2021年 11月21日

魂を救済する女神、薬師丸ひろ子の “これまで、現在、そしてこれから”

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「胸の振子」で紐解く薬師丸ひろ子の神秘性


80年代の “薬師丸ひろ子” という現象は何だったのだろうかと、思う。

シンガーとしては松田聖子・中森明菜と比肩するクオリティーの高い作品と売上実績を残し、女優としては年間配収の上位に常に食い込む映画に連続して主演する。シンガー・女優の両面で頂点に座した80年代のトップ・オブ・トップのアイドルというのが薬師丸ひろ子の通り一遍の説明になるだろうが、そのような説明だとこぼれ落ちるサムシングがある。

薬師丸ひろ子をリアルタイムで体験した人ならわかるだろうが、当時の彼女には、凡俗を超越した “なにか” が常に漂っていた。

それは神秘性、荘厳さといえばいいのだろうか。そこにいるのはただの少女であるにもかかわらず、私たちは、メデイアの向こうの彼女に相対するとき、仏像や御神体と相対するときのような “なにか” を感じ取っていた。

もっとありていにいえば、彼女はいつも光背が輝いていたし、彼女の周りにはいつも彼岸の紫煙がたゆたっていた。

そんな薬師丸ひろ子の独特のアトモスフィアを、1987年10月10日発売のシングル「胸の振子」を一例として掘り下げつつ、語ってみたい。

色恋の深い泥海になずんでいた伊集院静と玉置浩二


「胸の振子」は、作詞は伊達歩こと伊集院静、作曲は玉置浩二が担当している。このふたりにはある共通がある。ふたりとも直前に男女関係のトラブルがあったということだ。

1985年、伊集院静は妻・夏目雅子を急性骨髄性白血病で失う。前妻、桃井かおりをまじえた泥沼の四角関係の末、時に夏目に堕胎まで強要して、ようやくたどり着いたふたりの結婚生活は、わずか1年でピリオドを打つ。

自らが引き寄せた因果なのだろうか、夏目の死後しばらく伊集院は、生きることも死ぬこともどうでもよくなり、とてつもない借金を繰り返しては、喧嘩、ギャンブル、酒浸りと、荒れた日々を送ったと自ら告白している(当時、彼が手掛けた近藤真彦のヒット曲「愚か者」「さすらい」はまさに彼自身の心象風景だったのだろう)。

一方、玉置浩二は1985年に石原真理子との不倫スキャンダルが発覚、さらに翌86年2月には石原真理子へのDV騒動を経て、9月の石原による破局会見へと至った。この顛末は後に石原真理子が自著『ふぞろいな秘密』で語っており、その内容のおおむねを玉置は認めているので、ここで多くを語る必要はあるまい。

つまり、ぬきさしならぬ色恋の深い泥海になずんでいたふたりの男が、この歌を作ったのである。そこで薬師丸ひろ子「胸の振子」を、聴いていただきたい。

 ねぇ 神がとがめたって
 あなたを守るわ
 夢に傷ついたら 抱いて寝るわ
 千の剣だって 私は受けるから
 ずっと そばで
 あなた 生きてほしいの

萩田光雄の壮麗な弦アレンジによって滑り出すこの歌の、なんて美しいことだろう。

すべての罪を洗い清めるような崇高さ、神々しさ。

背筋がぞくぞくして、こんな素晴らしいものを私のような凡俗の人間が聞いていいのかと、ひれ伏したくなる。

この歌は、まるで泥中の蓮だ。

きっと伊集院静も玉置浩二も、あの時、薬師丸ひろ子に救われたかったのではなかろうか。

聴く者すべての心を射抜く歌


小説家・詩人・音楽家・画家…… 肩書はなんでもいい、芸術的な何かを生み出す者というのは、古今東西問わず、常人よりとりわけ煩悩にまみれ、弱く、愚かで、間違いを犯しやすい。彼らはあらゆるものを傷つけ、そして自らも傷つけ、進んで地獄の底へ堕ち、血を吐き、のたうち回る。このときのふたりの男もそうだったのではなかろうか。

俗界の最も汚れたところにいたふたりの愚かな男が、地の底から祈るように天上を仰ぎ見る、その時に見た女神の慈悲の微笑。「胸の振子」はそういう歌に私には聴こえる。

薬師丸ひろ子は、歌うことで、ふたりの男の魂の救済している。その潔さすら感じるまっすぐな想いは、ふたりに限らず、聴く者すべての心をど真ん中で射抜いてくる。

まるで賛美歌のように、聴くだけで赦されたような、わけもなく泣きたくなるような気持ちになるのだ。

この曲の後日談として、伊集院静、玉置浩二ともに薬師丸ひろ子と噂になるのも、そして玉置浩二とは結婚まで行き着くのも、やむなしと言わざるをえない。薬師丸ひろ子という女神の恩寵に包まれたのなら、そりゃ崇拝し、信者となるしかあるまい。

現在も衰えることがない薬師丸ひろ子の女神性


芸能というのは、聖と俗をつなぐパイプである。舞台の上に立つ者は、神の依り代=巫女である。薬師丸ひろ子は、誰に学ぶでもなく生得的にそのことを知っている。

そして、彼女に関わった多くのクリエイターたちも、薬師丸ひろ子という存在の通奏低音に気づいている。

振り返ってみれば、デビュー映画の『野性の証明』の薬師丸演じる頼子も、映画『ねらわれた学園』の主題歌としてユーミンが捧げた「守ってあげたい」の歌の主人公も、そこにいるのは少女でありながら “救済の女神” であった。

彼女の残した歌たちもそうだ。「Woman “Wの悲劇”より」「天に星、地に花」「元気を出して」「花のささやき」「かぐやの里」「時代」「うたかた」「バンブー・ボート」「A LOVER’S CONCERTO」「HEART’S DELIVERY」「夕暮れを止めて」「星の王子さま」…… 薬師丸ひろ子は、時の岸辺に凛として立ちながら、慈悲深く人の心に寄り添い、聴く者の傷を癒やしていく。

その女神性は現在もいっさい衰えることがない。昨年のNHKの連続テレビ小説『エール』での薬師丸ひろ子の「うるわしの白百合」の独唱が多くの視聴者の感動をさらったのは記憶に新しいことである。

混沌と迷宮の時代に響く薬師丸ひろ子の歌声


いっとき歌の世界から離れていた薬師丸ひろ子が、再び歌いはじめたのは10年前の2011年だ(主演映画『わさお』の主題歌「僕の宝物」とベストアルバム『歌物語』のリリース)。

この10年は、東日本大震災に始まりコロナ禍に終わる、混沌と混迷の、予測不可能な10年であった。

そのような時代だからこそ、わたしたちは再び薬師丸ひろ子の歌が必要となり、そのために薬師丸ひろ子は女神として再び降臨したのかもしれない。

闇の中の一条の光として、薬師丸ひろ子の歌は今まさに、朗々として世に響いている。

薬師丸ひろ子 歌手活動40周年記念

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2021.12.11
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