山田太一作の傑作! TBSドラマ「岸辺のアルバム」
相変わらず不倫報道が多い。もういいじゃん、放っておいてあげなよと思いつつ、不倫したのが妻側だと、どうしても山田太一作の傑作ドラマ『岸辺のアルバム』を思い出してしまう。
幸せそうな中流家庭の崩壊を描いた、このドラマ。貞淑を絵に描いたような妻(八千草薫)が不倫に走ることで、放送された当時大きな話題となった。
不倫相手は、アンケートと言って、あやしい電話をかけてきた男(竹脇無我)。1日の大半を家で過ごす専業主婦ならではの出会いだ。真っ昼間にあんな電話をかけてきて、連れ込み(ラブホのこと)にやって来る中年男。この人、仕事だいじょうぶ? 窓際社員なんじゃ。私なら、そんなことが気になっちゃって、不倫に没頭できそうもない。
オープニングテーマは、ジャニス・イアン「ウィル・ユー・ダンス」
主題歌は、ジャニス・イアンの「ウィル・ユー・ダンス」。1974年に実際に起きた多摩川水害の映像をバックに、ジャニスの珠玉のメロディーが流れる。子どもの頃に見たときは、家屋が濁流にのみ込まれる映像と、美しいメロディーの対比が衝撃で、なぜこの歌を? と思ったものだ。
あとあと、歌詞の意味を知った。この歌、「誰かが泣いている」「誰かが嘘をついている」「死者と死のために書かれた預言者の言葉」など、不穏なワードがいっぱい。美しいメロディーに恐ろしい歌詞をのせた「ウィル・ユー・ダンス」×完璧に見える家庭の真っ暗な内側を描いた『岸辺のアルバム』。ぴったりな主題歌だ。
それにしても、台風で家が流されることを冒頭でとっとと視聴者にバラすのって、ほんと掟破り。起承転結の “転” を先に見せるってことじゃ? さらに、エリート商社マン夫の闇商売、貞淑な妻の昼下がり不倫、聡明な娘の妊娠・中絶で、視聴者を引きつける。
このあと、台風来て、家流されるんでしょ? いったいどうなるの、この家族! と、そりゃブラウン管に釘づけにもなる。
ラストは、まさに雨降って地固まるとなるのだが、ドラマ好きの友人とアフター岸辺について語り合うと、「いやー、あの夫婦は別れたでしょ。あの夫は、妻を許さないよ」という結論になる。
これって30年越しの続編? フジテレビドラマ「ありふれた奇跡」
だが、岸辺から32年後、山田太一は私たち岸アルファンにその続きを用意してくれた(と勝手に思っている)。
2009年にフジテレビで放送された、山田太一作の連続ドラマ『ありふれた奇跡』。ヒロイン仲間由紀恵の祖母は、岸辺のヒロイン八千草薫。その薫おばあちゃん、息子の嫁に「私もあなたくらいの歳におかしくなった。人の夫に恋をした。相手はつまんないやつだった」なんて語るのだ。
もしや、このおばあちゃんこそ、岸辺の主婦のその後では? そうか、息子一家と暮らしたんだね。夫は先に亡くなったのね。と、細かいディティールは違うのに、そこに『岸辺のアルバム』を重ねてしまう。『ありふれた奇跡』の息子役は岸部一徳だが、『岸辺のアルバム』で息子役だった国広富之を重ねてしまう。
はっ、“きしべ” 一徳!? これは単なる偶然なのか。やっぱり、そうですよね、山田先生? これは、アフター岸辺ですよね?
いろいろあったけど、岸辺の主婦は夫と息子に許してもらえたんだねと、私なりに勝手に納得するのだった。
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2020.09.30