TUBE最大のセールスを記録した「夏を抱きしめて」
災害級ともいわれる暑さがすっかり風物詩になりつつある日本の夏。梅雨が明けると待っていたのは灼熱のような酷暑だった―― と小説でも書きたくなるような暑さに連日見舞われているが、今から29年前の1994年の夏も記録的な猛暑が襲ったという。
そんな夏に大ヒットしたのがTUBEの「夏を抱きしめて」だ。
実はこの曲が彼らにとって最大セールスを記録したシングルでもある。かの有名な「あー夏休み」がチャート最高順位10位、TUBEのシングル全作品でも16番目のセールスに留まるのはちょっと意外だが、言いかえれば「あー夏休み」よりも売れたシングルが15曲もあって、そのうち「きっとどこかで」「情熱」を除く13曲が夏をテーマにした曲なのだから、日本が誇る夏バンドはダテじゃない。
デビュー当初から夏にまつわる楽曲を数多く歌ってきたが、初期は織田哲郎をはじめとする作家による提供曲が大半を占めていた。しかし本人達の強い意向により、89年を境にしてギタリスト・春畑道哉がメインコンポーザーを務める体制を確立。一定のキャリアを積んだ後にバンドの根幹でもあるコンポーザーの変更に踏み切るのは異例だが、この決断が更なる飛躍へとつながった。
その後は毎年夏になると「さよならイエスタデイ」「ガラスのメモリーズ」といった大ヒットを連発。「夏を抱きしめて」は、トップアーティストとして絶頂期にあった94年5月にリリースされた。
TUBEのヒット曲のなかでも随一の疾走感を持つ王道ポップス
TUBEといえば「あー夏休み」に代表される “ラテン歌謡” 的なサウンドがひとつのスタイルとして定着しているが、この「夏を抱きしめて」はTUBEのヒット曲のなかでも随一の疾走感を持つ王道ポップスに仕上がっている。
当時はタイアップ全盛期。本曲もトヨタ・カローラセレスのCMソングとあって、とにかくサビの印象が強い楽曲である。だが、本質はむしろAメロ、Bメロを含めた全体の “流れ” にあると主張したい。
涼しげな音色のキーボードとギターのアルペジオで始まるイントロからAメロにかけてはバラードのようであり、前田亘輝のボーカルもどこか控えめに聴こえるが、サビ終わりの「♪好きだよ」の一節を合図に、堰を切ったように開放感のあるアレンジに切り替わる。
まるで夏へと続くトンネルをくぐり抜けたような爽快感はこれぞTUBE! と叫びたくなるほど心地よく、無性に夏の海岸線をドライブしながら聴きたくなる。
夏を感じさせてくれるメロディとアレンジ
何が凄いって、歌詞に夏っぽいフレーズを散りばめるだけではなく、TUBEはメロディやアレンジでも夏を感じさせてくれるのだ。聴いているだけで眩しく照りつける太陽と雲ひとつない青い空、海がはっきりとまぶたに浮かぶから不思議である。
ラストに向かうにつれて右肩上がりで盛り上がりをみせる楽曲展開も本曲の聴きどころだ。
僕の腕の中
無邪気に笑う君を守りたい
この想いは変えられない
いつまでも
愛する人への決意を固くする主人公。直後の間奏では春畑道哉のダイナミックなギターソロがドラマチックに演出する。さらに、これでもかと畳み掛けるクライマックスの大サビは歌詞にも注目してもらいたい。
この愛信じて
熱く揺れてる夏を抱きしめて
越えてゆける
秋も冬も
彼らのイメージにはそぐわない「秋」「冬」というフレーズによって、これが勢い任せの恋ではなく、先を見据えた本気の恋なのだと伝わる。デビュー時から「夏バンド」としてのキャリアを一貫してきたTUBEならではの、イメージを逆手にとった手法と言えるだろう。
日本の夏にはビールとTUBEは欠かせない
ひとりの男の一途な想いを描いた本作は、野太さと透明感が両立した人間国宝級のロングトーンでエンディングを迎える。とにかく歌がうまい。ビックリするほどうまい。こんなに伸びやかなロングトーンを操れるボーカリストは前田亘輝を置いて他にいないのではなかろうか。
それを彩るように鳴り響く春畑のギターと共に、フェイドアウトしていくアウトロ……。完璧だ。どんなに心が曇っていようと、この曲を聴けば力がみなぎってくる。そう、まるで燦々と輝く太陽のように。
この爽やかなサウンドを楽しむには今年の夏はちょっと暑すぎるが、それでもやっぱり日本の夏にはビールとTUBEは欠かせない。「夏を抱きしめて」を聴きなおし、あらためてTUBEの夏バンドっぷりに感嘆した次第である。
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2023.08.11