トム・ペティの訃報を知った日の帰り道、雲の切れ間にぼんやりと月が見えた。その夜、『フル・ムーン・フィーバー』を引っぱり出したのは、そんなことも影響していたのかもしれない。
アルバムは名曲「フリー・フォーリン」から始まる。不良少年と真面目な女の子の恋。自由への憧れ。リシーダ、ヴェントゥーラ・ブールヴァード、マルホランドなど、歌詞に出てくるアメリカ西海岸の地名が郷愁を誘う。心地よく、そしてノスタルジックなナンバーだ。
6年前、トム・ペティの大ファンだった友人が亡くなったとき、僕はこの曲を聴いた。翌日に引越を控え、たくさんのダンボールに囲まれた部屋で。
あのときの僕は結婚することが決まっていて、引越は妻と新しい生活を始めるためのものだった。新居でかける最初の曲は、トム・ペティの「フリー・フォーリン」と決めていた。でも、友人の死がそれを1日早めた。
引越当日、荷物をすべて運び込むと、手伝ってくれた先輩がレコードを聴こうと言った。記念日だから1曲づつ選んでかけようという。先輩が選んだのは、デュアン・オールマンが歌う「プリーズ・ビー・ウィズ・ミー」だった。僕は少し迷ってから、やはり「フリー・フォーリン」をかけた。「これは僕にとって希望の歌なんです」と言うと、先輩は僕の方を向いて「そうなんだ」と言った。
妻とふたりで一から始める生活に、僕は希望を抱いていた。まだ何も決め事がないことが自由に思えた。そして、死にもまた自由な側面があるのかもしれないと思った。
僕は自由 自由に落ちていく
トム・ペティの震えるような歌声。祝福のための「フリー・フォーリン」、レクイエムとしての「フリー・フォーリン」。正反対のようでいて、どちらも同じような気がした。
2017年10月2日、トム・ペティは66歳でその生涯を閉じた。訃報を知ったとき、僕はひどく悲しかった。でも、帰り道の空にぼんやりと浮かんだ月を見たとき、感謝の気持ちの方がまさっていた。
その夜、僕は『フル・ムーン・フィーバー』を聴いた。「フリー・フォーリン」はもちろん、すべての曲から、トム・ペティがリラックスして音楽を楽しんでいるのが伝わってきた。なんだか泣けてしまった。嬉しくて泣けたのだ。
だから、もう悲しむことはないと思う。こんなにも懐の深いロックンロールを残してくれて、ありがとう。トム・ペティの魂に祝福あれ。
2017.10.08
YouTube / TomPettyVEVO
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