に求められているのは、あらためて薬師丸ひろ子さんの楽曲そのものを並べてみて、“歌手としての彼女の魅力にふたたび気づくこと” ではないでしょうか？

ということで今回は、平成生まれの後追い世代が曲単体を聴いて全力でおすすめしたい薬師丸ひろ子さんの楽曲10作品を紹介したいと思います。

ジャンヌ・ダルクになれそう（「古今集」より）

薬師丸ひろ子さんには、その透き通った歌声や神秘的な表情からも穢れなき聖女のような印象があります。その楽曲の題材としてジャンヌ・ダルクはうってつけ！ 一体どんなミステリアスで荘厳な曲なのかと思いきや、サウンドはポップで明るい曲調、歌詞も「あなたのために 私だっていざとなったら ジャンヌダルクになれそう 愛しているから」という10代の女の子らしくかわいらしいもの。このテーマと内容のミスマッチ具合が、ミステリアスな薬師丸ひろ子さんの中にある年齢相応の可愛らしさを表現しているようで、くせになる一曲です。

Woman “Ｗの悲劇”より

神聖かつミステリアスな薬師丸ひろ子さん自身の魅力を、最大限に引き出した一曲。イントロはまるで川面がキラキラと反射し、美しく輝いているかのよう。サビの浮遊感ただようコード進行には、途方もない向こう岸を遠目に、その川に船がゆっくりと流されていくような奥行きが感じられます。曲全体が生命や自然を超越した世界観を感じさせるせいか、個人的には聴くたびに、“三途の川” にイメージを重ねてしまいます。

こちらについて詳細に語っている村上あやのさんのコラム『薬師丸ひろ子「Woman “Wの悲劇”より」80年代を代表する松任谷由実の名曲』も、ぜひご覧ください。

あなたを・もっと・知りたくて

もしもし、わたし、誰だかわかる？
―― この薬師丸ひろ子さんのいたずらっ子ぽいセリフ、「きっと好きな人だけに見せるんだろうなぁ……」と思うと可愛くてドキドキします。

それはそうと、平成生まれの私がもし昭和に生まれたら、絶対にすると決めていることが一つだけあります。それは、好きな人に電話をかける時に「もしもし、わたし。誰だかわかる？」をすること。

私自身相手の名前があらかじめ表示される電話からしか使用したことがなく、むしろ最近では知らない番号からの電話は出ないという人も多いと思います。誰かわからないからこそ生まれるロマンは、現代では実現不可能になってしまいました。今こそ聴きたい、乙女チックさとドリームにあふれる楽曲だと思います。

スマッシュ・ボーイの微笑み（「夢十話」より）

パコーン！ というテニスボールを打つ音から始まる曲。落ち着いた印象のある薬師丸ひろ子さんのイメージからするとアイドル的でちょっとギャップのあるテーマですが、どちらかというと清純で折り目正しく汗をかくテニスという感じ。曲の内容としては “スマッシュ・ボーイにテニスでは勝てないけれど、いざドレスアップしたら困るのはあなたよ♪” というちょっと負けず嫌いなおませな女の子という感じで、曲もアップテンポでかわいらしいです。

「ジャンヌ・ダルクになれそう」もそうですが、20歳前後ですでに見た目も歌声もどこか大人びている薬師丸ひろ子さんが見せる年相応なかわいらしさにドキッとさせられます。

花のささやき（「花図鑑」より）

モーツァルトのピアノ協奏曲第23番の第２楽章に松本隆さんが詞を付けたもの。哀しみがしっとりと横たえているけれど決して苦しみはない、まるで今際の際に窓辺から光がさすようなメロディです。そこに薬師丸ひろ子さんの女神のような歌声で「天国の扉が 静かに開いて 天使たちが歌う ようこそここへ」と唱えるのですから、それはもうどこか違う世界へ連れて行かれそうな気分になります。最後には鳥のさえずりが聞こえてくるものだから、怖いくらいの穏やかさを与えて曲が終わります。すごいまとめ方です。「Woman “Ｗの悲劇”より」しかり、声という楽器で死生観を表現させたら、この方の右に出る人はいないのではないでしょうか。

恥ずかしながら不勉強でこの原曲を知らず、「すごい曲だなぁ……」と思って調べたらモーツァルト大先生だったので「そりゃそうだ」ととても驚きました。

紳士同盟

主演した映画『紳士同盟』の主題歌。「なんてね」という言葉のあとに、「カッコつけてエラそうだわ あなたの目が～」から楽曲の雰囲気がガラリと変わることで、一気に耳を奪われる。不穏でつかみどころのないマイナー調のメロディーとメジャー調のクラシカルなメロディーとの切り替わりが、ミステリアスな薬師丸ひろ子さんと「なんてね」と冗談めかしていういたずらな薬師丸ひろ子さんに聴衆もまた翻弄されるかのよう。

でも「あなたを・もっと・知りたくて」の「誰だかわかる？」同様、もっと彼女の手のひらの上で翻弄されたいという気持ちになるのも事実。あらためて不思議な魔力をお持ちの方です。
映画のストーリーを絡めての考察は彩さんによるコラム『薬師丸ひろ子「紳士同盟」映画と見事にリンクした場面転換の魔力…なんてね』をぜひご覧ください。

未完成（「星紀行」より）

作詞・作曲が中島みゆきさん。なんといってもサビの「歌い方を教えてくださらないから」という言い回しが耳に残ります。言葉づかいのひとつで、この二人がいったいどういう関係性なのか、という想像が膨らみますね。こちらについては臼井孝さんによるコラム『「女優・薬師丸ひろ子が歌う中島みゆきの世界、アルバム「星紀行」収録の「未完成」』にその魅力がより言及されていますのでぜひご一読ください。

余談ですが、松任谷由実さん、中島みゆきさん、竹内まりやさんという女性三大シンガーソングライター全員から楽曲を提供されいて、かつすべてハマっている人というのもかなり珍しいのではないでしょうか。

終楽章

別れを告げることになってしまった側の辛さを描いていて、違う人が歌っていれば “自分勝手な女性の曲” ととられても全くおかしくないテーマなのですが、薬師丸ひろ子さんの真摯な歌唱を聴くと、現実では振って前に進まなければいけない側もものすごく苦しくて辛いということを実感させてくれます。「終楽章」というタイトルも秀逸です。

作詞・作曲は竹内まりやさん。友達と恋人という枠組みの中で惑う曲を描かせたらさすがという感じです。竹内まりやさんバージョンだとまた印象が違うのでぜひこちらも。

つばめが飛んだ空（『LOVER'S CONCERTO』より）

離れ離れになって別れた昔の恋人を思い出すというテーマ。別れることになったときはきっとたくさん泣いたけれど、今では「いい想い出ばかりが浮かんでくる」「東京の空がまた好きになれそう」というポジティブな回想ソングです。今回は泣く泣く挙げられていない薬師丸ひろ子さんの名曲「元気を出して」もそうですが、彼女の温かい歌声は、まずは傷ついた事実を受容したうえで、自分（や相手）の背中をそっと押すようなシチュエーションが非常に似合っている気がします。作曲は来生たかおさん。

戦士の休息（「Cinema Songs」より）

町田義人さんのカバー。薬師丸ひろ子さんの映画デビュー作「野性の証明」の主題歌ですが、これを2016年に薬師丸ひろ子がカバーしています。
そもそも平成生まれの私が最初に歌手としての薬師丸ひろ子さんを認知したのは、2008年公開の『うた魂♪』という映画でした。合唱部の顧問兼伝説のストリートシンガー役を務めていた薬師丸ひろ子さんは、劇中で尾崎豊さんの『OH MY LITTLE GIRL』を歌っていたのですが、オリジナル楽曲の無骨さをすべて包み浄化するような歌唱にすっかり聴き入ってしまったことを覚えています。「本当に歌がうまいってこういうことなんだ」という実感を持った対象は、私にとってこの時の薬師丸ひろ子さんが初めてでした。

前置きが長くなりましたが、彼女のカバーは原曲にとにかく忠実なのにオリジナリティにあふれているという不思議な魅力があります。『OH MY LITTLE GIRL』は配信されていないのが残念ですが、ぜひ薬師丸ひろ子さんのカバー曲も多くの人に聴いてほしいということで、カバー曲の中でも感動したこの曲をピックアップしました。町田義人さんによる「男のロマン」に対する、女性側からのアンサーソングのようにも感じられます。


―― 以上、後追い世代の平成生まれが選ぶ薬師丸ひろ子さんの名曲10曲を列挙してみました。聴いてみようと思っていたけれど、何から聴いていいかわからない！ あるいは、あらためて聴いてみようと思っていた！ という方々の参考になれば嬉しいです。

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2021.12.05